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月影の万華鏡 ~魔法のプリズム、輝くシークレットライブ~  作者: 輝夜
第三章:芽吹きのプレリュード

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第二十四話:世界がKに恋をした日


月島暦つきしま こよみが、中学1年生として初めての中間テストが近づいてきていたそのころ。

彼女の預かり知らぬところで、世界は、一人の謎めいたアーティスト「K」の出現に、文字通り恋をしていた。


キララエンターテイメントのオフィスは、不眠不休の戦場と化していた。

「東雲部長! K様の公式チャンネル、開設から72時間で総再生回数1億回を突破! 現在も毎秒数千単位で伸び続けています!」

技術部のフロアリーダーが、興奮と疲労の入り混じった声で報告する。彼の目の下には深い隈が刻まれているが、その瞳はギラギラと輝いていた。

「YouTubeの世界歴代最短1億回再生記録、大幅に更新です! 各国からのアクセスが殺到し、サーバーは悲鳴を上げていますが、なんとか持ちこたえています!」

東雲翔真しののめ しょうまは、その報告を冷静に受け止めながらも、内心ではかつてないほどの高揚感を感じていた。彼の指示のもと、K特別対策チームは、ネット上に燎原の火のように広がった流出動画の削除と、公式チャンネルへの誘導を徹底。同時に、Kの神秘性を損なわないよう細心の注意を払いながら、断続的に情報を小出しにし、世界の飢餓感を煽っていた。

「広報より! 海外の超大手音楽レーベル数社から、K様への独占契約の打診が来ています!提示されている契約金、桁が…桁が違います!」

「営業です! 国内のトップ企業からのCMタイアップ依頼、すでに50件を超えました! K様のイメージに合うものだけを厳選していますが、それでも対応しきれません!」

スタッフたちの声は、悲鳴に近いが、その表情は誰もが恍惚としていた。彼らは今、歴史が変わる瞬間に立ち会っているのだという、強烈な実感があった。


その頃、世界の音楽シーンの重鎮たちも、Kの出現に度肝を抜かれていた。

ニューヨークの伝説的な音楽プロデューサー、デヴィッド・ローゼンバーグは、自身のSNSにこう投稿した。

『ここ数十年、これほどの衝撃を受けたことはない。Kの歌声は、まるで天からの啓示のようだ。彼女(あるいは彼?)は、間違いなく次世代の音楽シーンを定義する存在になるだろう。誰か、私にKを紹介してくれ!』

ロンドンの辛口で知られる音楽評論家、イザベラ・モンゴメリーは、自身のコラムでこう評した。

『Kの音楽は、ジャンルの壁を軽々と超越する。その歌声は魂を震わせ、映像は我々の美意識を根底から揺さぶる。正体不明? それがどうしたというのだ。重要なのは、我々が今、真の「芸術」に触れているという事実だ』

世界中のアーティストたちも、こぞってKへのリスペクトを表明。SNS上では、「#WhoIsK」「#K_ThePhenomenon」といったハッシュタグがトレンドを席巻し、Kの楽曲をカバーする動画や、KのMVを分析する動画が無数にアップロードされた。


一般の人々の熱狂も、凄まじかった。

パリのカフェでは、学生たちがKの話題で持ちきりだった。「Kの次の曲はどんな感じかしら?」「あの銀髪、地毛なのかな?」

リオのサンバダンサーたちは、Kの楽曲に合わせて即興で踊り、その動画がまたバズを生んだ。

東京の渋谷のスクランブル交差点では、大型ビジョンにKのティザー映像が流れるたびに、人々が足を止め、スマートフォンを向けた。

「ねえ、Kって本当にAIじゃないの? 人間であんなに完璧な存在、ありえる?」

「でも、あの歌声、すごく感情がこもってる気がするんだよね…」

「Kのグッズ、早く出ないかなー! 絶対買うのに!」

世界中の人々が、Kのミステリアスな魅力と、圧倒的な才能の虜になっていた。それは、国境も、年齢も、性別も超えた、純粋な感動の連鎖だった。


一方、その渦の中心にいる月島暦つきしま こよみは、そんな世界の熱狂を全く知る由もなく、一心不乱に中間テストの答案用紙と向き合っていた。

教室の窓の外から、微かに聞こえてくる救急車のサイレンの音。隣の席の早川美咲はやかわ みさきが、消しゴムを落として慌てている気配。黒板に書かれた、見慣れた数学の公式。

それが、彼女の「今」の全てだった。

時折、Kのメロディーが頭の中にリフレインしたり、世界中からのコメントの幻が目の前をチラついたりすることもあったが、彼女はそれを必死に振り払い、目の前の問題に集中した。

(大丈夫…私は、月島暦つきしま こよみ…今は、このテストに全力を尽くすだけ…Kのことは、終わってから考えればいい…)

彼女は知らない。自分がペンを走らせているその瞬間も、世界のどこかで、自分の歌声が誰かの心を癒し、自分の姿が誰かの希望になっていることを。

そして、自分が解いている数学の問題よりも遥かに複雑で、巨大な「運命」という名の歯車が、自分を中心に、猛烈な勢いで回転を始めていることにも、まだ気づいていなかった。


中間テストの最終日、最後の一科目が終わるチャイムが鳴り響いた瞬間。

こよみは、ペンを置き、大きく深呼吸をした。

(…終わった…)

全身から力が抜けていくような、心地よい疲労感。

その時、彼女のスマートフォンが、ポケットの中で控えめに震えた。

こっそりと取り出して画面を見ると、東雲しののめさんからの短いメッセージだった。

『K様、中間テスト、お疲れ様でした。素晴らしい結果を期待しております。

そして…世界は、あなたの次の「奇跡」を待っています。明日の放課後、例のスタジオでお待ちしております。最高の「ショー」を、世界に見せつけましょう』

その力強い言葉に、こよみの胸が、再び高鳴り始めた。

テストという一つの戦いを終えた彼女の前に、今、新たな、そして遥かに大きなステージへの扉が、開かれようとしていた。

その向こう側で、一体どんな景色が待っているのだろうか。

こよみは、窓の外の青空を見上げ、ほんの少しだけ、未来への期待に胸を膨らませるのだった。

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