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僕の悩み事1

こちらは前作の短編(https://ncode.syosetu.com/n1179gd/)に話を加えたものになっております。

 この話と次の話は短編とほぼ同じ内容になっているのでご了承ください。


 それではよろしくお願いします。

 僕の名前は早乙女(さおとめ) 纏衣(まとい)。女の子みたいな名前だけど歴とした男子高生だ。

 高校生になって早二ヶ月、学校にも次第に慣れてきた。今のところ運動がちょっと苦手だけれど学業のほうは問題なくやっていけている。

 そんな僕には悩み事が二つある。


 一つは僕の第二次成長期が早々に終わり、身長もろくに伸びず、顔は幼いままで体格もほっそりして、さらに髭もほとんど生えてこない。あそこの毛も未だに……。

 つまりは僕の見た目が中性的で当たり前のように女の子に間違われるのが悩みの一つ。

 もう一つの悩み事、それは……、実の姉だ。


 僕の姉さん、早乙女 姫子(ひめこ)は一つ上の二年生。成績は常に上位でスポーツも万能。さらには容姿も長身で整っている。弟の僕が言うのもなんだけど。

 そのため姉さんの人気は学年だけでなく新入生である僕達のクラスでもすでに話題になる程だ。


 そんなどこぞの登場人物のようなスペックだけど、姉さんには困った、本当に困った楽しみが……否、性癖がある。それは、


「纏衣ー! 今から買い物に行くから付き合いなさい」

「嫌! 行くなら一人で行ってくればいいじゃん」


 コンコンというノックの後に姉さんが用件、と言うか命令を言ってくる。だがただ買い物に行くわけがないのはわかりきっていることなのですぐさま断る。

 それに今日は嫌な予感がして事前に鍵も閉めてあるから、姉さんが諦めるまで部屋にいれば僕の勝ちだ。


 ガチャガチャと扉を開けようとする音が響くがすぐにそれもすぐに止まった。

 ふっ、勝ったな。


 ガチャン! …………と思っていました。


「ほら、早く着替えて買い物行くわよ」

「ほら、じゃないよ! 何で普通に解錠してんの!」

「弟の部屋のピッキングなんて姉なら出来て当たり前よ」

「どこの当たり前だどこの! プライバシー侵害だ!」

「姉の前では弟のプライバシーなんて無いわ!」

「理不尽だ!」


 話は終わりとばかりに指をワキワキ、笑顔をニタニタさせながら姉さんがジリジリと近づいてくる。

 終わった。姉さんに接近を許した時点でもう僕に勝ち目はない。

 えっ、男なら力で勝てるだろって? 普通はそうだろうね普通は。

 けど片や運動が苦手で体格も一五五センチの細身と小柄な僕、片やスポーツ以外も万能完璧で僕より背が高く万能故に筋肉もしっかり付いている姉。ね、勝てないでしょ。


「さーて。今日はどんな服に着替えよっか? ふりふりスカート? ゆるかわワンピ? 久しぶりにゴスロリにする?」

「……僕の制服ってのはどうでしょうか?」

「だーめ。じゃあ、お着替えしましょっか」

「い、い、いやあああぁぁぁ……」


 僕の困り事。それは実の姉が弟の僕に女装をさせてくることだ。


~~~~~~~~


 ぬぼー……、ぬぼー……。


「全く。いつまでそんな魂が抜けたような顔してるつもりよ。かわいい顔が台無しよ」

「嬉しくないよ! 誰だってこんな格好させられて無理矢理連れ出されたら現実逃避ぐらいするよ!」

「いい加減認めなさい。あなたは可愛く変身(女装)する運命だと」

「そんな姉さんに弄ばれる運命なんて嫌だ!」

運命(私の着せ替え人形)……」

「ルビがおかしい!」


 あの後必死に抵抗したが、姉さんのハイスペックから繰り出された無駄に洗練された無駄のない無駄な着せ替え技術によってあっという間に女装させられてしまった。


 本当はこんな情報いらないと思うけど、なんか姉さんのプレッシャーが怖いから、念のために今の格好を説明しようと思う。

 上は半袖のホワイトブラウスで上から水色で薄手のカーディガンを羽織っている。下は花柄の膝丈フレアスカートにレディースのスニーカーだ。さらにはヘアアクセにバック、うっすらメイクまで施されている。

 なんか男のくせに詳しくないかって? 好きで詳しくなったんじゃない! 姉さんが説明しながら着替えさせるから知らないうちに覚えちゃったんだよ! あぁ、男なのにこんな格好してると再確認すると恥ずかしさを通り越して情けなくなってきた……。


「うぅ……」

「ちょっといきなり何泣いてるのよ……。化粧が崩れるから止めてよね」

「あんたは鬼か!」

「情緒不安定ね。周りの人から変な目で見られるわよ」

「うぐぅ」


 僕たちは今電車で十五分ほど乗った先にあるデパートの()()()エリアに来ている。そこら中から様々なBGMが流れているから、多少僕の嘆きの声が大きくても気にしている人はいないと思いたい。

 手を引く姉さんに連れられて目的の店舗に到着すると有無を言わさず僕を試着室に押し込み、姉さんは品定めに向かった。


「よーし、ゴールデンウィーク以来のマトちゃんの買い物だから気合い入れちゃうぞー!」

「……」

「まずは夏物をメインにして、時期的に清楚系もいいわね。私が着られる物も着せてみて。あっこの服も可愛い」

「…………」

「お客様。今年の夏はこちらがトレンドになっておりますよ」

「そうなんですか。ならそれも試着してみていいですか?」

「はい、こちらなら妹さんにお似合いだと思います。どうぞごゆっくりお試しください」

「………………妹じゃないし……」


 今の僕は心を閉ざし姉さんが押しつける服に着替えては見せる、着替えては見せるを繰り返している。いっそ何かに目覚めてしまえばこの状況も楽しめるかもしれないが僕はまだ男として生きたいと思っているのでこの時間が早く終わるのを願うばかりだ。

 子供じゃ無いんだし逃げれば良いじゃんと思うかもしれないが、姉さんはそんなに甘くない。


 中学の時に逃げたことがあるけどその時姉さんはあろう事か館内放送で僕を呼びつけた。その時も女装させられていて当然着せたのは姉さん。だから上から下まで僕の容姿をわかっていてそれを全て放送するもんだからあっという間に周りの大人たちに見つかってしまった。

 それだけじゃなく当然名前も言うもんだから当時たまたまそこで買い物に来ていたクラスメートにも聞かれ、後に学校でからかわれた。幸いその時は服装については覚えてなかったので僕が女装していたことはバレなかったが、もしまた同じ事をされて誰か知り合いにバレると思うとこの状況で姉さんには逆らえない。完全にトラウマだ。まぁ姉さんも名前を出したのは不味かったと思ってるらしいから二度とないと思うけど。


 それから一時間半。

 あれやこれやと僕を着せ替えていた姉さんは結局ブラウスとTシャツを一着、ミニのプリーツスカートとロングのフレアスカートを一着買っていた。当然僕の意見はない。


「いやー、やっぱりこのお店はいいわね! 学生に優しい値段でこんなに良い物が買えたわ」

「うん」

「あの服も可愛かったなー。でもこれと被るから比べるとやっぱりこっちよね」

「うん」

「やっぱり選んだ中ではこれが一番しっくりきたわね。じゃあ今度はこれ着て出かけようね」

「やだ」

「やだって言っても無理矢理着せるから」

「理不尽だ!」


 弟に人権はないのか。昔の姉さんはあんなに優しく、やさしく……、いや優しくはないな。でも僕に女装させるなんてことはしてなかった。やるようになったのは僕が小六の時だった……。

 まぁ、そんなことはどうでもいいか。今はあの地獄の時間が終わったことを祝おう。

 姉さんとの約束で女装しているときに買う店は一カ所までと決めてあるから今日はもう試着せずに済む。そう思うと心が軽くなってくる。


「あっ、そう言えば買いたい本があるんだった。姉さん上の本屋行ってくる」

「それなら私も行くわ。今月のファッション誌まだ見てないから」



 本屋にやってきた僕らはそれぞれ目的の本を探しに向かった。

 早々に目的の漫画を見つけた僕はそれを手に取り、他に何かないかと何気なしに棚を見ては気になるタイトルの漫画やラノベを手に取っては戻すを繰り返していた。すると、


「あれ、早乙女君?」

「えっ?」


 女の子から声を掛けられた。

 振り返るとそこにはロングヘアーでメガネを掛けた僕より少し背の高い見覚えのある女の子。確か図書委員の……


「あっ、清水(しみず)さん」

「あれ?」

「……あっ! えっと、その」


 な、な、何してんだ、僕! 今の僕は女装してるんだぞ。それなのに何普通に返事してんだよ!

 このままじゃまずい。何とかして誤魔化さないと明日から学校行けない! な、なんて言い訳すれば……。


「えっと、こ、これにはある人の陰謀が」

「ご、ごめんなさい。人違いでした」

「えっ?」

「仕草? 雰囲気? がクラスの人と似ていたから思わず声を掛けちゃったけど、あの人が()()()こんな可愛らしい格好するわけ無いわ」

「は、はぁ」

「あわわ、と、とにかく失礼しました! 私ったら……妄想……似ていた……ブツブツ……」


 結局清水さんは僕が何か言う前に独り言を言いながら立ち去っていった。


「た、助かったー」

「何から助かったって」

「わっ、姉さん!」


 自分の用事が終わったのかいつの間にか姉さんが隣に立っていた。視線は去って行った清水さんの方を向いているからもしかしたら何かを察して来てくれたのかもしれない。それはないか。


「何って今クラスの子に出会って危うくバレるところだったんだから」

「その口ぶりからバレてないんでしょ。ちゃんとヘアセットと化粧もしといて良かったじゃない」

「うっ、確かにそうかもだけど! そもそもこんな事しなければ……!」

「まぁまぁ。そんなことより私は生地を買いたいからいつもの店に行ってるわ」

「そんなことって! ちょっと、姉さんったら!」


 この時、急いで会計を済ませ姉さんを追いかけた僕は彼女がまだ僕達のことを見ていたなんて思いもしなかった。


「あれって、早乙女先輩……だよね……」


 次話は二十時に投稿予定です。

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