第六話:キララチューブの決断! 起死回生の秘策(後編)
東雲翔真の言葉が投げかけた波紋は、重苦しい空気が支配していた緊急対策会議室に、確かな変化をもたらしていた。それまで下を向いていた役員たちも、顔を上げ、モニターに映る「銀髪の美少女」の動画と、東雲の真剣な表情を交互に見つめている。
「…東雲部長の言うことも、一理あるかもしれん」
最初に沈黙を破ったのは、意外にも、先ほどまでヒステリックに叫んでいた広報部長だった。彼は、腕を組み、難しい顔で唸っている。
「確かに、この動画のバズり方は尋常じゃない。炎上マーケティングという言葉もあるが…いや、これはそういう次元の話ではないな。純粋に、このコンテンツの持つ力が規格外なのだ」
「しかし、だ」と法務部長が冷静に口を挟む。
「我々は、この制作者様のプライバシーを侵害した加害者だ。その我々が、どの面を下げて『一緒に仕事をしませんか』などと提案できるというのかね? 下手をすれば、火に油を注ぐ結果になりかねんぞ」
法務部長の指摘はもっともだった。社内からも、「そんな虫の良い話があるか」「まずは誠心誠意の謝罪と補償が先決だ」という声が上がる。
会議は再び紛糾しかけた。しかし、東雲は臆することなく、さらに言葉を続けた。
「おっしゃる通りです。我々はまず、制作者様に対して、最大限の誠意をもって謝罪し、今回の流出事故によって被られたあらゆる損害について、真摯に対応しなければなりません。それは大前提です」
彼は一度、深呼吸をした。
「その上で、です。もし、制作者様が、この状況を前向きに捉え、ご自身の才能を世に問いたいという意志を少しでもお持ちなのであれば…我々はそのための最高の舞台を用意できる唯一の存在なのではないでしょうか?」
東雲の声には、確信にも似た熱がこもっていた。
「考えてみてください。この方は、おそらくご自身の意志とは無関係に、全世界にその姿と才能を晒されてしまいました。今頃、どれほどの不安と恐怖を感じていらっしゃることか。我々が何もしなければ、この才能は心無い憶測や、無責任な詮索によって、潰されてしまうかもしれません」
「…それは、避けなければならんな」
社長の星影が、低い声で呟いた。彼は、それまでずっと目を閉じていたが、ゆっくりと瞼を開き、東雲を見据えた。
「東雲部長、君の具体的な提案を聞こうじゃないか」
東雲は、待ってましたとばかりに、事前に準備していた資料をモニターに映し出した。
「まず、制作者様へのコンタクトですが、特定できているのはメールアドレスのみです。最大限の敬意と謝罪の言葉と共に、我々の意向を伝えるメッセージを送信します。その際、制作者様のプライバシー保護を最優先とし、匿名性の維持、活動形態の完全な自由(顔出しNG、アバター使用、期間限定等)、報酬体系の透明性、そして何よりも、制作者様自身の意思を最大限尊重することを明確に約束します」
「契約ありきの話ではなく、まずは対話の機会をいただく、ということか」
「はい。そして、もし、ほんの少しでも我々の提案に興味を持っていただけたなら…そこからが我々の腕の見せ所です」
東雲の瞳が、挑戦的に輝いた。
「今回の流出騒動は、確かにマイナスからのスタートです。しかし、見方を変えれば、これ以上ないほどのプロモーションになったとも言えます。この熱狂を、一過性のものに終わらせるのではなく、本物のムーブメントへと昇華させる。そのためには、楽曲制作、映像制作、プロモーション戦略、そして何よりも、制作者様を守り、その才能を最大限に開花させるための、万全のサポート体制が必要です。そして、それら全てを、キララチューブというプラットフォームの総力を挙げて提供するのです」
「…まるで、社運を賭けた一大プロジェクトだな」
誰かが、そう呟いた。
「その通りです」と東雲は力強く頷いた。「この危機を、最大のチャンスに変える。そして、世界がまだ見ぬ、新たなスターをこの手で生み出す。それこそが、我々キララエンターテイメントの使命ではないでしょうか!」
東雲の熱弁は、会議室の空気を完全に変えていた。
絶望的な雰囲気は消え去り、代わりに、ある種の興奮と、困難な挑戦への高揚感が漂い始めていた。
もちろん、リスクは大きい。制作者に完全に拒絶される可能性も高い。しかし、何もしなければ、会社の未来はない。ならば、この一縷の望みに賭けてみる価値はあるのではないか。
長い沈黙の後、社長の星影が、ゆっくりと口を開いた。
「…分かった。東雲部長の提案に乗ろう」
その一言に、会議室に緊張が走る。
「ただし、条件がある」と星影は続けた。「制作者様の意思を、何よりも尊重すること。決して無理強いはせず、誠意をもって接すること。そして、このプロジェクトの全責任は、私が取る。失敗した時の責任も、全て私が負う」
社長の覚悟のこもった言葉に、役員たちは息を呑んだ。
「東雲部長、君に全権を委任する。クリエイターサポート部を中心に、各部門は全面的に協力するように。…いいな?」
「…はいっ!必ずや、ご期待に応えてみせます!」
東雲は、深く頭を下げた。その顔には、安堵と、そしてこれから始まるであろう壮大な挑戦への武者震いのような表情が浮かんでいた。
こうして、キララチューブの緊急対策会議は、予想だにしなかった結論に至った。
動画流出という最悪の事態から一転、会社は、謎の天才「K」の発掘と育成という、起死回生の一大プロジェクトに乗り出すことを決定したのだ。
会議が終了すると、東雲はすぐに自席に戻り、慎重に言葉を選びながら、「K」への最初のコンタクトメールを作成し始めた。
そのメールが、やがて月島暦という一人の少女の運命を、そして世界のエンターテイメントの歴史を大きく揺るがすことになるなど、彼自身もまだ想像だにしていなかった。
ただ、胸の中には、大きな仕事への確かな手応えと、未知なる才能との出会いへの、熱い期待が燃え盛っていた。
はいどーも! 輝夜でーす!
第六話、読んでくれてありがとうございまーす! いやー、今回のキララチューブの会議、マジで手に汗握る展開だったね!
東雲部長の熱いプレゼン、かっこよかったー! 「この危機を最大のチャンスに変える!」って、もうヒーローじゃん! 社長もよくぞ決断してくれた! 男だねぇ!(女社長だったらゴメンナサイ)
まさかの「社運を賭けた一大プロジェクト」発足! これでキララチューブも、ただの動画サイトじゃなくなるかもしれないね!
そして、ついに暦ちゃんへのコンタクトメールが送信される…! 東雲さん、どんな文面で暦ちゃんの心を掴むつもりなんだろう?
次回、いよいよ暦ちゃんがそのメールを受け取って、どう反応するのか!? そして、ついに始まる運営との頭脳戦(!?)
もう、ワクワクが止まらないよー! 絶対に次回も見逃さないでね! それじゃ、またねー! バイバイ