ルゥと人間の家族~前編~
おばあ様のタウンハウスで湯浴みをして、淡いピンクのワンピースに着替えた。
宴はコルセットで苦しいだろうからってギリギリまで緩い服でいられるようにおばあ様が準備してくれたらしい。
豪華な部屋の大きなテーブルに、おいしそうなお菓子がたくさん並んでいる。
わたしの両隣にはじいじとイフリート王が座っている。
お行儀よくした方がいいのかな?
まだいつも通りで平気かな?
おいしそうなお菓子をじっと見ているわたしに、おばあ様が話しかけてくれる。
「ルゥちゃん? いつも通りにしていいのよ? ここには家族と信頼できる人しかいないのだから」
いつも通りでいいんだ。
よかった。
「おいしい? ルゥちゃんが甘い物が好きだって前ヴォジャノーイ王に聞いていたから、たくさん用意したのよ?」
おいしい……
見た事がないお菓子がいっぱいだ!
「おばあ様! 全部すごくおいしいよ! ありがとう」
ニコニコのわたしに皆が笑顔になった。
ルゥのお母さんはこの環境で育ったんだね。
「おばあ様? ルゥのお兄さんには宴で会えるの?」
「ええ。そうよ。でも……もし嫌でなければ、お兄様って呼んであげた方が喜ぶかもしれないわね」
「わたしがお兄様って呼んでもいいのかな? わたしはルゥじゃないのに……」
わたしはルゥの身体を勝手に使っているだけなのに。
本当にいいの?
「お兄様は全部分かっているわ。妹の身体を生かしてくれたルゥちゃんに感謝しているのよ?」
お兄様……
ルゥにそっくりで、ずっとルゥを捜してくれていたんだよね。
優しい人間だって分かってはいるけど、正直怖いんだ。
本当だったら、ルゥがこの場にいるべきだから。
わたしは……
やっぱりルゥの居場所を奪っているんだ。
「ルゥ……おばあ様の言う通りだ。皆がルゥに感謝しているのだ。だから、そんな悲しい顔をしなくていい」
じいじがわたしの髪を撫でながら優しく微笑んでくれる。
「前ヴォジャノーイ王。ルゥちゃんとつがいになったと聞いて安心しました。姉もルゥちゃんの幸せな姿を見て喜んでいるはずです」
叔父様……
本当に立派な人間だ。
ヴォジャノーイ族は魔族の中でも残忍な事で知られている。
でも、ちゃんとじいじの優しさを分かってくれているんだ。
「お……叔父様? ……って呼んでもいい?」
「もちろんだよ。嬉しいよ」
よかった。
嫌って言われたらどうしようかと思ったよ。
「叔父様。あのね……わたし、嬉しいの。叔父様にもおばあ様にも、じいじの事を優しいって分かってもらえて本当に嬉しいの」
幸せそうに笑うわたしに、おばあ様が涙を流した?
「おばあ様!? どうしたの? どこか痛い?」
わたしの力で治せるよ?
前世のおばあちゃんに、この力が使えたら……
おばあちゃんは死なずに済んだのかな……
「違うの。幸せそうな姿を見て嬉しくなってね。ルゥちゃんのお母様も伯母様も不幸な最期を迎えたの。大国にお嫁に行けば幸せになれると思っていたなんて……おばあ様は愚かだったわ……大切な人と一緒にいられる事が本当の幸せなのに」
おばあ様……
自分を責めているの?
「おばあ様……泣かないで?」
「ルゥちゃんは優しいのね。レオンハルトもルゥちゃんもヘリオスも不幸にさせてしまったのは全ておばあ様のせいなのに……」
「レオンハルト? ヘリオスって誰?」
「ああ……そうだったわね。いつかルゥちゃんに助けられた人がいたのだけれど。覚えているかしら? 三人の男の子達の中の一人が、ルゥちゃんのいとこのレオンハルトだったの」
三人の人間?
もしかして魚族に襲われていた人間かな?
確かおばあ様が船に乗って大砲を撃ち込んでいた時にもいたはず。
いとこって事は、叔父様の子供なのかな?
「叔父様? レオンハルトは叔父様の子供なの?」
「いや、違うよ? 一番上の姉の子だよ?」
伯母様の子……
じゃあ王子だったのか。
確かに身分が高そうだったよ。
「ヘリオスはルゥちゃんのお兄様よ」
おばあ様が教えてくれたけど……
お兄様……?
ヘリオスっていう名前だったんだ。
「レオンハルトも今日の宴に参加するの。ルゥちゃんに会えるのを楽しみにしていたのよ?」
いとこだって知らずに助けていたのか……
不思議な縁だね。
でも……
この広い世界でそんな偶然があるのかな?
「ルゥちゃん? そろそろ支度に取りかかりましょうか」
おばあ様が椅子から立ち上がった。
すごく綺麗な所作だね。
人間は皆そうなのかな?
「うん……じいじとイフリート王は?」
身支度に時間がかかりそうだし……
「じいじ達は叔父上と話をしているから、ルゥはゆっくり身支度をしておいで」
隣に座るじいじが優しく髪を撫でながら話しているけど……
人間だけの空間にいるのは初めてで少し不安だよ。
いつも魔族の誰かがいてくれたから……
「うん……行って来るね」
じいじは叔父様と知り合いみたいだったね。
何度も会っているのかも。
じいじは毎日忙しいんだな。
わたしの為に申し訳ないよ……
いつも頼ってばかりで何も返せていない。




