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私が許しちゃってもいいかな?って思った理由。

作者: はなはな

ありえないほど今さらなんですが、だいぶ前に書いた一希と光希のお話の後始末。

よく考えなくてもあのままはないよね、だったので。後日談じゃなくて、後始末です。自分の中で魚の小骨だったので。


※双子の話をなしで読むのとアリで読むのでは、恐らく受け取り方が変わります。


 入学した時からその人は目立っていた。

 まず凄くキレイ。真っ黒なストレートロングの髪は、男子だけの憧れではない。一時期女子の間で彼女の使うシャンプーが大流行したくらいだ。それと対照的な白い肌、派手ではないけど、よく見るとハッとするほど整った顔。まるで良くできたお人形みたいだった。

 背もスラッとしていて、モデルみたいなスレンダー体型。あれで同じ高1かと愕然としたものだ。

 そして所謂才色兼備というやつで、彼女は新入生代表として壇上に上がった。あれで頭も良いとか、もう雲の上の人みたいだった。


 彼女と同じクラスにはなれなかったけど、代わりに彼女の双子の弟と席が隣りになった。

 え、男の子と女の子の双子なんだって、それもちょっと話題になった。

 でも彼と彼女はあんまり似てなかった。

 きょうだいだから何となく似てる感じはするけど、やっぱり男の子と女の子だもん。双子って言われてもそうなの?ってくらい。

 弟の一希君も背は高くて、もうがっしりしてていかつい男の子の体だし、顔もカッコいいけどお姉さんとは全然タイプが違ってた。

 お姉さんは物静かそうなのに、一希君は明るくて少しお調子者で、勉強は少し苦手、運動神経は抜群と丸きり正反対に見える。


 入学最初に目を引かれたのはお姉さんの光希さん、だけど私、伊川友姫ゆきが仲良くなったのは、全然意識してなかった弟の一希君だった。

 そしてその一希君と両想いとなって、めでたくお付き合いすることになるなんて、考えもしてなかった。


※※※


 良いことの次って悪いことが来るって、どこの神様が決めたんだろう。

 今の私は最悪のどん底だ。


 いきなり言われた。好きな人ができた、もう付き合えないって。


 …………

 …………

 …………



 バッカじゃないの!?


 何よ、私と付き合えて自分は世界一の幸せ者だ、もう死んでもいい、いやまだデートもしてないのに死ねるか、やっぱ百まで生きて友姫ちゃんと幸せに死ぬ、なんて言ってたのに

「ばかーうわー」


 と突然泣き出す情緒不安定にも、周りが先に慣れてしまった。

 私はよしよしと友達に頭を撫でられながら、それでも頑張って登校していた。

 クラスが同じで毎日会うことにはなるけど、もう席替えで席が離れて、意識しなければ顔を見ることはないのが救いだった。

 そんでもってアイツ、私を散々泣かせたクセに、翌日もケロッとして来たんだよ? おかしくない?

 さすがにまともに顔を合わせるとかはしないけどさ。これじゃ私だけ泣いて傷付いて落ち込んでて、不公平でしょ!

 だから意地になって、泣きながらでも学校は休まなかった。クラスに着くまでには涙も引っ込めた。時々、なんでここまで意地になってるんだろうって、我に返って余計に落ち込んだ。

 今日もそんな意地っ張りの一日の筈だった。


「友姫ちゃん、ゴメン!!」


 目の前で、いきなり誰かが土下座した。

 え、土下座ってホントにする人いるんだ、いや、待って、この人私にしてる、や、えと、そもそもこれ、


「か、一希君……?」


 そう、つい数日前に私をこっぴどくフリやがった、一希君だった。

 あれからまともに会話一つしてなかったのに、今朝になっていきなりナニコレ?

 私と一緒に頭に?マークをピヨピヨさせてた友人たちも、相手が一希君と気付いてはっとしていっせいに口を開いた。


「ちょ、一希君? 何よこれ」

「今さら大袈裟に謝ってきて、何のつもりよ」

「そうよ、今まで友姫がどれだけ泣いたと思ってんの!?」

「う、そ、それは申し開きのしようもなく……」


 みんなに責められて、一希君はこの上もなく苦そうな顔をして口籠った。

 私は、台詞を全部友達に取られてただただ一希君を見つめるしか出来なかった。

 言葉通り言い訳や釈明が出来ないみたいで、一希君は座ったまま(うん、土下座したままだったから)しばらく俯いて、でもまたキッと顔を上げて言った。


「友姫ちゃんには本当に申し訳ないことした。でも信じてくれ、あの時はどうかしてた、俺の気持ちは前と全然変わってないんだ!」


 めっちゃ真顔で言い切った。


「さいてー」

「好きな子他にいるんでしょ」

「クズね」


 めっちゃ真顔で友達は去って行った。

 私も周りを囲まれながら、連れられていった。

 私も最低だと思った。



 でも、ちょっとだけ、

 ちょっとだけ、もしかしたら、なんて思っちゃうのは、やっぱり未練がましいかなあ?




 あれだけ人前で自爆したのに、一希君は諦めなかった。友達の言い方を借りるならしつこかった。

 毎日顔を合わせる機会があれば、懲りずにずっと謝り倒してきた。

 人前でも二人きりでも構わずやって来た。

 だから彼の醜態は、私の周囲だけじゃなくて男子や他のクラスの子にも知れてきた。それでも一希君は堂々として日参をやめない。むしろ私の方が恥ずかしくなってきた。

 やめて。もうやめて。別の意味で会いたくない。


(って言うか)


 そこまで根性見せるなら、何であんなひどい別れ方したのよって話で。

 友達はみんな、好きになったとか言う女にフラれてヨリ戻そうとしてんのよ図々しい。とか言ってて。そうなのかもしれないけど。

 でも謝ってくる一希君は、(凄く恥ずかしいけど)あの時と同じ人と思えないくらい真剣で、誠実で、確かに本心から反省してるみたいで。

 やっぱりまだ好きな気持ちと、あの時の憎らしい気持ちと、状況が急に変わりすぎてついてけないのと、ぐちゃぐちゃしてる。


(と言って、簡単に許せるって話じゃないしなあ)


 もうどうしたらいいのか分からないっていうのが正直なところだ。

 他に好きな子ができた、なんて言って突然絶縁したかと思ったら、その舌の根も乾かない内に謝り倒すなんて意味分かんないじゃない。それこそ、みんなの言う通りかなとも思う。

 でも謝ってくる一希君はそんないい加減な人には見えないし、その相手について聞いても、あれは気の迷いだとか何とか、はっきり教えてくれないし、そもそも謝ってばっかりで、ちゃんと話す気があるのかも分からない。もう一希君のこと、全然分かんない。


 なんて悶々としながら家の近くの曲がり道、私の前に意外な人が現れた。


「あの、伊川さん、ですよね。私、その」


 遠慮がちに恐る恐る声を掛けてきたその人を、私は知っていた。


「光希さん、だよね? 一希君のお姉さんの……」

「そ、そうです!」


 私の言葉に慌てて答えたのは、一希君の双子の姉、光希さんだった。

 一瞬、また一希君が待ち伏せでもしてたのかと思ったけど違った。良かった。


(っいやいやいや、何で光希さんが!?)


 いやおかしいでしょ。


※※※


 話がある、と言われてじゃあと家に呼ぼうとしたけど、それじゃ話しづらいからって近所のファミレスに来た。

 ドリンクバーを注文して、適当にジュース持ってきて、席に着いて飲み始めて、しばらくしてもまだ「話があるの」から先が聞けてない。困った。

 とは言え、話ってタイミング的にどう考えても一希君のことだろうけど。

 一希君のお姉さんってだけで、彼女とは面識がない。

 意を決して顔を上げて、口を開こうとしては真っ赤になって俯いて、を繰り返す光希さんは正直意外な可愛さで満ち溢れている。何この可愛い生き物。入学式の雲の上の姿とのギャップが凄すぎる。

 でも面識もない弟の元カノに、アポなし突して二人の関係に口出しってのはいただけない。だったらちょっとガッカリだなあ。

 こっそりそんなことを考えてると、やっと踏ん切りがついたのか、遂にその先の言葉が出てきた。


「あ、あの! 一希のことなんですけど!」

「あ、うん」


 やっぱりか、と私は思った。ガッカリ感が現実味を帯びて重くなった。


「……ご、ごめんなさい。謝って許してもらえることじゃないんだけど、本当に、ごめんなさい……」

「え? いや、光希さんが謝ることじゃないしっ。一希君からは毎日謝られてるしっ」


 彼女から謝られるなんて思ってもなかったから、テンパってなんか余計なことまで言ってしまった。

 でも彼女は頑なに謝り続け、ごめんなさいの連発の後(こういうとこってやっぱり双子なのねなのかしら)、ものすごーく言いづらそうに切り出した。


「あの、あのね、一希、た、たぶん、あなたに、酷い、とても酷いこと、言ったでしょう?」

「あー……、それは……」


 実のお姉さんを前にナンだけど、あれはない。確かにない。

 私の曖昧な答えに、光希さんはぎゅっと目を瞑って、もう一度「ごめんなさい」と謝った。


「本当に、ごめんなさい。あの、あれ、一希は悪くないんです。わ、私、私が、全部悪いんです」


 消え入りそうな声で光希さんは言う。

 え、どういうこと?

 何で一希君が私をフルのが、光希さんのせいになるの?

 私が理解できないでいると、光希さんはますます縮こまって続けた。


「その……私が、一希に、頼んだんです。彼女と別れてくれって」

「は?」

「だから! 私が、その、か、一希のこと、あなたに取られたくなくて! つ、つい、別れてくれって! 一希は、私の言うなりに、その、してしまっただけで……」

「え、それ、それって……」


 いきなりの告白に、一瞬頭が真っ白になって、それから大パニック起こした。

 つまり、何? 光希さんが、弟を好きすぎて、無理やり私と別れさせたと?


「光希さんが、私に焼きもち妬いて、一希君に別れさせたっていうこと?」

「う……は、はい……」


 パニックのまま、私がストレートすぎる確認をすると、これ以上ないくらい真っ赤になって光希さんは頷いた。


「一希は、優しいから、自分が悪者になって、嘘ついて……でもあなたにあんなこと、言うべきじゃなくて、ホント酷い……ああ、もう……」


 言いながら光希さんは両手で顔を覆ってしまった。自分が原因で身内がしでかしたことが、心底恥ずかしいらしい。

 彼女も混乱してるのか、わりと言ってることが支離滅裂だった。うん、優しい人はあんなこと言わないよね。

 何かさっきからめっちゃ可愛いなこの人、と混乱しながら、返事の代わりに私は氷が溶けたジュースをごくりと飲んだ。だいぶ薄くなっていた。

 私の無言を怒りだと思ったのか、光希さんはばっと顔を戻して早口にまくし立てた。


「だから、一希が馬鹿なことしたけど、それも全部私が悪いんです! だから、だから一希のこと、許してください! 私のことは、いくらでも罵ってください、でも一希は、一希は悪くないんで……!」

「ちょっと待てーーーーーー!!!」


 光希さんの声でもう注目集めちゃってんのに、トドメ差しに馬鹿が乱入してきた。

 私も、もちろん光希さんもよく知ってる馬鹿だ。


「か、一希……何で、ここに?」

「うっ……その、友姫ちゃんに謝ろうと家行ったけど全然来なくて、この辺探し回ってそれで……」


 あれ、これ通報案件かな?

 光希さんもこれには眉をひそめて、


「それストーカーの行動だから。彼女に迷惑だからやめなさい」


 って普通に注意した。一希君も普通にしゅんとした。

 うん、そうだよね。最近の一希君の行動は、謝罪ストーカーだよね。迷惑だったし。ちょっとスッとした。


「ごめんなさい、伊川さん。これも全部私のせいです。本当に――」

「だから待てって! それちげーだろ!」


 また光希さんが謝り出すのを、一希君は慌てて、それに怒ったように止めた。


「俺、俺が悪いんだって。ちょっと魔が差して、ホントに一瞬、他の子好きになったような気になっただけで」

「違うでしょ! 一希は、最初から友姫ちゃんしか好きじゃないでしょ! ほ、他に、割り込む余地なんかなくて、それで私が、私が、……うう、ホントにごめんなさい……」


 とうとう光希さんは泣き出してしまった。

 一希君も、それ以上言い争い(?)を続けるどころじゃなかった。

 私もそうなんだけど、取り敢えず言った。


「あの、お店、出ようか」




 さすがに周りの目が気になりすぎて、私たちはファミレスから退散した。

 何となく、私の家に向かいながら三人で話した。


「ホントに、私が悪いんです。私のわがままで、無理やり二人を別れさせました。――一希も、そこ、間違ってないよね?」


 謝ってる筈なのに、なぜか光希さんが一希君を睨むように念押しした。

 一希君も気圧されたように、「お、おう……」としか言えなかった。

 押し負けてるせいもあるけど、じゃあ、やっぱりあれは一希君の本心じゃなかったって、思っていいの、かな?

 それでもお姉さんに言われたからって別れる上に、あの理由はないけど。

 ないけど。


「二人がホントに別れて、それで一希とそのこと話し合ってたらケンカみたいになって、ちょっと前に仲直りしたんです。それから、伊川さんのとこに行って謝罪行脚みたいなことしてるって聞いて、それは迷惑だし私のせいだし、むしろ私が謝らなきゃって……」


 ぽつり、ぽつりと、それでもさっきよりはしっかりと、光希さんは事の経緯を話してくれた。一希君に口を挟ませないで。

 何だろう、光希さんは一希君にとことん口を出させたくないみたいだし、一希君は何か言いたいけど言えない、みたいな、もどかしい感じが伝わる。私は、少しそれにモヤッとする。大事な話なのに、二人の秘密があるんだ、みたいな。教えてくれないんだ、みたいな。


(やだやだ、光希さんの嫉妬を笑えないじゃん)


 そうして根拠もない勘繰りを捨てた。

 そんなことに気付きもしないで、光希さんは話を締めくくった。


「だから、それで一希のこと全部許してっていうのは虫が良すぎると思うけど、こういう事情があったって、それを入れて、一希のこと、考えてもらえませんか?」

「…………」


 訊かれて、でも私は返答出来なかった。

 だってそりゃ、これまでも色々ありすぎ、って思ってたのに、さらに情報追加で頭パンクですよ。

 それを察して、光希さんは


「って、姉の私から言われても答えにくいですよね。フェアじゃないし。私、もう帰ります。せめて、一希とちゃんと話してみてください」


 と静かに頭を下げて去って行った。

 私は一希君と二人で残されてしまった。


「えっと……」


 いつもいつも、くどいくらいに謝罪文句を垂れ流してたのに、いざ話し合いの場を作られた一希君は、なかなか言葉が出てこないようだった。

 まあ、身内が出てきて一騒動した後じゃ、ちょっと決まり悪いよね。

 代わりに私がぽそりと言ってやった。


「……シスコン」

「なっ!? ちょっと待って、それはだいぶ冤罪っ……いや、でも、くっ……」

「お姉さんに言われたからってあれはないよね、普通? どうしたってシスコン拗らせだよね?」

「だからそれは――あーもう、光希のやつ、だから余計なこと言わなくていいって言ってんのに!」


 なに、また二人の秘密?

 てかケンカと仲直りの経緯だったんだろうね。

 それにそもそも、光希さんのブラコン拗らせが原因なんだもんね。

 何だか妙におかしくなって、私はクスリと笑った。


「変なきょうだい。シスコンとブラコンで両想いじゃない」

「やめて。冗談でも友姫ちゃんにそれ言われたくない……」


 がっくりと、疲れたように一希君は肩を落として言った。

 その姿を見たら、さっきより気分が良くなってきた。

 だからって、だからって、そう簡単に許す気にはならないんだからね。

 私は落ち込んでる一希君を置いて歩き出した。


「あ、待って、あのまだ話がっ」


 慌てて一希君が追いかけてくるけど、私は立ち止まる気はなかった。


「友姫ちゃん!」

「あのね」


 何か言おうとする一希君を遮って言った。


「私、まだ許してないから」

「…………」

「だから、今日はここまで。正直、まだ頭こんがらがってるし。また、もっともっと、ちゃんと話そう? 一希君、謝ってばっかりで私と全然話し合おうとしなかったんだもん」

「友姫ちゃん……」


 一希君は情けない顔で、でもはっとしたように私を見てきた。

 気付いてなかったんだね、やっぱり。私、何度もちゃんと話そうとしたんだよ?

 大体みんなの前で土下座なんてされてもまともに話せるわけないじゃない。そんなことも分からないで、ひたすら私を困らせるばっかりで。


「弟好きすぎかもしれないけど、一希君はちょいウザかもしれないけど、光希さんに感謝しなさい」

「それは……」


 苦虫噛み潰したみたいな顔で、返事に困る一希君。

 そんな彼を振り返らず、私は告げた。


「じゃ、また明日ね」

「!! うん、明日!」


 嬉しそうな声を上げる一希君だけど、あのね、忘れないでね。私、まだ許してないからね。

 半分呆れながら、それから思った。

 それと別に、一希君にはちゃんと光希さん紹介してもらって、同級生なんだから敬語やめてもらって、それからできれば友姫って呼んでもらって、ついでに光希さんも光希ちゃんって呼ばせてもらわなきゃなあ。




 

もっと短くライトで可愛らしい話を構想してたんですが、ちょっと恋愛脳♀な話を書くメンタルでなくて放置してました。

友姫の中では一希<光希だという設定がテーマです。

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