エイリとメイ
エイリがメイのところへ行くまで、です
僕たち天使や悪魔は、人間と違って病気になったりしない。体へのダメージで深刻なものは、基本的には外傷によるものだ。だから、今回イサヤが吐血した原因も内臓疾患ということは考えられない。かといって、吐血するほどの傷であれば目視で何かしら異変が確認できるはず、ということは医師でない僕でもわかる。
でも、じゃあ、なぜ?
あのイサヤがこんなダメージを負うような事態がいつどこで?
このタイミングで考えられることといえば、任務中のトラブル、か…。
そこで初めて僕はメイちゃんに意識を戻した。任務から戻ったばかりだから、まだ報告書はできていないはず。だとすれば、その間のイサヤを知っているのはメイちゃんだけだ。とにかくメイちゃんから話を聞かなくちゃならないけど、イサヤをここに置いておくわけにもいかない。
「ヘンリー、とにかくイサヤを医療棟へ!」
「お任せください」
ヘンリーは落ち着いた声で答えを返すと、もう一人の医師とともにイサヤを担架に乗せて医療棟へ向かった。僕は後ろに控えていた、僕の秘書的な仕事をこなしてくれているアリサに次の指示を出した。
「アリサ、君はミカエル様に事の次第をお知らせして!大急ぎだ!!」
「かしこまりました」
きっといつになく動揺しているはずの僕に対して、彼女はいつも通りの冷静さで返事をすると、さっと行動を開始してくれた。その様子を見て、僕も少し冷静さを取り戻せた気がする。アリサが身を翻したのを見て、スッと深呼吸をひとつした。
事が事だ。
任務帰りに突然倒れるなんて、少なくとも僕は初めて聞いたし…。だいたい任務中に何かあれば、ここに着く頃には一報が先に入っているものだ。
イサヤが天使にも悪魔にも人気がある、ということもあって、騒ぎは騒ぎを呼んで、今やゲート付近はオフィスからも天使や悪魔が押し寄せてきてごった返し、騒然としていた。これ以上騒ぎを大きくしても何もいいことはない。僕は混乱した現場の沈静化を、最初からここにいたというデニスという天使に任せた。
「デニス軍曹!悪いけど、ここの後始末を任せてもいいかい?」
「はっ!エイリ中尉、お任せください」
デニス軍曹は筋骨隆々とした腕をビシッとあげて敬礼した。
「あと、くれぐれもみんながあらぬ噂で盛り上がらないよう事態の収拾はスピーディに頼むよ?」
僕の含みを持たせた言い方に、デニス軍曹はハッとした顔をすると、ますます腕に力を入れて
「力の限り!」
と言ってくれた。察しのいい彼に僕はちょっとほっとして、
「頼んだ」
と軽く手を上げながら言うと、今度こそメイちゃんのところへ急いだ。
エイリさん!メイをよろしくです!!