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家族で穴掘り~ルゥが主役の物語、前編~

 人間を助けた後、死の島に戻ってパパが作ったプリンを食べていると、じいじが帰って来る。


「帰ったぞ。ほらお土産だ」


 じいじは、人化して時々人間の国に行っている。

 人間に紛れて情報を集めているヴォジャノーイ族に会いに行っているらしい。


 一度、人化した姿を見たけどすごくかっこ良かったなぁ。

 じいじは普段もきちんとした服を着ていてスマートな紳士っていう感じなんだよね。


「じいじ、ありがとう」


 うわぁ。

 人間が作ったクッキーだ。

 おいしそう!


 ヴォジャノーイ族のおじちゃん達は、人間を送りに行ってから帰って来ていないんだよね。

 わたしから、さっきの人間の話をした方がいいかな?

 

「あのね、じいじ……」 

 

「あぁ。分かっている。じいじは海の事ならなんでも分かるのだ」


 じいじが、わたしの髪を優しく撫でながら微笑んでいるけど……


「なんでも?」

 

 誰かから報告を受けたのかな?


「そうだ。まだ人間の死体が海に残っている。血の匂いにつられて良くないものが現れるかもしれない」

 

 じいじの顔が少し険しくなった?


「良くないもの?」

 

 なんだろう?

 じいじが言うんだからかなり悪いものなのかも。



 少し離れた所でわたしを送ってくれたヴォジャノーイ族のおじちゃんとじいじが話しているけど……

 わたしには聞かせたくない話なのかな?

 しばらくすると、じいじがわたしの所に戻って来た。

 

「今から死体を処理してくる」

 

 処理?

 どうやるんだろう?

 じいじが言うと怖いな……


「かわいそうだよぉ! ちゃんと埋めてあげないと、かわいそうだよぉ!」


 パパが泣きながら震えているね。


 わたしは魔族の中で育ったから、考え方が魔族寄りなんだよね。

 パパは優しいし考え方が人間に近いのかも。

 

「これだからグズオークはダメなんだ!」


 ママ……

 帰って来たんだ。

 そんな事を言ったら……

 

「うわあぁぁん!」


 ママが虐めるから本気で泣いちゃった。

 パパ……

 かわいそう。

 

 死体が海水に入っていなければいいのかな?


「じいじ、死体を埋めたら良くないものは来なくなる?」

 

 パパの頭を撫でて、慰めながら尋ねてみる。

 これくらいなら教えてくれるかな?


「そうだ。海水から伝わる血の匂いに誘われて奴らが来たら面倒だ」

  

 じいじが、パパに呆れた顔をしながら教えてくれたね。

 でも、奴らって?


「埋めるの手伝いたいよぉ。一緒に行ってもいいかなぁ?」

 

 パパも付いて行きたいの?

 血を見ただけで失神しちゃうのに大丈夫なの?

 かなり酷い事になっていたけど。


「パパ、行かない方がいいよ? 血がいっぱい出ていたし」


「え? いっぱい? ううっ……でも……やっぱり、ちゃんと埋めてあげたいんだよぉ!」

 

 仕方ないな。

 どうしても行きたいみたい。

 まさか、じいじが失神したパパを置き去りにするなんて事は……

 いや……

 あり得るね。


「じいじ! わたしも行きたい!」


 パパの事はわたしが守ってあげるからね!




 じいじとパパとわたしが、じいじの魔術で海の中を進む。

 

 何回経験しても不思議だよ。

 海の中でも息ができる。

 魔力で引っ張られるから泳がなくていいんだよね。

 魚達は避けてくれるし、魚族はじいじに頭を下げたりわたしに手を振ったり。

 上空には、ママがわたし達と同じスピードで飛んでいる。

 結局心配して、付いて来てくれるんだよね。

 ママはいつもそうなんだ。

 わたしの事はすごく大切にしてくれるし、パパにも口では酷い事を言っても本当に困った時はさりげなく助けてくれる。

 ツンデレ……

 いや、あれは好きな人にやる事だっけ?

 ママとパパは……

 絶対に違うよね。

『わたしのママ』と『わたしのパパ』っていうだけで、本当に結婚してはいないし。


 死体を埋める場所に着いた。

 死の島の近くには小さな無人島がいくつもある。

 時々じいじと遊びに来たりもするけど、この島は初めてだ。

 死の島より、かなり小さい。

 木が少し生えているだけの何もない島。

 

 ヴォジャノーイ族のおじちゃん二人が死体を運んで来てくれているね。

 生きている人間は無事に送れたかな?

 

「おじちゃん達、さっきは、ありがとう。人間達は大丈夫だった?」

 

 疲れさせちゃったよね。

 

「姫様あぁ。大丈夫です。面倒だから途中で頭を殴って気絶させましたから!」


 おじちゃん達が涙を流しながら、すがり付いてきたね。

 お礼を言っただけなのに、そんなにありがたがらなくても……

 普段、どれだけ虐げられているんだろう?

 ん?

 頭を殴って気絶させたって言った?

 

「うぅ……頑張って埋めるぅ。でも見ないようにするぅ」


 パパが死の島から持って来た園芸用のスコップを持ちながら震えているね。

 

 パパ…

 吐きそうだ。

 ん?

 ヨダレが出ているような……

 気のせい……だよね?


 それにしても、園芸用スコップを持っているパパの顔……

 怖っ!

 証拠隠滅しようとしている悪者みたい。

 

 この場にいる皆が無言になったね。

 

「お前、顔怖いぞ」

 

 ……!?

 ママ!

 言わないであげて。

 顔は怖いけど優しいんだから!

 また泣いちゃうよ?


 ザッザッ

 

 パパが気づかずに一生懸命穴を掘っている?

 

 良かった。

 砂を掘る音で聞こえていなかったみたい。

 

「わたしも掘るね。パパ」

 

 頑張って、スコップで穴を掘るよ!

 

「姫様! わたしもお手伝いさせてください」

 

「オレがやります。姫様!」

 

 おじちゃん達は穴堀りが好きなのかな?

 やる気がすごいよ。

 

 じいじとママは……

 険しい顔をして遠くを見ている?

 なんだろう?

 わたしには何も見えないよ。

 

「姫様! わたしの掘った穴が一番大きいです!」

 

「何? オレのが一番だ!」


 また、おじちゃん達の『自分が一番アピール』が始まったね。   

 ヴォジャノーイ族の英雄らしいけど、いつも張り合っているんだよね。

 

 ヴォジャノーイ族は海の支配者と呼ばれるほど冷酷で残忍らしいんだけど……

 全然そうは思えないくらい優しいんだよね。

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― 新着の感想 ―
[一言] 娘を守るために、一心不乱に穴を掘るパパ。 ん、犯罪だねw。
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