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月影の万華鏡 ~魔法のプリズム、輝くシークレットライブ~  作者: 輝夜
第四章:秋色のパレットと、秘密のメロディー

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第五十四話:親友の確信と、お泊まり会のカミングアウト


Kのオンラインライブの大成功から数日。月島暦つきしま こよみの日常は、表面上は穏やかだったが、彼女の内心は、友人たちの鋭い指摘と、自身の力のコントロールへの不安で、小さな嵐が吹き荒れていた。特に、親友である早川美咲はやかわ みさきの、Kとこよみの共通点を指摘する言葉は、的確すぎるが故に、こよみの心を深く抉っていた。

(美咲ちゃん…やっぱり、何か気づいてるのかな…でも、まさか私がKだなんて、思ってないよね…? 思っててほしくないけど…でも…)

そんな葛藤を抱えながら、こよみは、Kの秘密を守るために、以前にも増して慎重に、そして少しだけぎこちなく、日常を過ごしていた。


一方、早川美咲はやかわ みさきの心の中にもまた、こよみに対する、友情とは別の、ある種の「確信」にも似た疑念が、日増しに大きくなっていた。

(Kのライブの時の、あの手の動き、やっぱりこよみちゃんと同じだった…。それに、新曲の『星詠みの鎮魂歌』の歌詞の世界観、あれって、こよみちゃんが文化祭の時に描いてた、あの幻想的な森の絵と、すごく似てる気がするんだよね…)

美咲は、明るく社交的な性格の裏で、実は非常に鋭い観察眼と、物事の本質を見抜く直感力を持っていた。そして、彼女のその直感が、Kとこよみの間に、ただならぬ繋がりがあることを、強く告げていたのだ。

さらに、ここ数日、こよみの様子がどこかおかしいことにも気づいていた。時折、ふとした瞬間に顔色が悪くなったり、何もないところで物が微かに揺れたりするような、小さな異変。そして、それを必死で隠そうとするこよみの、痛々しいほどの緊張感。

(…こよみちゃん、絶対に何か隠してる…そして、それは、すごく大きな、一人じゃ抱えきれないような秘密なんじゃないかな…)

親友として、こよみを心配する気持ちと、彼女の秘密を知りたいという好奇心。そして、もしその秘密が、Kと関係があるのだとしたら…という、途方もない期待。それらが、美咲の中で複雑に絡み合っていた。


そんなある週末の金曜日の放課後。

「ねーえ、こよみちゃーん! 今日の夜、うちにお泊まりに来ない? お父さんもお母さんも、ちょうど親戚の家に行ってて留守なんだー。二人で、思う存分DVD見たり、お菓子食べたり、恋バナしたりしよーよ!」

美咲が、いつもの底抜けに明るい笑顔で、こよみを誘ってきた。その瞳の奥には、しかし、何かを探るような、鋭い光が微かに宿っているのを、こよみはまだ気づいていない。

「え、お泊まり? うん、いいよ! 私も、最近ちょっと疲れてたから、美咲ちゃんとゆっくりおしゃべりしたいなって思ってたんだ」

こよみは、美咲の誘いを快く受け入れた。親友と過ごす時間は、今の彼女にとって、何よりも心の安らぎになるはずだった。まさか、そのお泊まり会が、彼女の運命を大きく左右する、重要な転機になるとも知らずに…。


その夜、美咲の部屋。

パジャマ姿の二人は、大きなクッションに背中を預け、ベッドの上でくつろいでいた。部屋には、ほんのり甘いお菓子の匂いと、ガールズトーク特有の、秘密めいた空気が漂っている。

最初は、学校の友達の噂話や、好きなアイドルグループの新曲の話、そしてもちろん、Kの話題(「次のKのライブ、絶対一緒に行こうね!」と美咲は息巻いている)で、いつもと変わらずキャッキャと盛り上がっていた。


「でもさー」美咲は、ふと何かを思い出したように、こよみに尋ねた。「あのKのライブ、なんでうちの中学校のグラウンドだったんだろうね? すごく嬉しかったけど、普通に考えたらありえなくない? 超有名アーティストだよ? もっと大きな会場とか、ちゃんとしたコンサートホールとかでやるのが普通じゃない?」

その、何気ない、しかし鋭い疑問に、こよみの心臓がドクンと跳ねた。

(うっ…! そ、そこ突っ込まれると、ちょっとまずいかも…!)

「あ、あはは…そうだよね…私も、ちょっと不思議だなって思ってたんだ…でも、ほら、サプライズ!って感じだったし…地域貢献?みたいな意味もあったのかも…しれないね…?」

こよみは、必死で平静を装い、曖昧に言葉を濁した。

しかし、美咲は納得がいかない様子で、さらに続ける。

「うーん…でも、あのステージセットとか、音響とか、どう見ても急ごしらえとは思えないくらい本格的だったよね? まるで、最初からちゃんとした計画があったみたいだったし…。もしかして、本当は別の場所でやる予定だったのが、何かトラブルで急遽うちの学校になった、とか…? そうじゃなきゃ、あんな大掛かりなこと、いきなりできないと思うんだけど…」

美咲の推理は、驚くほど的確だった。こよみは、内心で(美咲ちゃん、なんでそんなことまで分かるの!?)と叫びながらも、これ以上ボロを出さないように、必死でポーカーフェイスを保とうとする。

「さ、さあ…どうなんだろうね…? 私には、全然分からないや…あはは…」

しかし、その時、こよみは、ふと、あの日の東雲しののめさんの、鬼気迫るような必死な形相と、スタッフさんたちが大慌てで走り回っていた光景を思い出してしまい、つい、うっかりと口を滑らせてしまったのだ。

「あ、でもね、そういえば、私もちらっと聞いたんだけど…やっぱり、本当は別の大きな会場で、もっとすごいパフォーマンスをする予定だったらしいんだよ。それが、直前になって、その会場のシステムに重大な欠陥が見つかっちゃって、それで急遽中止になっちゃったんだって。だから、東雲さんやキララチューブのスタッフさんたち、本当に大慌てで、もうパニック寸前だったみたいで…それで、なんとか代わりの場所を探して、それでうちの学校に相談したら、校長先生やPTAの方々がすごく協力的で、『ぜひうちで!』って言ってくれて、それで急遽決まったって…だから、スタッフさんたち、本当に大変だったと思うよ…徹夜で準備してくれたみたいだし…」

そこまで一気にまくし立ててから、こよみは、はっと我に返った。

(んーーーーーっ!!!! あぁぁぁぁぁぁ!!!!!! 私、今、何を口走った!?)

目の前で、美咲が、信じられないものを見るような目で、ポカーンと口を開けて自分を見つめている。その瞳が、みるみるうちに大きく見開かれていく。

「……………こよみちゃん…………?」

美咲の声が、震えている。

「…なんで…こよみちゃん…それって...Kじゃなきゃそんなこと...知らない内容だよ…?」

「え…あ、あ、あの…そ、それは…その…えっと…」

こよみの頭の中は、完全に真っ白。冷や汗が、滝のように背中を伝う。

「…まさか……とは思っていたけど...やっぱり……? こよみちゃんが…………K……………なの……………?」

美咲の口から、震える声で、しかし確信に満ちた言葉が、静かな部屋に響き渡った。

「―――っ!!!!!!!!!」

こよみは、もはや何も言えなかった。ただ、顔面蒼白になり、ガタガタと震えながら、親友の、信じられないという表情と、しかしどこか「やっぱりそうだったんだ」という納得の色が混じった、複雑な眼差しを受け止めることしかできなかった。

心の奥底で、ずっと張り詰めていた秘密の糸が、ぷつん、と音を立てて切れたような気がした。


「…………うん…………」

嗚咽と共に、ようやく絞り出した、肯定の言葉。

それは、彼女が初めて、Kとしての秘密を、東雲しののめさん以外の誰かに打ち明けた、歴史的な瞬間だった。

「やっぱり…! こよみちゃん…!だったんだ」

美咲は、驚きと、安堵と、そして感動が入り混じった表情で、こよみを強く、強く抱きしめた。

「…ごめんね…美咲ちゃん…ずっと、黙ってて…本当に、ごめんなさい…!」

「ううん、いいんだよ…! 謝らないで、こよみちゃん…! むしろ、私の方こそ、無理やり聞き出すみたいなことしちゃって、ごめんね…! でも…でも、私、すごく嬉しい…! だって、私の大好きな親友が、世界中を熱狂させてる、あのKだったなんて…! これって、最高の自慢だよ!」

美咲は、涙を流しながらも、満面の笑みを浮かべていた。その笑顔は、こよみの心の中にあった、全ての不安や恐怖を、温かく溶かしてくれるかのようだった。


それから、二人は夜が更けるのも忘れ、たくさんのことを語り合った。

こよみは、Kとして活動することになった経緯、東雲しののめさんとのこと、そして、自分の持つ「力」のこと(もちろん、異世界の記憶や、力の暴走の危険性については、まだ全てを話すことはできなかったが)、ぽつり、ぽつりと、しかし正直に、美咲に打ち明けた。

美咲は、その全てを、一度も驚きの声を上げることなく、ただ真剣に、そして深く頷きながら聞いてくれた。そして、時折、こよみの言葉に涙ぐみ、時には「こよみちゃん、本当にすごいよ!」と、心からの称賛の言葉を送ってくれた。

「…そうか…こよみちゃん、今まで、本当に一人で、色々なことを抱えて頑張ってきたんだね…。私、全然気づいてあげられなくて、ごめんね…」

「ううん、美咲ちゃんは何も悪くないよ。私が、勝手に隠してただけだから…」

「これからは、もう一人で悩まなくていいんだよ。私がいるから! 何か困ったことがあったら、いつでも私に相談してね! 私、こよみちゃんのためなら、何でもするから!」

美咲のその力強い言葉は、こよみにとって、何よりも心強いお守りのように感じられた。


窓の外が白み始める頃、二人の間には、もはや秘密は何もなく、ただ、以前にも増して強く、そして深い友情の絆だけが、確かに結ばれていた。

月島暦つきしま こよみは、初めて、Kとしての自分と、月島暦としての自分を、ありのままに受け止めてくれる「共犯者」を得たのだ。それは、彼女の人生にとって、かけがえのない、大きな一歩だった。

そして、この親友の存在が、これからこよみが直面するであろう、さらなる試練や困難を乗り越えていくための、大きな力となることを、二人はまだ知らない。

ただ、お互いの手の温もりと、秘密を共有した者同士だけが持つ、特別な信頼感と安堵感に包まれながら、二人は静かに、そして幸せな気持ちで、朝の光を迎えるのだった。


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