イサヤの胸の内
ほんとうに!優秀なイサヤの一面をイサヤ本人の解説で、ちょっとだけご紹介
死神のせいで翔が動揺したのを見た瞬間、これはヤバイと思った。死神のヤツの相手をすることはなんとかできても、翔の気持ちを落ち着かせるのは手こずりそうだと判断した俺は、ここは逃げるが勝ちと即座に決めた。
ただ、メイのヤツ、口調だけは威勢がいいくせに、握りしめた拳は小刻みに震えている。
まぁ無理もないか。初仕事でいきなり死神と遭遇。しかも、あの死神、結構な実力を備えた知能犯だった。俺と翔のやり取りを聞いていたってことは、おそらく少し前から監視していたんだろう。きっとその時に、メイを新人だと見抜いたに違いない。
メイには言ってなかったが、翔の魂を保護下に置いた時から、俺は簡単な守備結界を張り巡らせていた。でも、あの死神は簡単なものとはいえ、その結界を破った上に、隙だらけのメイじゃなく俺を真っ先に攻撃してきた。おそらく、それも計算のうちだったんだろう。
最初の一撃、ボケっとしてたメイがくらったらなら、結構な致命傷になっていたはずだ。
なのにそうしなかったのは、最初の渾身の一撃で俺の力を削いでおけば、続く二撃目は余裕をもってメイに仕掛けれられる。もし俺がメイをかばおうとしても、ケガをした身なら完璧とはいかないかもしれない。そして、もっとも重要なことは、俺が翔へのガードを落とさざるを得ないということ。もしそれが無傷の俺なら、翔へのガードは落とさずに死神の相手ができるだろうからな。
まんまと俺に傷を負わせたヤツは、慌てずじっくりと隙を狙って、確実に魂を手に入れようとしていたに違いない。もともと大して役に立ってないメイに打撃を与えて俺の警戒心をあげちまうと、無傷の俺とサシでやりあうのは、どう考えても死神にとって得策じゃないからな。俺があの死神だったとしても、同じ作戦でいくだろう。
おまけに心理的に翔を揺さぶることで、メイにまで揺さぶりをかけてきやがった。恐怖と動揺に震えるメイと翔を連れて完全に死神の視界から姿を消すために、俺は同時に幾つかのことをこなす必要があった。
まずは翔の魂を特殊な結界で完全に俺の体内に閉じ込める。これで翔は外界から接触されることがなくなるし、勝手にどこかに飛んでいくことができなくなる。
次に死神の視界から完全に消えるべく、空間を幾つか歪めて逃げ道を作る。これで場所を瞬間的に移動できるし、歪めた空間は変化しながらどんどん閉じていくから、死神が追いかけてくることはできない。
最後に死神の足止め。これは念のためでもある。空間移動をするのにメイを引っ張っていかなきゃなんねーだろうし、現在進行形で震えているこいつの恐怖心が後々尾を引かないように、決定的な光景をこいつの目に焼きつけるっていう効果も見込めるからな。
全部をほぼ同時にやるためにも、その準備をしていることを死神には悟られないようにしないとダメだ。一瞬も気を抜けないけど、これをやり遂げねーとさすがの俺はもちろん、メイも翔も死神の手に落ちたら最後、どうなるのか想像もつかねぇし。
ってことで結果、完璧にやり遂げちゃったところが俺のすげーところだな、うむ。
けど、まぁ、今のこの状況は想定外で…。
さっきまで震えながら死神との遭遇についてポツリポツリと話していたメイ。うつむいているから顔は見えねーけど、話しながらだんだん声も震えてきてたことからすると、今は泣くのを我慢してるのか?
普段なら、仕事上のミスを泣いて謝るような奴には容赦しない俺だけど、恐怖に震えながらも死神にむかって啖呵をきっていた姿と、目の前で震えながらも俺に涙を見せまいと強がっている健気さに、つい俺も優しい言葉をかけちまった。
あー、ほんと、こんなの俺らしくねぇ。エイリやリール大佐あたりが知ったらうるせぇだろうな。
そう思ったのに、俺は自然とメイを抱きしめていた。
だから、
「イサヤが無事でよかった」
俺にしがみつきながら言うメイに、柄にもなく
「俺はお前が無事で、もっとよかったと思ってるけど?」
なんて言っちまったのは絶対に秘密だ。
けど、そろそろ俺も翔の魂を体内に無理やり押しとどめておくのが辛くなってきた。メイも泣きやんだことだし、仕事するか。
ただ、その前にちよっとだけ楽しんどくかな。
これからもメイと仲良くしてね(笑)




