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月影の万華鏡 ~魔法のプリズム、輝くシークレットライブ~  作者: 輝夜
第三章:芽吹きのプレリュード

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第十三話:眠れる獅子の覚醒と、スタッフたちの狂喜乱舞

 Kとの専属契約締結、そして公式チャンネル開設の発表は、キララチューブ社内に、かつてないほどの活気と熱狂をもたらしていた。流出事故という未曾有の危機から一転、世界が注目する超大型新人の独占契約という、これ以上ないほどのビッグチャンスを手に入れたのだ。社員たちの士気は最高潮に達し、オフィスはまるで祭りの前夜のような高揚感に包まれていた。


「東雲部長! Kさんの公式チャンネル、ティザー映像の再生回数が、公開からわずか半日で1000万回を突破しました! コメント欄も、期待の声で溢れかえっています!」

 クリエイターサポート部の若手社員が、興奮した様子で報告に来る。

「よし、上出来だ。だが、これはまだ序章に過ぎない。本当の勝負はここからだぞ」

 東雲翔真しののめ しょうまは、冷静な表情を崩さなかったが、その瞳の奥には確かな自信と野心が燃えていた。


 契約締結後、東雲しののめがまずK(暦)に提案したのは、あの流出してしまった動画――世界を震撼させた「銀髪の歌姫」の映像――の正式な権利許諾と、その活用についてだった。

「Kさん。例の動画ですが、あれはもはや伝説の始まりとも言える、歴史的な映像です。違法アップロードはほぼ一掃できましたが、あの映像を求める声は世界中から絶えません。つきましては、Kさんのご許可をいただいた上で、あの映像を公式コンテンツとして再編集し、Kさんのデビューを華々しく飾る第一弾として、公式チャンネルで公開させていただけないでしょうか?」

 東雲しののめからのメールには、そう綴られていた。さらに、その映像を基にした様々な展開案も添えられていた。CMタイアップ、アパレルブランドとのコラボレーション、キャラクターグッズの企画、さらにはアニメーションやゲーム化の構想まで。

(…あの動画を、正式に…?)

 こよみは、少し複雑な気持ちだった。あれは、あくまで個人的な趣味で撮影したもの。それがこんな形で世界に広まり、さらに商業的に利用されることになるとは、夢にも思っていなかった。

 しかし、東雲しののめの提案は、Kという存在を世に知らしめ、その価値を最大限に高めようという、プロデューサーとしての的確な判断に基づいていた。そして何より、その提案には、Kの才能への深い敬意と、成功への確信が込められているように感じられた。

(…もう、私だけのものじゃないのかもしれない。それに、東雲さんなら、きっと変な形にはしないはず…)

 こよみは、いくつかの条件(映像の編集権は自分にもあること、収益の一部は必ず社会貢献に繋げることなど)を付け加えた上で、その提案を承諾した。


 その返事を受け取った瞬間、キララチューブのクリエイターサポート部、そして関連部署のスタッフたちは、文字通り狂喜乱舞した。

「「「キターーーーーーーッ!!!」」」

 オフィス中に、地鳴りのような歓声が響き渡る。

「K様から、あの伝説の動画の使用許諾が下りたぞぉぉぉ!!」

「マジか! これで勝つる! いや、もう勝ったも同然だ!」

「CMの問い合わせ、すでに数十社から来てるらしいぜ!」

「グッズデザインチーム、今夜は徹夜だな! K様のイメージを損なわない、最高のクオリティで頼むぞ!」

 スタッフたちは、まるで宝の山を目の前にした探検家のように目を輝かせ、それぞれの専門分野で、Kのコンテンツを最大限に活かすためのアイデアを猛烈な勢いで出し始めた。

 それまでKの正体不明さや、契約の難航に気を揉んでいた他部署の人間たちも、このビッグニュースには色めき立った。営業部は広告代理店との交渉に走り、法務部は権利関係の整備に奔走し、広報部は世界中のメディアへのリリース準備に追われる。

 まさに、全社一丸となって、「Kプロジェクト」という巨大な歯車が、猛烈な勢いで回転を始めた瞬間だった。


 東雲しののめは、そんなスタッフたちの熱狂を頼もしく見守りながらも、冷静に指示を飛ばしていた。

「いいか、諸君! 我々が手にしたのは、ただの金の卵ではない。世界を変える可能性を秘めた、奇跡の才能だ。その価値を、決して安売りするな。そして、常にK様の意向とプライバシーを最優先に考えること。それが、我々の使命であり、成功への唯一の道だ!」

「「「はいっ!!!」」」

 スタッフたちの返事には、Kへの期待と、東雲しののめへの信頼、そして何よりも、この歴史的なプロジェクトに携われることへの誇りが満ち溢れていた。


 数日後、Kの公式チャンネルで、ついに最初の公式動画が公開された。

 それは、あの流出動画をベースに、キララチューブのトップクリエイターたちが技術の粋を集めて再編集し、さらにK(暦)自身も細部にまでこだわって監修した、まさに「完全版」とも言える映像作品だった。

 冒頭には、「This video is presented by KiraraTube with special thanks to K.(この映像は、K様への特別な感謝と共に、キララチューブがお届けします)」というメッセージが添えられ、Kの神秘的なイメージを損なうことなく、しかし公式コンテンツであることを明確に示していた。

 映像の美しさ、Kの歌声の素晴らしさはもちろんのこと、以前の流出動画では不明瞭だった細部までクリアになり、新たな発見や解釈が生まれる余地も残されていた。

 そして、動画の最後には、Kの新しいロゴマークと、「New song coming soon…」という、次なる展開を予感させるメッセージが表示された。


 その動画は、公開と同時に世界中で爆発的な再生回数を記録した。

 コメント欄は、称賛、感謝、そして次への期待の声で埋め尽くされ、Kの名前は再び世界のトレンドを席巻した。

「公式キター! 画質も音質も最高!」

「やっぱりKは本物だった! キララチューブ、よくやってくれた!」

「この子の才能は国宝級だろ…大切に育ててくれよな!」

「新曲楽しみすぎる! 早く聴きたい!」

 かつての流出騒動のマイナスイメージは完全に払拭され、Kとキララチューブに対する期待感は、かつてないほど高まっていた。


 キララチューブのスタッフたちは、その熱狂を肌で感じながら、次なる一手に向けて、さらにアクセルを踏み込んでいく。

 Kのデビューアルバムの企画、初のオンラインライブの構想、さらには海外の有名プロデューサーとのコラボレーションの打診…。

 彼らの頭の中には、Kという才能を最大限に輝かせるための、無限のアイデアが溢れていた。

「働けっ! K様のために! そして、会社の未来のために!」

 そんな無言の檄が、キララチューブのオフィス中に響き渡っているかのようだった。

 そして、その熱意に応えるかのように、K(暦)もまた、彼らの期待を遥かに超えるスピードとクオリティで、次々と新しい「作品」を生み出していく準備を、秘密裏に進めているのだった。

 誰もが、このプロジェクトの成功を確信していた。

 まさか、その先に、Kの「普通ではない力」が、良くも悪くも大きな影響を及ぼすことになるなど、この時の彼らは、まだ知る由もなかったのである。

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