第五話:キララチューブ炎上! 緊急対策会議(前編)
日本最大級の動画共有プラットフォーム「KiraraTube」。その運営会社である株式会社キララエンターテイメントのオフィスは、その日、かつてないほどの混乱と喧騒に包まれていた。
原因は、数時間前に発生した、システムバグによる一部ユーザーの非公開動画の流出事故。そして、その中に含まれていた一本の動画が、瞬く間に世界中のインターネットを席巻し、爆発的なバズりを巻き起こしていたからだ。
「一体どうなってるんだ! 技術部はまだ原因を特定できないのか!?」
「広報! とにかくユーザーへの謝罪文を早急に! 株価にも影響が出始めてるぞ!」
「法務部! 今回の流出で損害賠償請求が来る可能性は!?」
フロア中に、怒号に近い声や、悲鳴のような電話の応対が飛び交う。社員たちは皆、血の気のない顔でモニターとにらめっこしたり、慌ただしく走り回ったりしていた。まさに、蜂の巣をつついたような大騒ぎだ。
そんな中、会議室の一つには、各部門の責任者クラスが集められ、緊急対策会議が招集されていた。
重苦しい沈黙が支配する会議室。中央の大きなモニターには、問題の「銀髪の美少女」の動画が、音声を消された状態で繰り返し再生されていた。その圧倒的な映像美と、歌い踊る少女の人間離れした魅力は、この緊迫した状況下にあっても、出席者たちの目を釘付けにする力を持っていた。
「…まず、技術部長。現状の報告を」
憔悴しきった表情の社長、星影が、低い声で促した。
技術部長は、額の汗をハンカチで拭いながら、震える声で報告を始めた。
「は、はい…。現在判明しておりますのは、昨夜の定期システムメンテナンスの際に、一部の非公開設定ファイルのアクセス権限に予期せぬバグが発生し、限定的な時間ではございますが、公開状態になってしまった可能性が高い、ということでございます。すでにバグは修正済みですが、その間に、この…問題の動画を含むいくつかのファイルが外部に流出してしまった模様です」
「模様、ではないだろう! 現にこうして世界中に拡散されているんだぞ!」
広報部長が、ヒステリックに叫んだ。
「申し訳ございません…」技術部長は、さらに小さくなる。
「…で、この『K』と名乗るアカウントのユーザー、及びこの動画の制作者は特定できたのかね? 個人情報保護法に抵触しない範囲で、可能な限りの情報は欲しいのだが」
法務部長が、冷静な口調で問いかける。
「アカウント情報からは、ニックネームと登録メールアドレス以外の個人情報は取得できておりません。IPアドレスからの追跡も試みましたが、複数のプロキシを経由しており、特定は極めて困難かと…」
「つまり、どこの誰かも分からない、と?」
社長の星影は、深くため息をついた。
会議は、責任の所在のなすりつけ合いや、今後の対応策を巡って紛糾した。
ユーザーへの謝罪は当然として、問題の動画をどう扱うのか。削除要請を出すべきか、しかし既に無数のコピーが出回っている。下手に動けば、さらなる炎上を招きかねない。
株価は下落の一途を辿り、スポンサー企業からの問い合わせも殺到している。会社の信用は地に落ちたも同然だった。
誰もが、この未曾有の危機をどう乗り越えるべきか、光明を見いだせずにいた。
その時、それまで黙ってモニターを見つめていた一人の男が、静かに口を開いた。
新人アーティストの発掘・育成を担当する「クリエイターサポート部」の若き部長、東雲翔真だった。
「…社長、皆様。この状況は確かに最悪です。弊社の信用失墜は免れないでしょう。しかし…」
東雲は、一旦言葉を切り、会議室の全員の顔を見渡した。そして、モニターに映る「銀髪の美少女」を指差した。
「しかし、この動画…この才能は、本物です。いや、本物という言葉すら陳腐に聞こえるほどの、規格外の何かを感じます」
彼の言葉に、会議室の空気がわずかに変わった。
「見てください。この歌唱力、ダンスのキレ、そして何よりも、この圧倒的な存在感と、見る者を惹きつけて離さないオーラ。CGや編集で誤魔化せるレベルではありません。そして、この楽曲…どこかで聞いたことのあるような懐かしさを感じさせながらも、全く新しい。まるで、我々の知らない世界の音楽のようです」
東雲は、熱を帯びた声で続ける。
「現在、この動画の再生回数は、流出からわずか数時間で数千万回に達しようとしています。コメント欄は世界中の言語で埋め尽くされ、そのほとんどが称賛と驚嘆の声です。『K』というアカウント名から、一部では以前から活動していた謎の歌い手ではないか、という憶測も飛び交っていますが、いずれにせよ、これほどの才能が、こんな形で世に出てしまった…」
彼は、そこで再び言葉を切った。
「…これを、ただの『事故』として処理し、謝罪と賠償だけで終わらせてしまうのは、あまりにも惜しいとは思いませんか?」
東雲の真摯な瞳が、社長の星影をまっすぐに見据えていた。
会議室に、再び沈黙が訪れる。
しかし、それは先ほどまでの絶望的な沈黙とは、少しだけ質の違うものだった。
東雲の言葉は、暗闇の中に差し込んだ、一筋の細い光のように、出席者たちの心に小さな波紋を投げかけていたのだ。
この大炎上の中から、あるいは、起死回生の一手が見つかるかもしれない。そんな、かすかな予感を…。
はいどーも! 輝夜でーす!
第五話、読んでくれてありがとうございまーす! いやー、今回はキララチューブ社内の大混乱っぷりがすごかったね! 社長も部長も真っ青で、まさに阿鼻叫喚って感じ! 自業自得だけど、ちょっとだけ同情しちゃう…かも?(笑)
でもでも、そんな大パニックの中で、希望の光を見いだした男がいた! その名も、クリエイターサポート部の東雲部長! カッコイイ名前だねー! しかも、暦ちゃんの才能をいち早く見抜くとか、慧眼すぎでしょ!
「この才能を逃すのは惜しい!」って、東雲さん、一体どんな起死回生の秘策を考えてるんだろう?
次回、キララチューブの緊急対策会議は、どんな結論を出すのか!? そして、いよいよ暦ちゃんへのコンタクトが始まるのか!?
もう、目が離せない展開だね! 次も絶対読んでくれよな! それじゃ、まったねー!