第八話:キララチューブの応戦! 天才少女への本気度
深夜のキララエンターテイメント、クリエイターサポート部。
フロアには、普段ならとっくに消灯しているはずの明かりが煌々と灯り、ピザの空き箱や栄養ドリンクの空き缶が散乱していた。その中心で、数人の部員たちが、一通のメールを食い入るように見つめていた。
それは、数時間前に「K」と名乗る人物――例の流出動画の制作者――から届いた返信メールだった。
「…来たぞ!!」
最初に声を上げたのは、部長の東雲翔真だった。彼の声には、抑えきれない興奮と、確かな手応えが滲んでいた。
その一言で、仮眠を取っていた他の部員たちも一斉に目を覚まし、モニターの前に集まってくる。
「読ませてください、部長!」
「なんて書いてあるんですか!?」
部員たちの期待に満ちた視線を受けながら、東雲はメールの内容を読み上げた。
『KiraraTube運営事務局 ご担当者様
この度は、ご連絡いただき、ありがとうございます。
また、今回の動画流出の件に関しましては、現在もなお、大変遺憾に思っております。
今後のことにつきまして、貴社からのご提案内容、拝見いたしました。
いくつか確認させて頂きたい事項、並びに、こちらからの要望がございます。
詳細につきましては、改めてこちらからご連絡させて頂きたく存じますが、まずは以下の点について、明確にご回答いただけますでしょうか。
1.私のプライバシー保護(本名、年齢、居住地、その他一切の個人を特定しうる情報)の完全かつ永続的な保証。これには、貴社内部での情報管理体制の徹底と、万が一の漏洩時の責任の所在の明確化を含みます。
2.アーティスト活動を行う場合の契約形態、及び報酬体系の具体的な提示(成功報酬型、固定報酬型など、複数の選択肢とその詳細な条件をお願いします)。また、楽曲や映像の著作権の帰属についても明確にしてください。
3.活動内容(楽曲制作、動画制作、プロモーション戦略等)における、私自身の完全な主導権の確約。貴社からの提案は歓迎しますが、最終的な決定権は全て私にあるものとします。
4.活動期間や頻度に関する柔軟な対応。学業との両立を最優先とさせていただきます。
上記全ての項目にご同意いただけない場合、これ以上の協議は致しかねます。
なお、直接お会いしての面談や、音声・ビデオ通話は、現時点では控えさせて頂きたく存じます。まずはメールでの誠実なご対応をお願い申し上げます。
K より』
メールを読み終えると、フロアには一瞬の静寂が訪れた。
そして、次の瞬間。
「「「よっしゃあああああああああ!!!」」」
抑えきれない歓声が、深夜のオフィスに響き渡った。ハイタッチを交わし、肩を叩き合う部員たち。無理もない。絶望的な状況から一転、ついに天才少女との交渉のテーブルにつくことができたのだ。
「やった…やったぞ、みんな!」
東雲も、思わずガッツポーズを繰り出した。彼の目には、うっすらと涙さえ浮かんでいるように見えた。
しかし、その興奮も束の間。東雲は、パン、と手を叩いて部員たちの注目を集めた。
「…だが、落ち着け! ここからが本当の勝負だぞ!」
彼の表情は、先ほどまでの興奮から一転、冷静沈着なプロデューサーの顔つきに戻っていた。
「このメールを見てみろ。ただの少女じゃない。こちらの足元を見透かした上で、的確かつ厳しい要求を突きつけてきている。プライバシー保護の徹底、契約形態と報酬、著作権、そして活動の主導権と学業優先…どれも我々にとって簡単な条件じゃない。だが、彼女は本気だ。そして、我々も本気で応えなければ、このチャンスは掴めない」
東雲の言葉に、部員たちの顔も引き締まる。
そして東雲は、ホワイトボードに「K様への回答案」と大きく書き出し、部員たちと具体的な条件を詰めていった。
彼女の要求一つ一つに対して、どうすれば満足のいく回答ができるか。どこまで譲歩し、どこで利益を確保するか。それは、まさに社運を賭けたギリギリの交渉だった。
「まず、プライバシー保護。これは絶対だ。法務部と連携し、最高レベルの情報管理体制を構築する。万が一の漏洩時のペナルティについても、具体的な条項を盛り込む必要があるだろう」
「契約形態と報酬、著作権ですね…」一人の部員が呟く。「これだけの才能だ、相応の条件を提示しなければ納得してもらえないでしょうが、会社としてどこまで踏み込めるか…」
「そこは、我々の腕の見せ所だ」と東雲は力強く言った。「彼女の才能を正当に評価し、かつ、我々もビジネスとして成功できるような、双方にとってウィンウィンなスキームを構築する。著作権についても、彼女の権利を最大限尊重する方向で検討しよう」
「活動の主導権と学業優先…これは、我々がどこまで彼女のクリエイティビティを信じ、サポートに徹することができるか、という問題ですね」
「その通りだ。我々はプロデューサーであり、サポーターだ。彼女の才能を縛るのではなく、自由に羽ばたかせるための環境を提供する。それが我々の仕事だ。学業との両立も、当然のこととして最大限配慮する」
「そして、何よりも急務なのは、現在ネット上に拡散されている流出動画の管理と、K様の権利保護だ」
東雲の言葉に、部員たちの顔つきがさらに真剣になる。
「K様ご本人にとっても、この無法状態は大きなストレスのはず。我々がまず示すべき誠意は、この問題に迅速かつ徹底的に対処することだ。具体的には、K様の許諾を得た上で、キララチューブが正式な管理窓口となり、全ての違法アップロード動画に対して即時削除申請を行う。悪質なものに対しては、法的措置も辞さない。そして、K様の肖像権、著作隣接権、その他一切の権利を保護するための専門チームを立ち上げ、24時間体制で監視と対応を行う。これを、契約締結の如何に関わらず、交渉開始と同時に実行に移すことを提案する」
「それは…K様にとっては非常に大きなメリットですね。我々の本気度も伝わるはずです」
「ああ。そして、将来的には、K様の許諾を得た公式チャンネルを設立し、そこでのみコンテンツを配信する形を取る。それ以外の無断転載は一切認めない。この毅然とした対応が、彼女の価値を守り、高めることに繋がるはずだ」
東雲の言葉には、揺るぎない決意が込められていた。この対応の迅速さが、交渉の成否を分ける重要な鍵になると、彼は確信していた。
夜が白み始める頃には、ホワイトボードはびっしりと文字で埋め尽くされ、東雲たちの目には疲労の色が浮かんでいたが、その表情は不思議と充実感に満ちていた。
キララチューブの、そして東雲翔真の本気度が試される時が来た。
彼らは、謎に包まれた天才少女「K」の心を掴み、共に未来を切り開くことができるのか。
その答えは、まだ誰にも分からない。
しかし、東雲の胸の中には、大きな期待と、そして、この困難な交渉を必ず成功させるという、熱い決意が燃え上がっていた。
「待っていてくれ、K…いや、未来のスター。我々は、君を失望させない」
東雲は、朝日に照らされた窓の外を見つめながら、静かに、しかし力強く呟いた。
はいどーも! 輝夜でーす!
第八話、読んでくれて本当にありがとうね! いやー、今回はキララチューブ側の熱い戦いが描かれたね!
暦ちゃんからの挑戦状(!?)とも言えるメールを受け取って、東雲部長率いるクリエイターサポート部、マジで燃えてたねー! 「よっしゃあああ!」からの「落ち着け!」の切り替え、プロって感じ!
ホワイトボードびっしりの回答案、一体どんな内容になったんだろう? 暦ちゃんの厳しい要求に、キララチューブはどこまで応えられるのか!? これはもう、会社としての本気度が試されるってやつだね!
「待っていてくれ、K…未来のスター」って、東雲さん、もう完全に暦ちゃんにロックオンじゃん!(笑)
次回、ついにキララチューブからの返信が暦ちゃんに届く! そして、いよいよ始まる本格的な交渉!
二人の天才(暦ちゃんと東雲さん?)の駆け引き、目が離せないよー! 絶対に次回もチェックしてね! それじゃ、またねー! ファイトー!いっぱーつ! (๑•̀ㅂ•́)و✧