プロローグ
あれ?
わたし……?
仰向けに倒れている背中から熱と湿気を感じる。
確か溺れている近所の子を助けようと川に飛び込んで……
それからどうなったんだろう?
あの子は……?
助かったの?
起き上がろうとしても身体が動かない。
あれ?
身体に力が入らない?
もしかして動けないくらい大怪我したの?
ん?
赤ちゃんの小さな手が視界に入ってくる。
キラキラ光る物を握っている。
赤ちゃんがいるの?
わたしが助けようとしたのは小学生だし……
んん!?
ちょっと待って!?
これ
え?
わたしの手……?
まさか
そんな……
赤ちゃんの手の向こうに見える景色……
嘘でしょ?
見た事のない鳥が飛んでいる。
何あれ?
上半身は人間で、下半身は鳥?
手が……翼……?
嘘でしょ?
そうか
これは夢だ
夢か
そう
夢……
だよね?
だってあの鳥、絶対わたしに向かって飛んで来ているよ?
このままだと、わたし食べられちゃう感じだよ?
嘘!
待って待って待ってぇー!!
これが、わたしの第二の人生の一番最初の記憶。
「あの時はママに食べられるかと思ったよ」
常夏の『死の島』に少しだけ涼しい風が吹く夕方の砂浜。
わたしの片耳で、青い宝石の付いた耳飾りがキラキラと揺れる。
十四歳に成長したわたしが砂浜にあぐらをかいて座りながら、隣に座るママのハーピーに話しかける。
あの時わたしを食べようとした、あの鳥みたいな人だ。
「パパは食べようとは思わなかったよぉ?」
嬉しそうにニコニコしているつもりらしいけどどう見ても悪い顔でニヤリとしているようにしか見えない、パパのオーク。
「いや、お前……どう見てもお前が一番悪者顔だぞ?」
無表情で見事に皆の気持ちを代弁してくれたカエルと人間を合わせた見た目の、じいじのヴォジャノーイ。
「じいじは少しだけしか、おいしそうだと思わなかったぞ?」
いや、食べようと思ったんかい!
ちなみに大き過ぎるから他の場所に住んでいて時々遊びに来る、ばあばもいる。
わたしの今世の大切な家族は……
優しくて冷静なじいじ(異世界最恐で皆が恐れている)
料理上手で肉は食べない穏やかなパパ(わたしを見て時々ヨダレを垂らしている……?)
抱っこして寝てくれる優しいママ(食べた獲物の血で翼が染まっている)
……あれ?
わたし、食べられないよね?
そして、前世は高校二年生の群馬県民。
今世はなぜか人魚姫に間違われたり前魔王の娘になっていたりするわたし、ルゥ。
今から始まるのは、三人の魔族と人間のわたしが家族になった物語。
あれ?
三人は変かな?
でも三魔族だともっと変だよね?
うーん……
深く考えないでおこう。