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僕の悩み事2

 僕の男としてのプライドが減った日の翌日、月曜日。

 ただでさえ週の始めで憂鬱なのに僕は清水さんのことが気がかりでさらに気が重くなっている。

 もし清水さんが気付いて僕が女装野郎だと広めていたら、もう学校には行ける気がしない。そうじゃなくともこれをネタに下僕にされてしまうかも。あぁ憂鬱だ……。


 しかし、どうやらそれは僕の思い過ごしだったらしく僕の女装が噂になることも誰かからこれをネタに脅されることも無かった。


 次の日もまた次の日も何もなくやっぱり清水さんにはバレなかったんだ、あー良かった、と思っていた次の日、木曜日の放課後。


「あの、早乙女君。この後ちょっと時間あるかな?」

「! な、何かな清水さん」

「うん、お話があって。図書室まで来てくれない?」

「えー、あの、ちょっと、その」

「ダメかな?」

「……行きます」


 まだ教室に残っていた何人かが告白かー! キャーキャーと騒いでいるけど、僕は今それらが聞こえないくらい混乱している。


 なんで呼び出された。バレたのか。ならなんで月曜じゃなく今日なんだ。ただ用事があるだけかも。ダメかなって言ったとき可愛かったな。本当に告白かも。脅されて下僕にされるんだ。女装してるのがバレたのか。


 頭の中で色んな事がぐるぐる回っている。すると清水さんが立ち止まった。考えている内に図書室に着いていたようだ。


「ここなら誰も来ないかな」


 わざわざ誰も来ないとこに呼ぶなんて。


「急に呼び出してごめんね。どうしても確認したいことがあって」


 これはもうバレてるかもしれない。


「あのね。この前の日曜日に隣町のデパートにいなかった?」


 やっぱり気付かれてた。でも、でもまだ誤魔化せるかもしれない。


「女の子の格好して」


 あっ、終わった。


「さ、早乙女君、大丈夫?」

「な、何のことかな!? 確かにそのデパートには行ったけど、女装なんてするわけ無いよ!」

「あ、そ、そうだよね」


 そう言うと清水さんはガッカリしたような、しゅんと落ち込んだような気がした。つ、強く言い過ぎたかな。

 そんな姿を見たからか僕はつい聞いてしまった。


「なんでそんなこと聞いたの?」

「あの日ね。早乙女君と似た声と雰囲気の女の子が早乙女先輩と歩いてたのを見かけたから誰なんだろうと思ったの」

「……早乙女先輩? 姉さん!」


 あの後帰ったと思ってたけど、まさか見られていたのか。くっ、何か言い訳しないと。


「それは多分親戚の子で」

「早乙女君に聞くのはなんか後ろめたくて、先に早乙女先輩に聞いたんだけど、そしたら弟に聞けって」


 何やってんだよ、姉さん!


「本当はすぐに聞こうかと思ったんだけどなかなか言い出せなくて。今になっちゃって」

「……」

「でもそうだよね。いくら早乙女君が女の子みたいな可愛い顔してるからって女装なんてするわけ無いよね」


 泣いていい?


「あはは、ごめんね。あまりにもあの子が私の妄そ……、んんっ! 考えてた人に似てたから」

「そ、そうなんだ」

「本当に早乙女君じゃないんだよね」

「そ、そんなことあるわけ無いよ! 僕がスカートなんて着るわけ無いよ!」

「そうだよね。ん? ……わかった。ごめんねこんな事聞いて」

「じゃ、じゃあ僕は行くね」

「うん、じゃあね……」



 急いで図書室を後にして部屋に戻った僕はやっと一息ついた。


「ふぅ、逃げるように帰ってきたけどバレてない、よね」


 清水さんから呼び出されたときは終わったかと思ったけど、清水さん自身も確信は持ってないから姉さんや僕に直接聞きに来たんだと思う。それを僕が否定したからこの話はおしまいだろう。


「いやー良かった良かった。でも今度からはもっと変装しないと誰かに見られたらバレるかも……、って何でまた僕が女装する前提のことを考えなきゃ行けないんだよ!」

「纏衣うるさーい」

「誰のせいでこんなに悩んでるとは思ってるんだ!」

「うるさいって!」

「理不尽!」


 次の日学校に行っても噂になることも清水さんに呼ばれることもなかった。これでようやく僕は安心して普段通りの生活ができる。はずだった。


 何もない休日を過ごした土曜日が終わった次の朝、朝食を済ませ姉さんから逃げて部屋にいた僕は家の呼び鈴が鳴るのが聞こえた。


「姉さんまたなんか買ったのかな? もしかしてまた僕の服だったり。むっ」


 なんて考えていたら何だか嫌な予感がする。これは間違いなく姉さんがらみだ。


「早く隠れないと!」


 とは言っても鍵が意味ないのは前回確認済み最早家にいる時点で逃げ場など無いのでは、なんてアワアワしながら考えているとあの足音が僕の部屋の前で止まった。


 ガチャン!


「纏衣入るわよ」

「入ってこないで! あと平然と鍵開けないで!」

「まぁまぁ。とにかくお着替えしましょうか」

「唐突すぎる! 買い物は先週行ったばっかじゃん」

「今日は買い物じゃないわ。まぁ私は行ってもいいけど。いいからさっさと着替えるわよ。拒否権はなしね」

「理不尽だ!」


 抵抗しても次々と着せ替えられていく僕は女装し終わった後に気付いた。

 今来てるのは先週と同じ格好だった。同じ服を使うことはあっても上下とも同じでしかも先週と同じにするなんてこと今までなかった。


「姉さんそんなにこの服が気に入ったの?」

「確かにその服は似合ってるわ。でもそれだけじゃないの」

「な、なんだよ」

「さてと早く私の部屋に行くわよ」

「えっ! 何すんのさ、わざわざ姉さんの部屋に行くなんて」

「いいから早く来なさい」

「もう、何なのさ」


 さっさと自分の部屋に行った姉さんの後を追い、部屋に入った僕はその中にいた人物を見て意識が止まった。


「じゃじゃーん! これが女装した纏衣の姿よ!」

「はうぅ、私の理想通り。と、尊い……!」

「そうでしょうそうでしょう。私が何年も仕込んだんだから」

「流石です!」


 仲よさげに話し合う二人。一人は当然この部屋の主、姉さんで問題なのはもう一人の方。


「な、なんで……清水さんが……」


 何とかなったと思っていた彼女、清水さんが部屋にいて、両手で口元を覆いながら恍惚とした表情をしてらっしゃる。


「いやー私も何とか誤魔化そうとしたんだけど、纏衣がやらかしたって聞いてこれはもう無理かなって思ってたんだけどさ」

「やら……かした……」

「あんた自分でスカート履いたって言ったでしょ」

「えっ! ……あっ」

「女装したか聞いたけどスカートの事は言ってないのにあんたが言うから確信したって言われてさ」


 はは、何自分からバラしてんだ僕は。


「で、もし纏衣の女装が噂になりでもしたら私も困るから彼女消そうかなって思ってたんだけど」

「そ、そんなこと思ってたんですね。素直に話して良かったぁ」

「そう、話してみたらどうやら彼女、私の同類なのよ」

「同……類……」


 姉さんの同類って何だ。清水さんは成績良さそうだし可愛いとは思うけどスポーツは僕と同じく苦手そうに見える。

 と言うとファッションに詳しいって事か?


「そうなんです! 私前から早乙女君の事可愛いなぁって思っていて、可愛い服着せたいなぁって妄想してたんです!」

「その話を聞いたら私も嬉しくなっちゃってさ。今まで家族以外で話せる人なんていなかったからつい盛り上がっちゃって。ねー」

「はい!」


 あっ、これ同類だわ。そしてさっきから嫌な予感がどんどん膨れ上がっていく。これもしかしなくてもここにいるのマズいんじゃないか。

 すると立ったまま話していた姉さんがすっと移動して部屋の鍵を閉めた。

 ヤバい! 頭の警鐘がガンガン鳴ってるのに気が動転してるからか体が動いてくれない。猛獣(姉さん)と密室にいるだけで危険なのに、ここにはその同類がもう一人いる……!


「で、話していく内に、なら今度家でやろうと言うことになったのよ」

「はい、それでお呼ばれされちゃいました」


 ギラギラした瞳でとても良い笑顔を浮かべた二人が僕を見つめている。今なら蛇に睨まれた蛙の気持ちがわかる。


「や、やるって何をするつもりなのさ!」


 やっと口から出た言葉は緊張からか大きくなってしまった。だが二人はそんなこと気にも止めていない。


「そんなの決まってるでしょ」

「はぁ、妄想がかなうんですね」

「じゃあ、纏衣……」

「早乙女君……」


 ジリジリとにじり寄ってくる二人の手にはいつの間にか女物の洋服が備えられている。


「「お着替えしましょうか」」

「い、い、いやあああぁぁぁ……」



 僕の名前は早乙女 纏衣。

 僕には悩み事が三つある。

 一つは自分が中性的で女の子に間違われること。

 もう一つはそんな僕を姉さんが無理矢理女装させてくること。

 最近増えた最後の悩み事は、


「おはよう、纏衣君♪」

「げっ、清水さん! なんで僕の家に」

「先輩が呼んでくれたの」

「来たか、想叶ちゃん。じゃあ早速始めるか」

「そうですね! 今日も楽しみです!」

「あのー、僕に拒否権は」

「「ありません」」

「理不尽だ!」


 クラスメートの女の子が姉さんと一緒に僕を女装させてくることだ。


「「さぁ、お着替えしましょうねー」」

「い、い、いやあああぁぁぁ……」


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