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月影の万華鏡 ~魔法のプリズム、輝くシークレットライブ~  作者: 輝夜
第三章:芽吹きのプレリュード

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第三十話:真夏の極秘指令と、動き出すチームK


期末テストという大きな山場を乗り越え、月島暦つきしま こよみの通う中学校が夏休みへの期待感で浮き足立っていた頃。

キララエンターテイメントのクリエイターサポート部部長、東雲翔真しののめ しょうまの執務室は、静かな熱気に包まれていた。彼のデスクには、世界各国の衛星写真や海洋図、そして謎めいた古代遺跡に関する資料が山積みになっている。その目は、PCモニターに映し出された、ある一点の座標を食い入るように見つめていた。

(…間違いない。ここだ。Kの新たな伝説を創り上げる舞台は…)

彼の脳裏には、K――月島暦が持つ、あの常識を超えた「力」を最大限に活かした、前代未聞のMV撮影計画が、すでに鮮明なイメージとして描かれていた。


「東雲部長、例の『プロジェクト・ノヴァ(仮称)』の件ですが、チャーター船の手配、及び現地協力者との接触、第一段階は完了いたしました」

部下の一人である、国際渉外担当のベテランスタッフ、佐伯さえきが、緊張した面持ちで報告する。彼は、東雲しののめから「Kの次期プロジェクトに関する、最高機密事項」として、断片的な情報しか与えられていない。しかし、その断片的な情報だけでも、今回のプロジェクトが尋常ではない規模と、そして尋常ではない「何か」を伴うものであることを、肌で感じ取っていた。

「ご苦労、佐伯くん。機材の輸送ルートと、現地でのベースキャンプ設営の準備も、並行して進めてくれたまえ。ただし、全ては『環境調査のための学術的ロケハン』という名目で、だ。Kの名前は、絶対に表に出すな」

「…はっ! しかし部長、本当にあのような絶海の孤島に、我々だけで…?」

「問題ない。最も重要な『被写体』の移動手段は、我々の想像を遥かに超えるものになるだろうからな」

東雲しののめは、意味ありげに微笑んだ。佐伯には、それが何を意味するのか、皆目見当もつかなかったが、上司の揺るぎない自信に、ただ頷くしかなかった。


東雲しののめの頭の中は、Kの次なる一手で、世界をどう驚かせるか、その一点に集中していた。

Kのデビューは、動画流出というアクシデントから始まったが、その後のキララチューブの巧みな情報戦略と、何よりもK自身の圧倒的な才能によって、瞬く間に世界的な現象となった。しかし、東雲しののめは決して現状に満足していなかった。

(Kの魅力は、まだほんの序章に過ぎない。彼女のあの『力』…あれを映像として昇華させることができれば、Kはもはやアーティストという枠を超え、現代の神話となる…!)

そのためには、常識的な撮影方法やロケーションではダメだ。誰も見たことのない、誰も行くことのできない場所で、Kの神秘性と、彼女の力が織りなす奇跡を、映像として捉えなければならない。

そして、彼が見つけ出したのが、南太平洋に浮かぶ、地図にも載らない伝説の島――地元で『星降りの島』と呼ばれる場所だった。


その頃、キララチューブ社内では、「東雲部長が、また何かとんでもないことを企んでいるらしい」という噂が、まことしやかに囁かれていた。

「なあ、聞いたか? 東雲部長、最近ずっと海外の怪しいブローカーと連絡取ってるらしいぜ」

「K様の次のMV、ハリウッド超大作並みの予算が組まれるって話だぞ!」

「いやいや、それどころか、月面で撮影するって噂も…」

スタッフたちの間では、Kプロジェクトの全貌を知らされぬまま、期待と憶測が入り混じった熱気が渦巻いていた。彼らは、Kという奇跡の才能に魅せられ、そして東雲しののめというカリスマ的なリーダーの下で、何かとてつもない偉業に加担しているのだという、高揚感に酔いしれていた。

(東雲部長なら、きっとまた我々の想像を超えるサプライズを用意してくれるはずだ…!)

そんな期待が、彼らを突き動かす原動力となっていた。


一方、月島暦つきしま こよみは、そんな大人たちの熱狂と暗躍を知る由もなく、初めての夏休みを前に、友人たちとの計画に胸を膨らませていた。

(夏休み…Kとしての活動もあるけど、美咲ちゃんたちとの勉強会(という名のお楽しみ会)もあるし、美術部の宿題(大作に挑戦するぞ!)もあるし…でも、なんだかすごく楽しみ!)

そんな、普通の女子中学生らしい期待に胸を膨らませていたこよみの元に、ある日、東雲翔真しののめ しょうまさんから、一通の極秘メッセージが届いた。いつものKとしての連絡とは少し違う、どこか改まった文面だった。


『暦さん、夏休みのご予定はいかがでしょうか。もし、まだ具体的な計画がおありでなければ…Kとしての活動に、そして暦さんご自身の感性をさらに豊かにするための、特別な「冒険」にご招待したいのですが、ご興味はおありでしょうか?』

そのメッセージには、一枚の息をのむほど美しい写真が添付されていた。

どこまでも続くエメラルドグリーンの海、七色に輝く真っ白な砂浜、そして、夜空にはまるで宝石を散りばめたかのように無数の星々と、幻想的なオーロラが揺らめいている。

(…なに、ここ…!? すごく綺麗…! まるで、私が時々夢で見る、あの場所に少しだけ似ているような…)

こよみは、その写真に一瞬で心を奪われた。それは、彼女の心の奥底にある、遠い記憶の琴線に触れるような、不思議な魅力を持っていた。


翌日、キララチューブ本社内の「サンクチュアリ」で、東雲しののめさんは、興奮を隠せない様子のこよみに、その「特別な冒険」――『星降りの島』での極秘MV撮影計画――の詳細を語り始めた。

「この島は、まさに地球上に残された最後の秘境とも言える場所です。そして、K様の神秘的な魅力と、その唯一無二の才能を表現するには、これ以上ない舞台だと確信しています」

東雲しののめさんは、島の詳細な資料や、そこで撮影したい映像のイメージコンテを、熱っぽくこよみに見せる。それは、Kが島の自然と一体となり、まるで精霊のように歌い踊る、幻想的で壮大なスペクタクルだった。

「…すごい…本当に、こんなことが実現できるんですか…?」

「ええ。ただし、そのためには、暦さんの『力』が不可欠です。スタッフや機材の輸送は、佐伯くんたちが完璧に手配してくれますが、K様ご自身と、そして私のような一部の人間が、誰にも気づかれずに島へアクセスするためには…暦さんのテレポート能力をお借りするしかありません。そして、現地での撮影においても、その『力』が、我々の想像を超える奇跡を生み出してくれると信じています」

東雲しののめさんの瞳が、挑戦的な輝きを放つ。

「これは、単なるMV撮影ではありません。Kという伝説を、世界に刻み込むための、壮大なプロジェクトです。…暦さん、この『真夏の極秘指令』、共に遂行していただけませんか?」


それは、あまりにも大胆で、そして常識を超えた提案だった。

しかし、こよみの胸は、恐怖よりも遥かに大きな好奇心と、そして未知なる体験への期待で、ドキドキと高鳴っていた。

秘密の力を使って、誰も行けない場所へ行き、誰も見たことのないものを創り上げる。それは、まるで物語の主人公になったかのような、スリリングで、そして最高にエキサイティングな冒険の始まりを予感させた。

そして何よりも、東雲しののめさんが、自分の「力」を信じ、それを最大限に活かそうとしてくれていることが、嬉しかった。

「…はい! やります! 東雲さんと一緒なら、きっと、最高のものが作れるって信じてます!」

こよみは、力強く頷いた。その瞳には、夏の太陽にも負けないほどの、キラキラとした輝きが宿っていた。しかし、すぐに真剣な表情になり、東雲しののめを見つめた。

「でも、東雲さん。いきなり本番で、スタッフの皆さんが機材を運び込んだ後、私が初めてその島にテレポートするというのは、少し不安です。もしよろしければ…その『星降りの島』が本当に安全な場所なのか、そして私が問題なくそこへ行けるのかどうか、事前に一度、東雲さんと一緒に、下見としてちょっとだけ行ってみることはできませんか? 私が安全にテレポートできる場所を確認できれば、本番の時も、もっとスムーズに皆さんと合流できると思うんです」

その慎重な提案に、東雲しののめは感心したように頷いた。

「…さすがですね、暦さん。おっしゃる通りです。私も、それを提案しようと思っていました。では、早速ですが…今から少しだけ、その『星降りの島』へ、二人だけで偵察に行ってみましょうか? もちろん、これは極秘中の極秘行動です」

東雲しののめは、悪戯っぽく片目をつぶった。

こよみは、コクリと頷き、そして東雲しののめの手をそっと握った。彼が何か目印になるような小さな物(例えば、特殊な周波数を出す小さな発信機など)をポケットから取り出し、こよみに「これを頼りに」と目で合図する。

深呼吸を一つ。

次の瞬間、サンクチュアリの部屋から、二人の姿は音もなく消え去っていた。


こうして、Kの新たな伝説の舞台となる「星降りの島」への、極秘プロジェクトが、静かに、しかし確実に動き出した。

その裏では、東雲しののめ率いる「チームK(仮称)」のスタッフたちが、それぞれの持ち場で、Kと東雲しののめの期待に応えるべく、不眠不休で準備を進めている。彼らはまだ、自分たちがこれから目の当たりにするであろう「奇跡」の全貌を知らない。ただ、とてつもない何かが始まろうとしている予感だけを胸に、夏の太陽の下、汗を流しているのだった。そして、そのリーダーである東雲しののめが、今まさに、その奇跡の一端を体験しに、Kと共に未知の島へと旅立ったことも…。

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