慰められて
なんだかんだ言いつつ、イサヤはやっぱりデキル先輩です
自ら背を向けて、死神に負わされた傷口を見せてくれるイサヤ。
「よーく見てみろっての。俺があんなへなちょこ攻撃で受けた傷を、いつまでもそのままにしとくわけねーだろ」
そう言われつつ見てみると、傷口はおろか裂けていたはずのローブも、滲み出ていた血もすっかり綺麗になっていて。私の目には元通りの純白のローブしか目に入ってこなかった。
「本当に大丈夫?傷口はちゃんと塞がってるの?」
「俺は治癒呪文の強さもすごいの。誰かさんと違ってほんとーに優秀だから。なんなら脱いで見せてやろうか?」
イサヤがニヤッと笑って言ったけど。いつもの私ならギャーギャー言い返しちゃうようなその意地悪でさえ、私を気遣って言ってくれてるようにしか見えなくて。
「ほんとにほんとう?」
今更ながらだけど、いろんな感情がどっと押し寄せてきて、おどけるように言うイサヤにツッコミを入れる余裕もない。自分でも子供っぽいと思ったけど、ただ、そう聞かずにはいられなかった。
学校の講義や死神と対峙したことのある先輩悪魔から聞いた話、図書館の本で見たり読んだりした情報。
私にとって死神は、現実のものというよりは空想の世界の存在に近くて、その分、怖さだけがどんどん一人歩きしていたように思う。
初めて学校で死神のことを習った日の夜は、怖くて一人で眠れなかったし、その後も怖さを打ち消そうとして、死神に出会ったらどうすればいいのかを必死で調べたりした。
でも、それって実は余計に自分の中で死神を恐ろしい存在に仕立て上げていただけなのかも。
もちろん、仕事に就くことが決まってからは、具体的なイメージを交えつつ、どう攻撃すればいいか?とか色々考えたりもしたのに…情けないことになんの役にも立たなかった。
「死神が目の前にいるってわかった時、頭が真っ白になった」
ポツリポツリと思っていることを言葉にしていった。イサヤはからかったりしないで、
「うん。それで?」
と、静かに聞いてくれた。
「それに、イサヤが死神のせいで怪我したってわかった時だって、本当なら私が周りをちゃんと見てなきゃダメだったのにって…今更なことを思っただけで」
「うん」
「あんなに色々対策考えてたのに、いざとなったらなんにも思いつかなかった」
「うん」
「どうしていいか全然わからなかった」
「そうか」
私がポツリポツリと話してる間、イサヤは静かに相槌をうちながら聞いてくれた。うつむいていたから顔は見えなかったけれど、きっといつもみたいな意地悪な顔じゃなくて、翔くんに話しかけていた時みたいな優しい顔なんじゃないかって思えた。
だからってわけじゃないけど、だんだん目頭が熱くなってきて、マズイと思ったけど視界がぼやけるのを止められなかった。でも、ここで涙をこぼすのは本当に嫌だったから、ぐっと下唇を噛んで我慢しようとした。
なのに、それなのに…黙ってしまった私をふわっと優しいものが抱きしめた。
それがイサヤに抱きしめられたんだってすぐにわかったけれど、顔を上げることはできなくて。おまけにこれ以上口を開けば泣きそうになってることがバレちゃうし。
でも、ぎゅっと抱きしめられてイサヤの体温を感じたら、その温かいぬくもりに安心して、ついポロリと声が漏れた。
「イサヤが無事でよかった、うぅっ」
「俺はお前が無事で、もっとよかったと思ってるけど?」
そんなことを言われて、私の涙腺はとうとう決壊した。
「そ、そんな優しいことをこんなときに言うなんて!ずるい〜」
「ハハッ、ずるいってなんだよ」
そう言いながら号泣している私の背中を、イサヤは抱きしめながらも、そっと優しくさすってくれて。私はしばらくそのぬくもりに身を委ねた……。
初めて2人がいい感じになってくれました(笑)




