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月影の万華鏡 ~魔法のプリズム、輝くシークレットライブ~  作者: 輝夜
第四章:秋色のパレットと、秘密のメロディー

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第五十七話:水面下の調査と、共犯者たちの秘密会議


キララチューブ本社「サンクチュアリ」での、あの密談から数日。月島暦つきしま こよみの日常は、表面上はいつもと変わらないように見えたが、彼女の心の中には、確かな変化が訪れていた。早川美咲はやかわ みさきという、Kの秘密を共有し、心から信頼できる「共犯者」を得たことで、以前のような孤独感や、いつ秘密がバレるかもしれないという過度な恐怖心は、随分と和らいでいたのだ。もちろん、Kとしての責任や、力のコントロールへの不安が完全に消えたわけではない。しかし、何かあればすぐに相談できる親友がいるという事実は、13歳の少女にとって、何よりも大きな心の支えとなっていた。


美咲もまた、こよみの秘密を知ったことで、彼女に対する友情と責任感を、より一層強くしていた。学校生活においては、こよみがKであることを周囲に悟られないよう、さりげなく、しかし巧みにフォローを入れる。例えば、こよみがKの話題でうっかり口を滑らせそうになった時には、絶妙なタイミングで話題を変えたり、こよみが力のコントロールに少し苦慮しているような気配を見せた時には、そっと寄り添い、落ち着かせるような言葉をかけたり。その甲斐もあってか、こよみは以前よりもずっとリラックスして、学校生活を送れるようになっていた。

「ねえ、こよみちゃん、今日のKの新しいグッズのネットニュース、見た? あの月のペンダント、超可愛いんだけど! 私、絶対ゲットするんだから!」

休み時間に、美咲がわざと大きな声でそう言って、周囲のKファンの友人たちの注意をそちらに向けさせ、その隙にこよみに「大丈夫? 顔色、ちょっと悪いみたいだけど…無理しないでね」と小声で囁く、なんていう連携プレーも、日常茶飯事となりつつあった。


一方、東雲翔真しののめ しょうまは、プロデューサーとしての辣腕を、水面下で遺憾なく発揮していた。

まず最優先で取り組んだのは、相田翔あいだ しょうという少年に関する、徹底的な調査だった。キララチューブが持つ情報網と、彼個人のコネクションを最大限に活用し、彼の家族構成、学業成績、交友関係、趣味嗜好、そして何よりも、彼が持つというアンティークオルゴールの由来や、彼が見るという不思議な夢の内容について、細心の注意を払いながら、しかし迅速に情報を集めていく。その調査は、K(暦)のプライバシー保護に関わる最重要機密事項として、東雲しののめの腹心の部下数名のみにしか知らされず、極秘裏に進められた。

(相田翔…彼は、一体何者なんだ…? そして、あのオルゴールのメロディーが、暦さんの異世界の記憶と一致するという事実は、何を意味するのか…? 単なる偶然では済まされない、どういうつながりがあるというのだろうか…?)

東雲しののめは、集まってくる断片的な情報と、こよみから聞いた話を照らし合わせながら、まるで難解なパズルを解くように、その謎の核心に迫ろうとしていた。しかし、調べれば調べるほど、相田翔という少年は、ごく普通の、しかし非常に感受性が豊かで知的な中学生であり、特に怪しい点や、こよみにとって危険因子となるような要素は見当たらない。ただ、彼が時折見せる、年齢にそぐわないほどの深い洞察力や、物事の本質を見抜くような鋭い眼差しは、東雲しののめに、彼もまた「何か」を秘めた存在なのではないか、という予感を抱かせるには十分だった。


並行して、Kの年末音楽特番への出演準備も、着々と進められていた。

今年の年末特番は、国民的な人気を誇る長寿番組であり、そこにKが出演するというニュースは、正式発表前から様々な憶測を呼び、音楽業界全体を揺るがすほどの大きな話題となっていた。

東雲しののめさんは、その特番でKが披露する楽曲として、あの新曲「星詠みの鎮魂歌レクイエム」を選んだ。そして、そのパフォーマンスを、Kの神秘性と芸術性を最大限に引き出し、かつてないほどのスケールとクオリティで実現するため、最高のスタッフを集め、最新鋭の技術を惜しみなく投入する準備を進めていた。

サンクチュアリでは、こよみ東雲しののめさん、そして時には美咲も(彼女は「K様専属応援兼衣装アドバイザー(自称)」として、積極的に意見を出していた)加わって、特番で披露する「星詠みの鎮魂歌」の特別アレンジや、ステージ演出、そして衣装デザインに関する、秘密の会議が連日のように開かれていた。

「この部分のストリングスは、もっと天から光が降り注ぐような、神々しいイメージでいきましょう。そして、K様の衣装は、やはり純白を基調としながらも、どこか異世界の女神を思わせるような、荘厳で、かつ繊細なデザインがいいと思います。早川さん、何か良いアイデアはありますか?」

「えーとですね、東雲さん! それなら、スカートの部分に、K様が動くたびにキラキラと光る、オーロラみたいな特殊な素材を使うのはどうでしょう? それで、髪飾りには、本物の小さな星屑を散りばめたような…あ、でもそれは予算的に厳しいかな…?」

美咲の、ファンならではの斬新なアイデアに、東雲しののめさんは感心したように頷いた。

「いや、早川さん、そのアイデア、非常に面白いですね! K様の新たな魅力を引き出す、素晴らしい視点かもしれません。オーロラ素材のスカート、そして星屑をイメージした髪飾り…K様の神秘性をさらに高める、最高の演出になる可能性を秘めています。さすが、K様のことを誰よりも熱心に応援してくださっているだけありますね」

東雲しののめさんの、美咲の感性を評価する言葉に、彼女は「えへへ、そんな!でも、もし本当に採用されたら、めちゃくちゃ嬉しいです!」と、満面の笑みを浮かべた。こよみもまた、そんな親友のアイデアが認められたことが、自分のことのように嬉しかった。

こよみは、そんな二人との共同作業に、大きな喜びと、そして心強さを感じていた。一人で抱え込んでいた時とは違い、信頼できる仲間たちと意見を交わし、共に一つの目標に向かって進んでいくという体験は、彼女の創作意欲をさらに刺激し、Kとしてのパフォーマンスにも、新たな深みと輝きを与え始めていた。

(美咲ちゃんも、東雲さんも、本当に私のことを理解してくれてる…この二人と一緒なら、きっと、最高の「星詠みの鎮魂歌」を、世界中に届けられるはず…!)

そして、東雲しののめさんは、そんな二人の様子を見て、Kの新たなコンテンツ展開について、あるアイデアを思いつき始めていた。

(…もしかしたら、K様の日常や、創作の裏側を、早川さんの視点を通して、もっとファンに近い形で発信していくのも面白いかもしれないな。もちろん、キララのスタッフが技術面でサポートし、クオリティは担保した上で…K様の新たな一面を引き出し、ファンとの絆を深める、新しい形のコンテンツになる可能性がある…これは、検討する価値がありそうだ)

彼の頭の中では、すでに次のKプロジェクトの、小さな、しかし革新的な歯車が、静かに回り始めていた。


もちろん、月島暦つきしま こよみとしての学校生活も、おろそかにはできない。

十一月も終わりに近づき、中学校では期末テストが目前に迫っていた。教室内には、参考書やノートを広げ、真剣な表情で問題に取り組む生徒たちの姿が増え、休み時間もどこかソワソワとした空気が漂っている。

こよみもまた、Kとしての活動の合間を縫って、テスト勉強に励んでいた。持ち前の集中力と記憶力で、授業の内容はほぼ完璧に頭に入っているはずだったが、それでも油断はできない。特に、今回は美咲という心強い「勉強仲間」ができたことで、以前よりもずっと楽しく、そして効率的に勉強を進めることができていた。

「ねえ、こよみちゃん、この英語の長文問題、ちょっと意味が分からないんだけど、教えてくれない?」

「うん、いいよ。ここの関係代名詞の使い方がポイントでね…」

放課後の図書室や、時には美咲の部屋で、二人で教え合ったり、問題を出し合ったりしながら、期末テストに向けて最後の追い込みをかける。それは、Kの秘密を共有する二人にとって、大切な友情を再確認する、かけがえのない時間でもあった。

時折、美咲が「ねえ、K様だったら、この数学の公式とか、一瞬で暗記できちゃったりするのかなー? いーなー、私もK様みたいになりたーい!」なんて冗談を言って、こよみをドキッとさせることもあったが、それもまた、二人の間では微笑ましい日常の一コマとなっていた。


そんなある日の放課後。いつものように美咲と二人で図書室で勉強していると、不意に、相田翔あいだ しょうくんが、一冊の古びた冊子を手に、二人のテーブルにやってきた。

「月島さん、早川さん。…ちょっと、邪魔してもいいかな?」

その声に、こよみと美咲は顔を見合わせ、少しだけ緊張した。東雲しののめさんとの約束で、相田くんへのカミングアウトはまだ保留になっている。しかし、彼の自分たちを見る目は、やはり何かを確信しているかのように、深く、そして静かだった。

(翔くん…一体、何を…?)

こよみの心臓が、小さく、しかし確かに、予感めいた音を立て始めた。

水面下で進む調査。近づく年末特番。そして、期末テスト。

様々な出来事が、月島暦つきしま こよみの日常と、Kの運命を、複雑に絡み合わせながら、新たな局面へと導こうとしていた。


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