真の対象者(翔はその時)
ここからは真剣です。大切なお仕事ですから。
交通事故のシーンがあります。ご了承願います。
「翔くん!!!」
母親の悲鳴にも似た叫び声と同時に起きた車のブレーキ音。
ドンという鈍い音が起きた場所から木の葉が舞うように黄色い帽子が宙に投げ出された。
「そんな、てっきり私…」
「ぼさっとしてんじゃねーぞ。即死だからな。すぐに回収だ」
「う。うん」
てっきり病弱な愛羅ちゃんが対象者だと思っていた私は、心の整理もつかないまま、とにかくイサヤについていくのに必死。
母親がすがりついている翔くんの肉体から、すぅっとほのかに白く光った魂が抜け出てきた。
イサヤは肉体から抜け出てしまうかどうかというタイミングで素早く翔くんの魂を両手でそっと包みこんだ。
「なんでそんなに急いで回収?」
「子供の魂は餓鬼どもにとって最上級のご馳走だからな」
そっと手の中に魂を包み込むようにしながら言う。
「餓鬼なんて私がいれば近寄ってこないよ」
真剣に言ったのに、イサヤは
「あ〜ん?なに言ってんだ」
とでも言いたげな表情…。
「曲がりなりにも!正真正銘の悪魔ですから、私!!優秀な悪魔の私を差し置いて、餓鬼ごときが目の前の魂に手を出してくるわけないし!」
「まぁ、そういうことにしといてやる」
「な〜!バカにし過ぎだし!!」
「うるせぇ。それより場所を替えて仕事だ」
「あ、はい」
「地上はなにかと騒がしいから」
と言って、イサヤは翔くんの魂を連れて近くの雲の上へ移動した。
「さて。俺の声が聞こえるか?」
魂に向かって静かに声をかけるイサヤ。さすがです、先輩。
「…、きこえるよ。あなたはだぁれ?」
「俺は天使のイサヤ。あっちに悪魔のメイっていう新米もいる」
「新米は余計だし!」
「ふふっ、2人はなかよしなんだね」
「仲良しじゃねー。ただの仕事仲間だ」
「ふーん」
「ところでお前、自分がどうなったかわかるか?」
「うーん、ママがおおきなこえでボクをよんだから、ふりむこうとして…あとのことはよくおぼえてないや」
「そりゃそうだろうな。その直後、お前は車に轢かれて死んだからな」
い、いくらなんでも直球すぎやしませんか?先輩…。
「どういうこと?」
「青になって横断歩道を渡ろうとしたお前に向かって、信号無視した車が突っ込んできたんだ。お前の母親がお前を呼んだのは、車が突っ込んできたのを見てお前を止めようとしたから。でも間に合わなくて、お前は車に轢かれて死んだ」
「しんだっていうことは、もうパパやママにはあえないってことだよね?」
「そうだ」
「愛羅にも?」
「そうだな」
「そっか」
あれれ?意外とすんなり?
やっとイサヤが先輩っぽい姿を披露してくれました