次代のミカエルということ
価値観。難しくも大切な問題ですね。
そういえば、イサヤが自分で自分のことを”次代のミカエルにふさわしい”なんて、びっくりするくらい偉そうなことを言った時に思ったっけ。
確かにイサヤの仕事ぶりとか、呪文の力の強さとか、天使だけじゃなく悪魔にもすごく人気っていうところとか…。
女性陣からの熱烈な人気ぶりがどうしても目に付くけど、よく思い出せば男性陣からも、とっても気さくに声をかけられていて、誰とでもフレンドリーにしていた。
それを思えば、力もあるし、人気もあるし、いろんな場面でソツもないし…。思い出せば思い出すほどちょっと腹が立つくらい完璧な天使だよね、イサヤって…。
いろんな場面を思い出しても、次代のミカエルにふさわしいっていうイサヤの言葉には納得しかない。
だからこそ、逆にあの軽い言い合いの中で否定するためじゃなく、肯定しているからこその遠慮ないツッコミを入れたつもりだったけど…。
あれ?でも待って!?
それって、半分以上っていうか、私が相手じゃなかったら、常にイサヤは例の本来じゃない方のイサヤってことじゃない!!!???
少なくともごく一部の親しい関係者を除けば、みんなが知っているイサヤって素じゃない方のイサヤだよね?
じゃあ、イサヤが化け猫級の分厚い皮を被ってるのって…。
「左様でございます」
「わっ!?」
私がそこまで考えついた時、スヴァルツォさんが私の心を読んだかのように言ったので、さすがにびっくりして飛び上がりそうになったよ。
「誤解されがちですが、イサヤ様が表面上、大変爽やかで印象の良い青年として振る舞ってらっしゃるのは、ご自分の利益のためではございません。全ては次代のミカエルにふさわしくあろうとするが故でございます」
やっぱり!!!
だからあの時ミカエル様は、
『息子は今まで、”良くも悪くも”いろんなところで特別扱いを受けてきた』
とか、
『”本当の自分を見てくれる者が少ない”中で、彼が自分を守るために身に付けたのがあの裏と表の性格だと私は思っています』
っておっしゃったんだ…。
そして、私の推理が間違っていなければ、本来のままのイサヤでいた頃に、
『こんな奴が次代のミカエルだなんて』
って散々言われたに違いない。
…でも、私のどの言葉にどうして引っかかったかがわかったものの、なぜイサヤが自分を使い分けなくちゃいけないくらい周囲からの言葉を重要視したのかがさっぱり分からない私。
だって、もともとがあんなに偉そうで俺様な天使なんでしょ?だったら、周りが何を言おうと『黙って俺の言うことを聞け』くらい言いそうじゃない?
男性陣は知らないけど、女性陣なんて、卒倒するくらい喜んじゃうんじゃない?
あ、もちろん私はそんなこと絶対ないけど!!
深みにはまりそうになって1人で頭を悩ませていたら、スヴァルツォさんがスッキリ解決してくれた。
「悪魔であらせられるメイ様には、イサヤ様が次代のミカエルに決まっている、ということに何の違和感もないと思われます」
うん、違和感もなにも、ミカエル様の息子であるイサヤが次のミカエルに決まってるなんて、ごく普通な感じ?
私のお母様であるアスタロト公爵の座は、私の1番上のお兄様が継ぐことに決まっているし、それは家族だけでなく魔界では周知の事実。
それと同じでしょ?
でも、スヴァルツォさんの話し方だと違うってこと?
「私たち天使の間では、次代のミカエルの座が実力の伴わない天使に決定している、という事は極めて稀なことでございます。もしかすると、稀というよりは天界の歴史上初めての事かもしれません」
「えぇっ!」
びっくりして思わず叫んじゃったよ…。
そこで私は学校で習ったことを思い出した。そういえば、私たち悪魔はどんなに実力があっても、生まれた家柄が伴っていないと、その実力に見合った地位につけないことが多々ある。
逆に、実力もないのに家柄が良いっていう理由だけで、そこそこの地位についてる悪魔もいる。まぁ、そういう”できないお偉方”には、”できる”悪魔がサポートに必要なので、そこは家柄を重視せずに需要と供給のバランスが取れていたりするんだけど。
でも、そういえば天使の社会は実力主義って教わったな…。
という事は、順当に仕事で結果を残すなりして階級がきちんと上がってからでないと…しかも”大天使ミカエル”っていう地位につこうとするならば、階級すら突き抜けちゃうくらいの実力が必要ってことになるよね?
それでいうなら、階級でいうとまだそこまで高くない”少尉”であるイサヤが、現時点で次代のミカエルに決まっているのは確かにおかしい…。
「じゃあ、どうしてイサヤは次代のミカエルに決まってちゃってるの…?」
ようやく本当の重大案件に気づけた私。価値観の違いって怖い。
誰かにとっての普通が、他の誰かにとっては普通ではなかったり。




