三人でお買い物
伝え忘れてましたが今後は二十時に投稿する予定です。
僕の名前は早乙女 纏衣。
最近僕は大きな悩みが増えた。それは強引に僕を女装させてくる姉さんに仲間が増えたことだ。
その仲間の名は清水 想叶さん。彼女に僕の女装がバレてからと言うもの、姉さんと組んで二人がかりで僕に女装を強要してくるようになった。
僕が下着姿になっても平然としている二人はどこかおかしいんだと思う。
二人が組んで変わったのは攻撃力が倍になっただけじゃない。
実は清水さんも姉さんと同じく自作の服を作る趣味があった。姉さんは生地から清水さんは古着からと言う違いはあれど、話が合うことが更に増え、今では放課後に姉さんが僕らの教室に来たり、今のところ毎週家に来たりしている。
休みになるたびに僕は姉さん達の犠牲になって服を着せられている。もちろん女性用の服を。
そんな休みに恐怖する日々が二週間ほど過ぎた金曜日の放課後、誰も居なくなった教室に今日も姉さんがやって来て清水さんとあれこれ話し始めた。
僕? 当然姉さん達が逃がしてくれないから教室にいるよ。
「今度は……夏らしく……がいいわ」
「ですね! 私は……と思います」
飽きもせずあれこれ話してる二人の声をBGMに、今だに暑さが引かない外の景色を眺めていると姉さんが話しかけてきた。
「纏衣、ちゃんと聞いてた」
「えっ、何?」
「はぁ、あんたの服のこと話してんだからちゃんと聞いてなさいよね」
「僕それ望んでないんだけど」
「あんたの意見は聞いてないわ」
「理不尽だ」
どうしてこんな不条理の塊みたいな人がうちの学校で人気なんだ。見た目だけで性格酷すぎると思うんだけど。まぁ、酷いのは僕に対してだけだと信じよう。姉さんが誰かにこんな態度取っていたら心配で僕の方がいたたまれなくなってしまうからね……。
「日曜日に姫先輩達と一緒にモールまで買い物に行くことにしました」
「また? 先週も出かけたじゃん」
「先週は想叶ちゃんとお話ししにカフェに行っただけでしょ。今回はいつものモールよ」
「先週も女装したじゃん……」
先週、清水さんと姉さんが僕を着せ替え人形にしながら洋服について話している時に清水さんにも洋服を自作、アレンジしていることが発覚し、姉さんのテンションが爆上がりした。そこでどこで生地を買っているかという話になったとき、
「そこまで本格的にはやってませんよ。私は古着にフリルやレースを付けたり、刺繍もどきや複数を組み合わせたりして作ってるんです」
「そうなの? でも古着だといいのがないんじゃない? それに流行の物なさそうだし。誰かが着たのだし」
「それをアレンジしてトレンドのようにしたり、可愛くするのが楽しいんです。それに種類はたくさんあると思いますよ。古着が嫌なら仕方ないですけど」
そう言ってスマホから清水さんがよく行くというお店のサイトを見せてくれた。
そのお店は『ソフトオン』と言う僕も知ってる中古屋の系列店だった。僕が知ってるのは漫画やゲームの中古屋だけど、このお店はそれに加えて古着やスポーツ用品、家具まであるという充実ぶりだ。
古着はおばちゃん用が多く若者が着られるような物がないと思っていた僕やそもそも古着に苦手意識がありそうな姉さんは、その品揃えを見て驚いた。
女性物だけじゃなく男性物も多くありそう。しかもサイトに載っている物だけかもしれないが、この間買い物に行ったときのトレンドの服や夏向けの洋服に似た服もあり、しかもどれも三千円以下で買えて、姉さんもかなり興奮していたのを覚えてる。
と、回想をしていると姉さんの話が続いた。
「とまあ日曜出かけるから。どうせないと思うけど予定空けときなさいよ」
「ふん、どうせ遊ぶような友達なんて居ないですよーだ」
「じゃあ決まり。想叶ちゃん、集まるのは私の家でいいかしら」
「大丈夫です、姫先輩。私も纏衣君の準備したいので!」
「ふっふっふっ、楽しみましょう」
「ふふふー、楽しみです」
「ねぇ、それって買い物が楽しみなんだよね? 僕の準備の方じゃないよね」
いつの頃からか互いの呼び方が変わった二人はまた話し始め、そんな二人には僕の声など聞こえてはいなかった。
~~~~~~~~
そんなこんなで日曜日、やって来た清水さんと姉さんの魔の手に逃げられるはずもなく僕の着せ替えが始まった。清水さんが持ってきた服と家にあった服を取り出し、ああだこうだ言いながら僕に着せる服を選んでいた。……何で清水さんが持ってきた服も僕のサイズに合うんだよ。怖いよ。
結局二人が決めた今日の服は、ボタン周りと肩口がフリルになっている半袖の白ブラウスとチェックのプリーツスカート、それに黒ニーソックスにローファーとなんちゃって制服ってやつだ。しかも清水さんにバレてからは髪型変えるだけじゃなくウィッグやカツラもされるようになった。今の僕ならきっと高校生に見られるだろう。そう、女子高生に……。
その姿のまま連れられて、僕達はモール内にあるいつもの店へとやって来た。
「あっ! ここの洋服良いですよね! 私もたまに参考に見に来るんですよ」
「流石想叶ちゃんわかってるわね! ここは無駄に派手なのがないからマトちゃんも嫌がらずに、しかも可愛らしい物が揃ってるのよ」
「ですよね! ちょっとしたフリルや刺繍なんかもアクセントにいいですし、柄も落ち着いたのが多いので私でも着れるかもといつも思ってたんです」
「想叶ちゃんなら絶対似合うのあるわよ。お古で良いなら、マトちゃんに買ったの貸してあげるわよ」
「姉さん。流石に僕が着たのはどうかと」
「いいんですか! なら今度見てみたいです!」
「なぜノリ気!?」
進める姉さんも頭おかしいけどそれを喜ぶ清水さんもだいぶおかしいでしょ。
男性の変態なら女の子が一度着た服を貰って喜ぶかもしれないけど、僕が着たの貰って清水さんは何で嫌がらないの。もしかして、僕、男と認識されてない? えっ、今更だって?
「あー、でもやっぱり値段は少し張りますね。私いつもはジユウやソフトオンで買ってるから、つい比べちゃいますね」
「ジユウは私も好きよ。値段の割におしゃれだからね」
僕も一人の時はジユウでよくメンズの服を買う。ちなみに行正式名称はGYU。これでジユウって読む。
「私もいつもだったらお小遣いが出た月に一度の楽しみだったの。だけど、想叶ちゃんのお陰でこれからは好きなときに来ることにするわ」
「あれ、私何かしましたっけ?」
「ソフトオンを教えてくれたじゃない。古着って正直毛嫌いしてたけど、あのレベルの物があるなら全然問題ないわ。着るの私じゃないし」
「おい」
確かに新しめの服も多くありそうだし綺麗そうだけど、そう言われるとなんか釈然としない。
「だから月に一度の楽しみとは別に、ここの服を参考にソフトオンで似たのを選んで家でアレンジする事にしたの。今日はそのつもりよ」
「いいですね! 私も同じようなことしてるのでその気持ちよくわかります」
「ねぇそれって僕のだよね。月一でも嫌なのにさらに増えるの? 嫌なんだけど」
「今日は値段を気にしなくていいから楽しみだわ」
「私もリアルでのマトちゃんの洋服選び楽しみです」
「ねぇ、聞いてる。僕それ毎回参加しなくてもいいよね」
「さっきから何よ。あんたの洋服なんだから強制参加に決まってるでしょ」
「理不尽だ……」
それから二人は実に楽しそうに服を吟味している。
予想外だったのは二人に増えたからきっと着替える回数が増えると思っていたけどそんなことはなかった。二人で良しと決めた服を持ってくるから、そっちに時間が掛かり僕の着 替えの回数はむしろ減ったぐらいだった。まぁ僕が試着室に居座ってることは変わってないんだけど。
一時間半ほど経った頃、やっと終わった。回数が減ったとは言え、姉さんだけじゃなく清水さんがいたせいかやけに疲れた。
……でも今日はこれで終わらなかった。
「やっぱりこの服可愛いわね。今日はこのイメージを元に探してみようかしら。じゃあ、言った通りに次行きますか」
「そうですね、行きましょうか。私はこの服を参考に見つけてみせます」
「ちょ、ちょっと! どこ行くの!?」
「ソフトオンに行くって言ったじゃない」
あれ? そんなこと言ったっけ? 聞いたような聞いてないような。
「お店に入る前に言ってましたよ。『ここの服を参考にソフトオンで似たのを選んで家でアレンジする。今日はそのつもり』って」
「あー! 確かに言ってた。って今日行くの、ソフトオンは今度行くんじゃなくて?」
「当然じゃない。すぐ行かないとイメージが薄れてしまうわ」
「なら早く行きましょうか。と言っても歩いて行ける距離ですが」
「近いに越したことはないわ。さぁ行くわよ」
「はぁ、まだ終わらないのか」
~~~~~~~~
結局僕はソフトオンに連れていかれた。
何だか清水さんが加わってから、一カ所までって約束がなくなってる気がする。今度姉さんに問い詰めてみよう。出来たら。
「おお、かなり多いね」
「予想以上ね! 古着とは思えないほど状態がいいわ!」
お店に入った僕と姉さんの最初の台詞がコレ。
外観から大きかったけど中は想像よりもっと広く、若干、いやすごくごちゃごちゃしてるけどその分数はもの凄くある。一応シャツ、ブラウス、アウターなどジャンルごとに分けられているから探したい服を見つけるのはそこまで大変じゃないかもしれない。
姉さんは飾られている服の状態を確かめて、その良さに興奮している。
「姫先輩、現代の古着を舐めてはダメですよ。目的の服はあっちだと思います。探しましょう」
「そうね! これだけあるならきっと理想に近づけるわ。あっ、マトちゃんは後で呼ぶから適当にしてていいわよ」
「えっ本当!? じゃあ僕漫画見てくる」
「はいはい。呼んだら来るのよ」
よほどここが気に入ったのか時間が掛かると考えたのか、普段なら側に残らせ好きかってしてくるのに今日は自由でいいらしい。
そうと決まれば機嫌が変わらないうちにとっとと姉さんから離れよう。いやー自由って最高だね。あっこの本、気になってたんだ。
ブブブブ、ブブブブ
しばらく本を読んだりゲームを見てたりしているとスマホが震えだした。
「もしもし、姉さん終わったの?」
「マトちゃんすぐに別れたとこの近くにある更衣室に来なさい」
「えっ、まだこの漫画読んでるんだけど」
「そんなの後よ、早く来なさい。今すぐよ」
「あっ、ちょっと」
ツーツー
「本当に理不尽」
とは言いつつも遅れるとどうなるか分からないからすぐに言われた場所へ向かう。
するとすぐに見つけた。二人とも手にいくつか服を持っていて上機嫌のご様子。どうやらめぼしい物が見つかったみたいだ。
となると僕がそれに着替えると言うことですね、わかります。
「来たわね。それじゃあこれらに着替えて」
「ほらね」
「? どうかしたの」
「いやなんでもない。それより姉さんのはさっきのとほとんど変わらないけど、清水さんのはだいぶ違うように見えるけどそれでいいの?」
姉さんが渡してきた服はモールのお店で試着したのとほぼ変わらない。多少違うのは仕方ないけど、大部分は同じだからこれから姉さんが装飾するんだろう。
だけど清水さんのは色や形が似てるだけで、装飾はもちろん前開きのブラウスからシャツになっている。本当にこれでいいのかな。
「私はこれでいいんです。この服でサイズが合ってたら前を切っちゃってボタンで合わせるようにするんです。そっちのもう一つのは傷があるんですがフリルとかの装飾が使えるので使い回します。傷付いてると数百円で買えますし」
「へー。なんか大変そうだけどそれが出来るって、清水さん凄いね」
「ええー! いやいや私なんてそこまでじゃないですよ! 姫先輩なんて生地から作っちゃうんですから」
そう言われればそうなんだけど、姉さんの場合はそれが普通って思っている。僕の家族みんなそんなことしてるし、姉さんは僕に女装させるためにしてるから凄いなんて思ったことなかった。そりゃ僕にとっては嫌がらせの技術が高くても迷惑になるだけだからね。……あれ? それって清水さんも同じじゃない?
「あーそうかもだけど、僕から見たら清水さんも十分凄いし、それだけの改造が出来るなんて尊敬するよ」
「そ、そうですか? 初めて言われました」
「ふふ、私から見ても想叶ちゃんは凄いと思うわよ。ここまで大胆なアレンジなんて私には思いつかないわよ」
「いえ、そんな。想い描く洋服にするにはこうした方がいいかなって思っただけです。その方が安く済みますし」
「十分凄いんじゃない。それになんか清水さんらしくて僕は好きだよ。それじゃ仕方ないけど着替えてするよ」
「えっ、あっ、は、はい」
さて、まずは姉さんが選んだのでいいかな。さっと終わらせて漫画の続き読もう。