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月影の万華鏡 ~魔法のプリズム、輝くシークレットライブ~  作者: 輝夜
第四章:秋色のパレットと、秘密のメロディー

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第五十九話:共犯者たちのテスト前夜と、秘密基地計画


サンクチュアリでの運命的な一夜が明け、月島暦つきしま こよみ早川美咲はやかわ みさき、そして相田翔あいだ しょうの三人の間には、言葉にはならない、しかし確かな「共犯者」としての絆が芽生えていた。Kの秘密、そして相田くんの過去と女神の約束。それらを共有したことで、彼らの友情は、以前とは比べ物にならないほど深く、そして特別なものへと変わり始めていた。

十一月も終わりに近づき、中学校では期末テストという、学生にとっては避けて通れない試練の時期が目前に迫っていた。教室には、参考書とノートの山が築かれ、休み時間も真剣な表情で問題集に取り組む生徒たちの姿が目立つ。そんなピリピリとした空気の中、暦たち三人の間には、どこか他の生徒たちとは違う、秘密を共有する者同士だけが持つ、穏やかで、そして心強い連帯感が漂っていた。


放課後の図書室。いつもの窓際の席で、三人は肩を寄せ合うようにして、それぞれの教科書や問題集を広げていた。しかし、その雰囲気は、以前のどこか緊張感を伴ったものとは違い、まるで秘密の作戦会議でも開いているかのような、ほんのりとした高揚感と、互いへの信頼感に満ちている。

「うーん…この古典の助動詞の活用、何度やっても間違えちゃうんだよねー。こよみちゃん、なんか覚えるコツとかない?」

美咲が、可愛らしく眉を寄せながら、古文の教科書をこよみの前に突き出す。その声は、わざと周囲に聞こえないように、ひそひそとした小声だ。

「えっとね、この『き・けり』は過去を表す助動詞で、連用形接続だから…あ、でも、こっちの『つ・ぬ』は完了で…うーん、確かに紛らわしいよね。私も、時々ごっちゃになっちゃうよ」

こよみは、少し困ったように微笑みながらも、自分のノートに分かりやすいように活用表を書き出し、美咲に丁寧に説明し始める。その教え方は、以前友人たちにした時と同じように的確で、そして何よりも優しさに溢れていた。

隣では、相田くんが、分厚い数学の問題集の難解な証明問題に、静かに、しかし真剣な眼差しで向き合っていた。時折、納得がいかないのか小さく首を傾げたり、ペンを持つ手が止まったりする。そんな彼の様子に気づいたこよみが、そっと声をかけた。

「翔くん、どうかしたの? もしかして、その問題、難しい?」

「…ああ、暦。この幾何の問題なんだが…補助線の引き方が、どうしても閃かなくてね。君なら、何か良いアイデアが浮かぶかもしれないと思って…」

相田くんは、少し照れたように、しかしこよみの数学的なセンスを信頼しているかのような眼差しで、問題のページを彼女に見せる。こよみは、その複雑な図形を数秒間じっと見つめ、そして、まるで何かが見えたかのように、小さく頷いた。

「…もしかしたら、この点とこの点を結んで、ここに垂線を引いてみると…あっ、そうすると、こことここが相似になるから…!」

彼女の指先が、問題集の上を軽やかに動き、まるで魔法のように、解法の糸口を鮮やかに示していく。その思考の速さと的確さに、相田くんは改めて息を呑み、そして美咲は「こよみちゃん、やっぱり天才!」と、目をキラキラさせて称賛の声を上げるのだった。

「暦、ありがとう。君のおかげで、道が見えたよ」

相田くんの口元に、ほんのりと柔らかな笑みが浮かぶ。それは、彼がこよみに対して見せる、特別な信頼の証のようでもあった。


そんな風に、三人は互いに教え合い、励まし合いながら、期末テストという共通の敵(?)に立ち向かっていた。それは、Kの秘密を守るための「共犯者」としての結束が、図らずも学業においても素晴らしい相乗効果を生み出しているかのようだった。

時折、美咲が「ねえねえ、K様だったら、こんなテスト勉強なんて、鼻歌交じりで満点取っちゃうんだろうなー! 私もK様みたいに、一瞬で全部覚えられたらいいのにー!」なんて、こよみの正体を知っているからこその冗談を言って、二人を笑わせる。こよみは、顔を真っ赤にしながら「も、もう、美咲ちゃんまでからかわないでよ!」と反論するが、その表情は、まんざらでもないといった感じで、どこか楽しそうだ。相田くんもまた、そんな二人のやり取りを、穏やかな笑みを浮かべて見守っている。

この、秘密を共有する仲間たちと過ごす、何気ないけれど温かい時間が、今のこよみにとっては、Kとしてのプレッシャーや、異世界の記憶の不安を忘れさせてくれる、かけがえのない癒やしのひとときとなっていた。


そんなある日の放課後。テスト勉強も一段落し、三人がいつものようにサンクチュアリに集まっていると(もちろん、相田くんにとっても、そこはすでに特別な「秘密基地」の一つになりつつあった)、東雲翔真しののめ しょうまさんが、どこか楽しそうな、そして何か大きなことを企んでいるかのような、意味ありげな笑みを浮かべて、一枚の設計図のようなものを取り出した。

「暦さん、早川さん、そして相田くん。今日は、君たち三人に、Kの、そして君たちの未来にとって、非常にエキサイティングな提案があるんだ」

その言葉に、三人は顔を見合わせ、期待と緊張が入り混じった表情で、東雲しののめさんの次の言葉を待った。

東雲しののめさんは、広げた設計図をテーブルの上に置いた。そこには、どこかの古い洋館をリノベーションしたかのような、お洒落で、それでいてどこか秘密めいたアトリエ兼スタジオの完成予想図が描かれていた。大きな窓からは柔らかな自然光が差し込み、壁には様々な画材や楽器がセンス良く配置され、そして中央には、Kがパフォーマンスするための小さなステージと、最新鋭の録音・撮影機材が備え付けられている。

「これは…?」こよみが、息を呑んで尋ねる。

「これはね、K専用の、そして君たち『チームK』の、新たな秘密基地…いや、『シークレットクリエイティブスタジオ(仮称)』の設計案だよ」

東雲しののめさんは、にっこりと微笑んだ。

「Kの活動は、これからますます多岐に渡り、そしてより高度なクリエイティビティが求められるようになる。そのためには、サンクチュアリのような完全に管理された空間だけでなく、もっと自由で、もっと君たちの感性を刺激するような、リラックスして創作に没頭できる場所が必要だと、ずっと思っていたんだ。そして、何よりも…K(暦さん)が、信頼できる仲間たちと、安心して、そして楽しみながらコンテンツを創り出せる環境を、僕は提供したい」

その言葉は、三人の心を強く打った。

「このスタジオは、暦さんの自宅にも比較的近い、しかし人目につきにくい、静かな場所に建設する予定だ。セキュリティはもちろん万全を期す。そこでは、Kの新曲のレコーディングやMV撮影だけでなく、例えば、暦さんが美術作品を制作したり、早川さんがKのファン向けの企画を考えたり、相田くんがKの物語性のあるコンテンツの脚本を書いたり…そんな、君たち自身のアイデアや才能を、自由に、そして最大限に発揮できるような、まさに『秘密の実験室』のような場所にしたいんだ」

東雲しののめさんの瞳は、未来への期待でキラキラと輝いていた。

「もちろん、機材の操作や、専門的な技術が必要な部分は、キララの信頼できるスタッフ(例えば、あの体育祭ライブで活躍してくれた佐伯くんや田辺くんのような、口の堅いプロフェッショナルだ)が、全面的にサポートする。だが、基本的なアイデアやコンセプト、そして何よりも『何を創りたいか』という情熱は、君たち自身の中から生まれてくるものであってほしい。そして、そこで生まれた素晴らしい素材や作品は、キララチューブが責任を持って買い取り、Kの新たな魅力として、世界に発信していく。…どうだろう? 君たちだけの、秘密のスタジオで、誰も見たことのないような、新しいエンターテイメントを、一緒に創り出してみることに、興味はあるかな?」

東雲しののめさんのその提案は、あまりにも魅力的で、そして三人の心を躍らせるには十分すぎた。

「…すごい…! 私たちだけの…スタジオ…!」

こよみは、感極まったように声を震わせる。美咲もまた、「えー!何それ!超楽しそうじゃん! 私、K様の日常密着ドキュメンタリーとか、ファン参加型のクイズ番組とか、色々企画したい!」と、目を輝かせながら早くもアイデアが溢れ出している様子だ。

そして、相田くんもまた、静かに、しかしその瞳の奥には確かな興奮の色を宿して、深く頷いた。

「…素晴らしいご提案だと思います、東雲さん。僕も、もし力になれるなら…Kの、そして暦の創り出す世界観を、物語という形で、もっと多くの人に届けるお手伝いができたら…それは、僕にとっても、大きな喜びです」

三人の、やる気に満ちた、そして期待に輝く表情を見て、東雲しののめさんは、満足げに微笑んだ。

「よし、決まりだね! プロジェクト『シークレット・クリエイティブ・スタジオ』、正式に始動だ! これから、君たちの若い才能と情熱が、どんな奇跡を生み出してくれるのか、楽しみにしているよ!」

その言葉と共に、四人の「共犯者」たちの間には、新たな冒険の始まりを告げる、力強い絆が、改めて固く結ばれたのだった。


一方、キララチューブ本社では、Kの年末音楽特番への出演準備が、佳境を迎えていた。

連日、各部署のトップが集まり、分刻みのスケジュールで会議が繰り返され、オフィス全体が、まるで戦場のような緊張感と熱気に包まれている。Kが披露する「星詠みの鎮魂歌レクイエム」のステージ演出は、ハリウッドの超大作映画の特殊効果チームや、世界的な照明デザイナー、そして最先端のAR技術者が集結し、まさに国家プロジェクト級の規模で進められていた。

東雲しののめさんは、その全ての総指揮を執りながらも、K(暦)本人には、そのプレッシャーを一切感じさせないよう、細心の注意を払っていた。こよみへの連絡は、主に進捗状況の報告と、最終的な意思決定の確認のみ。彼女には、あくまでリラックスした状態で、最高のパフォーマンスに集中してもらうこと。それが、東雲しののめさんの揺るぎない方針だった。

(…Kの才能は、我々が用意した最高の舞台と、そして彼女自身の魂の輝きが融合した時にこそ、真価を発揮する。我々は、そのための環境を整えるだけだ…あとは、彼女を信じるのみ…)

東雲しののめは、モニターに映し出された、特番のステージの完成予想CGを見つめながら、静かに、しかし熱い闘志を胸に燃やしていた。

期末テストの喧騒の裏側で、Kの新たな伝説が、そして三人の若きクリエイターたちの、まだ誰も知らない秘密の物語が、今、確かに、そして力強く動き出そうとしていた。


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