王子の恋わずらい
今回は人間の王子が主役です。
わたしはプルメリア第二王子、レオンハルト。
魚族に襲われ、瀕死の重症を負ったはずなのに。
人魚の薬は良く効くのだな。
それに、あの人魚……
「美しかった」
人魚姫への感情が思わず口から出てしまった……
「え? なんですか?」
従者が尋ねてきた!?
「……いや、なんでもない」
聞こえてしまったか。
顔が赤くなっているのが自分でも分かる。
恥ずかしい……
「あー、分かりました。あの人魚姫の事を考えていたんですね?」
見抜かれていたか。
というか、もう黙れ。
「殿下は顔に出やすいですから」
爽やかな風が吹く第二王子宮の庭園。
噴水に座るわたしの顔を覗き込んで、従者がニヤニヤ笑う。
笑うな!
全く!
この笑っている短い赤髪の男は、わたしの従者。
通称マクス。
戦場の死神と呼ばれる男爵家の三男だ。
「それにしても、人魚の肌って土の色なんですね。やっぱり海にいるから日に焼けるのかなー?」
マクスが真剣な表情で考えている。
少し知能が足りない感じもするが、まぁいつもの事だ。
人魚姫が薬を塗ってくれた時、肌の色にムラがあるのが見えた。
あれは日焼けを防ぐ為に塗っている土だろう。
人魚姫に助けられてから五日経った。
傷はすっかり治り、国にも戻れた。
魚人族に陸まで運ばれたようだが途中から記憶が曖昧だ。
出血が酷かったからか?
頬の傷に薬を塗ってくれた時の人魚姫の手……
「柔らかかった」
「へぇー……」
マクスがニヤニヤ笑っている?
しまった。
また口に出ていたか。
「女嫌いなのに、すっかり恋しちゃってますね!」
マクスがニヤニヤしながら顔を覗き込んできた!?
恋……?
そうだ。
自分でも分かっている。
これは恋だ。
今まで、どんな美しい令嬢に会っても胸が高鳴る事はなかった。
それなのに人魚に恋をするなんて。
「はぁ……」
大きなため息が出る。
これで何度目だろう。
「またため息ですか? 恋するとため息ばかり出るんですね」
ずっとニヤニヤしている。
……もう黙れ。
あの人魚姫のいた海域は魔素が強く人が近づく事ができなかったのだが、最近になり魔素が薄くなったと報告があった。
そこで第二王子のわたしが王妃の策略で『死の島』の視察に行く事になったのだ。
現王妃は母が亡くなった後、王妃として迎えられた。
実子である第三王子を次期王にする為に色々画策しているようだ。
「はぁ……」
また、ため息が出る。
「殿下? また、人魚姫ですか?」
……マクス
もう黙れ、本当に黙れ。
「殿下。失礼します」
「あぁ、リュート」
もう一人の従者、リュートが報告書を持って歩いて来る。
金色の美しい髪が風になびいている。
リュートは平民だが、賢く剣の腕も優れているし人柄も良い。
「死の島付近の無人島に三人分の墓がありました。墓といっても土に埋められているだけで、この花が手向けてありました。遺体は腐敗が酷く持ち帰る事ができませんでした。それから、墓のひとつには小魚が埋めてありました」
小魚?
……?
リュートが持ち帰った花。
この花は『プルメリア』
我が国の国花だ。
我々を襲った、あの海域に住む魚族が人間の亡骸を埋葬するとは思えない。
もしかしたら……
人魚姫が……?
「人魚姫……」
白く美しいプルメリアに唇を寄せる。
もう一度あなたに会いたい。