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月影の万華鏡 ~魔法のプリズム、輝くシークレットライブ~  作者: 輝夜
第四章:秋色のパレットと、秘密のメロディー

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第三十八話:夜明けのざわめきと、開演を待つグラウンド


体育祭の熱狂がまだ冷めやらぬ、翌日の早朝。

月島暦つきしま こよみの通う○○中学校の校門前には、まだ薄暗いにも関わらず、ちらほらと人影が見え始めていた。それは、昨夜、連絡網で緊急告知された「超有名アーティストによるシークレットライブ」の噂を聞きつけた、情報感度の高い生徒や保護者、そして一部の熱狂的な音楽ファンたちだった。

「本当にKが来るのかな…?」「でも、キララチューブが関わってるなら、ありえるかも…!」

そんな囁き声と共に、彼らの顔には期待と興奮の色が浮かんでいる。


午前7時。

キララチューブのスタッフたちが、手際よく入場整理を開始した。彼らは、昨夜の東雲翔真しののめ しょうまからの緊急指令を受け、ほとんど不眠不休でこの日の準備を進めてきたのだ。その表情には疲労の色も見えるが、それ以上に、これから始まるであろう歴史的な瞬間に立ち会えるという、プロとしての使命感と高揚感が漲っている。

「整理券をお持ちの方から、順番にご案内いたしまーす! 押さないでくださーい!」

「会場内での撮影・録音は固くお断りしておりまーす! ご協力お願いしまーす!」

スタッフたちの的確な誘導により、開場を待つ人々の列は、混乱もなく整然と形成されていく。その手際の良さは、さすが国内最大級の動画プラットフォーム企業といったところか。


グラウンドには、昨日の体育祭で使われたテントや長机が、PTAの協力によって巧みに再配置され、ちょっとした野外フェスティバル会場のような雰囲気を醸し出していた。そして、グラウンドの中央には、一夜にして組み上げられたとは思えないほど立派な、しかしどこかミステリアスな雰囲気のステージが鎮座している。その背後には、巨大なLEDスクリーン。まだ何も映し出されていないが、それだけで観客の期待を煽るには十分だった。

会場には、開演までまだ数時間あるにも関わらず、心地よいインストゥルメンタルの音楽が、控えめな音量で流れ始めていた。それは、どこか幻想的で、聴く者の心を穏やかにするような、美しいメロディー。

「…この曲、すごくいい感じだね。誰の曲だろう?」

「なんか、Kの曲の雰囲気にも似てる気がしない…?」

実はそのBGMは、K(暦)が「星降りの島」でのインスピレーションを元に、まだデモ段階で制作していた未発表のインストゥルメンタル曲だった。東雲しののめさんが、Kの才能を少しでも多くの人に届けたいという想いと、開演前の期待感を高めるための「仕掛け」として、こっそり流していたのだ。


午前9時。

開場のアナウンスと共に、整理券を持った人々が、興奮した面持ちでグラウンドへと流れ込んでいく。あっという間に、ステージ前の観覧エリアは人で埋め尽くされ、立ち見の生徒や保護者も、グラウンドの隅々までびっしりと列をなしていた。その数は、軽く数千人を超えているだろう。

「うわー、すごい人!」「本当にKが来るのかな、ドキドキするー!」

会場全体が、期待と熱気で、まるで一つの生き物のようにざわめいている。

フットワークの軽いPTAの有志たちは、急遽用意したポップコーンやジュースの屋台を出し、お祭りムードをさらに盛り上げていた。


開演1時間前。

ステージに、校長先生が少し緊張した面持ちで現れた。

「えー、本日は、誠におめでとうございます! いや、ありがとうございます! まさか、我が○○中学校のグラウンドで、このような素晴らしいイベントが開催されることになるとは、夢にも思っておりませんでした!」

校長先生は、昨夜のPTAからの「緊急提案」と、キララチューブからの「地域貢献と生徒たちへのサプライズ応援」という、もっともらしい説明を(一部脚色を加えながら)得意げに語り始めた。その話は少々長かったが、観客たちは、これから始まるであろう「奇跡」への期待感で、辛抱強く耳を傾けている。

校長先生の話が終わり、ステージが一旦暗転すると、今度はキララチューブのスタッフがマイクを握った。

「皆様、本日はお集まりいただき、誠にありがとうございます! 開演まで、今しばらくお待ちください! それまでの間、先日世界中で大きな話題となりました、K様のスペシャルドキュメンタリー映像(もちろん、今回のために東雲さんが緊急編集したものだ)を、こちらの大型スクリーンでお楽しみください!」

その言葉と共に、ステージ背後の巨大LEDスクリーンに、Kのこれまでの軌跡(流出動画からの快進撃、世界中からの称賛の声、そして謎に包まれたその存在…)をまとめた、スタイリッシュで感動的な映像が映し出された。Kの美しい歌声と、幻想的な映像がシンクロし、会場のボルテージは否応なく高まっていく。

「うおおおお! K、マジ神!」「早く会いたいー!」

いやがおうにも盛り上がる会場。もはや、体育祭の興奮を遥かに超える、一つの巨大な「お祭り」と化していた。


そして、ついに運命の時刻、午前10時が近づいてくる。

会場のBGMがふっと消え、スクリーンに「まもなく開演いたします」という文字が映し出される。

「皆様、本日は誠にありがとうございます! まもなく、Kによるスペシャルライブ、開演でございます! どうぞ、ご期待ください! 開演まで、あと1分です!」

司会者のアナウンスが響き渡ると、それまでの喧騒が嘘のように、グラウンドは水を打ったような静寂に包まれた。

数千人の観客が、固唾を飲んでステージを見つめている。誰もが一言も発せず、ただ、これから始まるであろう「奇跡」の瞬間を、息を殺して待っていた。

心臓の音が、いやに大きく聞こえる。

太陽の光が、ステージの中央に、まるでスポットライトのように降り注いでいる。

その、張り詰めた静寂の中で、運命のカウントダウンが、静かに始まろうとしていた。

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