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王子と人魚姫~前編~

「あれぇ? ヴォジャノーイのお友達だよぉ?」


 パパが透き通る綺麗な海を指差した。

 海から砂浜に上がってくるヴォジャノーイ族のおじちゃんが三人見える。

 

 この世界の約半分の海をヴォジャノーイ族が統治しているらしい。

 いつもはバラバラに広い海を泳いで見回っていて、状況をじいじに知らせに来ているんだ。

 じいじには海の小さな揉め事を解決する役割があるらしい。

 国を巻き込むような事はヴォジャノーイ族の王様が対応しているみたいだけど……

 わたしは会った事が無いんだよね。

 

 今日もかなりの距離を泳いで来たはず。

 

「皆、遊びに来たのかなぁ?」

 

 パパがニコニコ笑いながら話しかけてくる。

 ほっぺたがピンクになってかわいいな。

 顔は怖いけど。

 それに、遊びに来たっていうより、こき使われに来ているような……

 おじちゃん達がわたしの目の前までソワソワ、ニコニコしながら歩いて来る。

 

「ごめんね。じいじ、いないの」

 

 わたしの言葉におじちゃん達の笑顔が輝いた。

 じいじが怖いから、いないと嬉しいのかな?

 

 三人のヴォジャノーイ族が、わたしにひざまずく。

 

「全魔族の月、ルゥ姫様にご挨拶申し上げます」


 じいじの友達は毎回挨拶がすごいね。

 じいじがヴォジャノーイ族の王族だから姫って呼ぶし。

 よっぽど、じいじの事が怖いんだ。


「遊びに来てくれて嬉しいよ。膝が痛くなっちゃうから立って?」


 かわいそうになっちゃうから、もう立って欲しいよ。

 

「姫様……なんとお優しい!」

 

 いや、いきなりひざまずかれても困るし。

 こんな事で優しいなんて、普段どれだけ虐げられているの?

 

「姫様……」

 

 おじちゃんの一人が立ち上がりながら話し始めたね。

 

「実は、この近くの海で船が沈没しまして。人間の血が海に流れ出てしまい、付近の魚族が人間の肉の取り合いを……」

 

 わたしもじいじの『孫』じゃなかったら……

 ……うん。

 考えないようにしよう。

  

「じいじは夕方まで帰れないって言っていたよ?」

 

「そうですか。魚族だけの事でしたら我々で対処出来るのですが、相手が人間ですので……」

 

 早くしないと食べられちゃうから、急いでいるのか。

 うーん……

 

「ここから見える距離?」

 

 この島から見える距離なら出かけてもいいって言われているんだよね。

 

「はい。小さくですが見えます。あの辺りです」

 

 おじちゃんが指を差しながら教えてくれたけど、人間のわたしには何も見えないよ。


「わたしをあそこまで連れて行ける?」


「え? 姫様をですか?」

 

 おじちゃん達が、余計な事を伝えてしまったと慌てているね。

 

「ダ……ダメだよぉ。危ないよぉ」


 パパがガタガタ震えながら止めようとするけど……

 

「大丈夫だよ。パパ。この辺りの魚族は皆、知り合いだから」

 

 いつも波打ち際で話したりしているし皆、優しいんだよね。

 

「で……でもぉ」

 

 パパが今にも泣き出しそうにオロオロしている。


「大丈夫だよ? すぐ帰って来るし、おじちゃん達もいるから」 


「ハーピーが帰って来るまで待つのは、ダメなのぉ?」


 ママはいつ帰って来るか分からないし。

 魚族が人間を全員食べたら問題が大きくなるかもしれない。

 

「わたしが行くよ。おじちゃん、連れて行って」

 

 おじちゃんの手を握ると、手を握られたおじちゃんが嬉しそうな顔をしている。

 他のおじちゃん達は自分も握って欲しそうに手を差し出しているね。


「パパも行くよぉ」

 

 パパが足をガクガク震わせながら勇気を振り絞ってくれたけど……

 

「大丈夫。すぐ帰って来るから。あ、そうだ。パパのプリンが食べたいな」


 パパは優しいし、血を見たら倒れちゃうから一緒に行くのは無理だよ。

 プリンを作って待っていてもらおう。 


「プリン? でもぉ……危ないから行かないでぇ」

 

 心配で堪らなそうだね。

 だけど、行かないと。


 ニコッと笑いながらお願いしてみよう。


「パパのプリンは世界一おいしいから、食べたいな」


「世界一? おいしい? うーん……分かったよぉ。作って待ってるねぇ。でも絶対に怪我だけはダメだよぉ?」

 

 パパが、ニコニコ笑って納得してくれたね。

 よし、これで大丈夫。

 

「じゃあ、連れて行って、おじちゃん達!」

 

「絶対に怪我をしないようにしてください。姫様!」

 

 心配そうな顔をしているけど、ちゃんと連れて行ってくれるんだね。

 海に顔まで入るとヴォジャノーイ族のおじちゃん達がわたしの身体を魔力で包み込む。

 

 前にも、じいじにやってもらって遊んだけど何度やっても不思議だよ。


 海の中に潜っても息が普通にできるし、おじちゃん達の魔力に引っ張られるから泳がなくていい。

 この辺りは海流が複雑で魚族でも時々溺れるらしいんだけど……

 なんで人間の船がこんな危ない所まで入り込んで来たんだろう?

 

「あそこです!」

 

 指差した先ではたくさんの魚族が人間を襲っている。

 

 あれ?

 生きている人間がまだいる。

 二人はフラフラになっているけど、沈みかけた船の上で魚族と戦っているね。

  

 一人は船の上で動かないな。

 死んでいるのかも。 

 あとは……?

 船から投げ出された二人は魚族に食べられている。

 とりあえず、生きている人間だけは助けておかないとまずいかな。

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