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王子と人魚姫~後編~

「皆、やめて!」

 

 大声で魚族に呼びかけると、一斉に攻撃をやめてくれた。


「姫様? 島から出たら危ない……ます!」


 一生懸命敬語を使おうとしているよ。

 かわいいね……


「今、じいじがいないの。ここまで来られる船なんてお金持ちの貴族か何かだよ? これ以上人間を攻撃すると問題になるかも!」

 

 大声で説得したけど……

 分かってくれたかな?

 

「姫様……姫様が言うなら……ます。やめる……ます」

 

 じいじが怖いおかげで、魚族の皆が大人しく言う事を聞いてくれて助かったよ。

 

「ありがとう。怪我した魚族の皆は、ちゃんと手当てしてね」

 

「姫様ああぁ!」

 

 魚族の皆、さっきまで怖い顔をして人間を襲っていたとは思えないくらい、わたしにメロメロになっている……

 あれ?

 ヴォジャノーイ族のおじちゃん達もだ。

 魔族って……チョロい……?

 いや、ダメだよ。

 こんな風に思ったらダメ!

 皆、優しいんだよ!

 チョロいとか思っちゃダメ!


 さて、人間はどうしよう?


 沈みかかった船に、なんとかしがみついている。

 このままだと船ごと沈むね。


「人間、大丈夫? どうすればいい?」


「人魚か?」


 さっきの争いで海水が濁っている。

 海面に肩から上だけしか出ていないから足が見えないんだね。

 魚族だと思ったのかな?

 人間だと知られたら面倒だし、このまま勘違いさせておこう。

 それにしても、異世界に来てから初めて人間に会ったけど、変な感じだよ……


「人間、どうすればいい? 助けたいの」


 これ以上被害が大きくなる前に帰ってもらおう。


「助ける? さっきまでオレ達を食べようとしていた魚族を信じろと言うのか?」

 

 赤髪の男が怖い顔をしてにらんできたね。

 

 パパの顔の方が怖いから、全然怖くないよ!

 勝手に、この危ない海域に入って来たくせに何を言っているんだろうね。


「じゃあ助けなくていい? もう魚族は襲わないから泳いでどこかの島まで行く? かなり遠いけど」


 人間の住む島までは遠いから泳ぐ事はできないよ?


「人魚の姫よ。助けてもらったのはありがたいが信用する事はできない」


 金髪の人間も、人魚の姫って……

 完全に勘違いしているよ。

 ……死にそうなくらいボロボロだけど。

 まあ一応助けたし、これ以上助けて欲しくないみたいだし。


「じゃあ、わたし達はもう行くね」


 わたしを囲むようにいるヴォジャノーイ族のおじちゃん達に目配せする。


「待ってくれ」

 

 小さい声が聞こえてきた?

 弱々しくて今にも消えそうな声だ。


「すまない。助けてもらったのにきちんと礼も出来ずに。……すまない」


 血まみれで、動かなかった銀髪の人間が謝ってきたね。

 

 ふーん。

 動かないから死んでいるかと思ったけど生きていたんだね。

 でも、かなり出血しているけど……

 

「人魚の姫よ。わたし達を陸まで運んでもらえないだろうか……」


 この銀髪人間もわたしを人魚だと思っているみたいだね。


「死んでいる二人はどうしたい?」


 ここに置いていっても食べられちゃうよ。

 

「一緒に連れて行ってきちんと埋葬してあげたい。わたしの為に命を落とした……わたしのせいで……」

 

 うーん。

 埋葬したい気持ちも分かるけど、魚族に食べられた傷が残っているし……


 魚族に襲われた証拠だし問題にならないかな?

 できれば死んだ人間は置いていって欲しいよ。


「連れて行けるのは三人までだよ。それ以上は無理」


 悪いけど、魚族に不利になる証拠は減らしておきたいからね。

 

「……そうか。無理を言ってすまない」


 この銀髪人間は礼儀をわきまえている。

 赤髪と金髪からも随分気遣われているし、身分も高そうだ。


 とりあえず、この人間達だけでも生きて帰らせよう。


「姫様、では我々が人間のいる所まで、この人間達を運びましょう。姫様はこれ以上島から離れる事ができませんので」


「そうです。姫様にもしもの事があれば我々は生きていけません」

 

 ヴォジャノーイ族のおじちゃん達が死の島に帰るようにお願いしてきたね。

 そんなにじいじが怖いのかな?

 これ以上じいじに虐められたら可哀想だし……


「分かった。わたしは帰るね。後はお願い」


「御意! では、わたしが姫様を島までお送りいたしましょう」


「何を言ってるんだ! オレがお連れする!」


「いや、わたしが!」


 おじちゃん達……

 ……誰でもいいよ。

 早くしないと人間が死んじゃうよ?

 仕方ないな。

 

「人間、この薬を塗って」

 

 パパが心配して、いつも持たせてくれる塗り薬があるんだ。

 

 良く効くんだよね。

 三人共、酷い傷だ。

 塗ってあげよう。

 毒でも塗るんじゃないかって顔をしているけど抵抗する力も残っていないみたいだね。

 これだけ恩を売っておけば後々、魚族に有利になるかも。

 

 それにしても、じっくり見てくるよ。

 人魚だと思っているからかな?

 

「ありがとう。人魚姫。この恩は決して忘れない」

 

 いや、忘れて欲しいんだけど。

 魔族と人間が一緒に暮らしているなんてバレたらどうなる事か。

 もし家族と一緒に暮らせなくなったら……

 絶対嫌だよ!

 やっとお父さんとお母さんができたんだから。

 

 前世では、お母さんはわたしを産んですぐ亡くなった。

 お父さんは海洋学者で、わたしが一歳の時に海に出たまま帰らなかった。

 わたしは、おばあちゃんに育てられて高校二年の夏まで一緒に暮らしたけど……


 優しかったおばあちゃんも亡くなった。

 ひとりぼっちになったんだ。

 ……すごく辛かった。

  

 だから今度は絶対家族と幸せになるんだ!

 今度こそ……


 

 死の島に帰って来ると、パパの待つ家に入る。

 

「パパ! 帰ったよ!」


 プリンの甘い匂いがするパパに抱きつく。

 お腹のプヨプヨが気持ちいいなぁ。


「ルゥお帰りぃ。プリンもうすぐ出来上がるからねぇ」 


 ニコニコのパパが抱きしめてくれる。


「うわあぁ! 嬉しいな!」


 幸せだな。

 魔族とか人間とか、どうでもいいんだ。

 この幸せを手離したくない。


 パパはわたしが抱きつくと、いつも髪を優しく撫でてくれる。


 前世では、お父さんにもお母さんにも撫でてもらえなかったけど今はパパもママも、じいじも撫でてくれるんだ。


 きっと神様が今度こそ幸せになれるように、この世界に来させてくれたんだね。


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