この剣が朽ちる前に ウェンスノーセ評伝
ウェンスノーセ合邦に王家などは実在しない。
似たものは在るが、その名に権威や格式を感じ取る国民は余りに少ない。象徴としてもこの国に君臨したその在位は短く断続的に過ぎ、とうてい、自ららが戴く「王家」とは誰も認めてなどいない。
王が治めるにウェンスノーセは抱える事情が余りに複雑に過ぎた。
まず、貧困。
雪勝ちな山塊の麓にへばりつく様に人々は暮らしている。なぜわざわざこの様な場所に好き好んで暮らすのか。
そして、人種、民族。
狭い国土は20前後の部族と10以上の人種、宗教に彩られ混淆し、誰が治めても何処かで不平が挙がる。そういうふうに出来て上がってしまっていた。
自然、合議と遵法の風土がこの地に育まれた。
その、王党派と議会連合、最後の決戦の戦場。
連合軍の主軸に、大魔導、ホリッシュロートンの名を見て取る事が出来る。
だがこれを唯一最後に、その名は歴史から姿を消す。
険阻な国土は、人々にそれを克する力を養わせた。
魔導の力は小国、ウェンスノーセが他国の干渉を撥ね退ける盾であり、渇望される矛でもあった。
国内が納まって後、その魔力は請われて国外に猛威を振るった。
だがそこにも、ホリッシュの名は無かった。
これに興味を抱く者は時の狭間にただ絶望するしかない。
事実は家内で、口伝でのみ継承されているのだから。
決戦に臨み、既に初代は政治的存在と化していた。
彼はこの時点で戦後を睨み、活発に活動していたのだ。
遂に敵対することとなった水竜遣い、ダンスタールに向け最後の瞬間迄で懸命に念話を送っていた。
ここで我等が潰し合いを演じて誰が喜ぶと思う。
この小邦は近隣に刈り尽くされようぞ。魔力のみをだ。
我が子女も質に出そう。ここはたって退いてくれ、ダンスタールよ。
世界を焼き尽くす程の力を手にしながら、溺れず、奢らず、初代はそれを直に振るう事無く、それを担保に世界に向け精力的に働き掛け続けた。
小国、ウェンスノーセ。それが魔の強国として世界の表舞台に躍り出たのは、初代のそうした入念な工作の結果だった。
魔の強国、などと嘯いても、それは一握り、個の資質に依存した劣弱なものに過ぎない。
それを。決定的な局面で、決定的な戦力として然るべく、投じる。
「戦勝代理人」ウェンスノーセ魔導傭兵は大陸各国が大金を積みその力を要請した。