異世界転生前と後との脳スペックの差額で儲けられないか、考えてみた
唐突であるが、私は転生した。それも異世界に。
所謂異世界転生と言うものだ。
人間であった私は、この世界の人間と思しき個体に転生した。
ごくありふれたパターンなのではなかろうか。
転生して直後、私はある事に気が付く。
記憶を引き継いでいる。そして、成人した後に死した以前の体と同程度には、脳が働いている。
つまり、今の私は見た目はベイビー、頭脳は大人の神童である訳だ。
転生前にものの本で読んだ通りだ。
しかし、神童でいられる期間はそう長く無かろう。転生前と同じ年頃に成長した日には、私は周りと変わらぬ凡夫となるだろう。
蓄えて来た知識と脳スペックが鍵となると、そう考えた。
平凡な家柄の下に転生した私は、才知をひけらかし、何とかこの世界の様々な学術的知識を得られる環境を与えて貰い、研究者となるまでに至れた。
この世界の知識を得る際に特に熱を入れたのが、この世界に於ける転生と言うシステムについてだ。
転生と言う現象は、案外に多く見られる現象であるらしい。
人、10人集まれば転生者其処に在りと言う諺があるほどだ。
私が凡夫となる可能性は予想外に高かったのだ。
次に、私の様に人から人へと転生するパターンについて。
これもありふれた事らしく、大抵は人から人へと転生する様だ。
ごく稀に魔物に転生する人が居るらしく、こうした存在はかつて神獣として信仰の対象となる例が多くあったらしい。
ここまではこの世界の常識と言って差し支えない知識であった。
ここからが私が生計を立てんとして重視した情報である。
私の研究者としての師が力を入れていた研究テーマ、『転生者の転生先はランダムであるか否か』。
このテーマを解き明かす為に、私と先生は日夜研究に明け暮れ、この世界の法則の一端を知るまでに至れた。
この後に私は自身のラボを持つ事となる。大層なものではない。最悪一人で回せるような小さな研究所だ。
先に述べたテーマの研究結果であるが、実は一定の法則があり、何ならば人為的に転生先を操作出来そうであると言う結果が得られた。
そう、このラボはその『操作出来そう』を『操作出来る』までに解明する為のラボである。
私は転生した際に、脳スペックが一つの鍵となろうものと考えた。
漸く、その鍵を用いて儲ける事が出来そうである。
「チュー!」「チチチ」「ヂヂッ!」
「はい、ありがとう その資料はこっち ああそれ持って来て」
結果を言えば、成功しつつ、ある。
転生者の脳スペックを用いて一儲けするとはどういうことかと言うと、こうである。
私は転生して間もない赤子の頃に、成人程の情報処理が出来る事に気が付いていた。
魔物にしても同じであった。人間ほどの知性を持つ個体はかつて崇められる神であった。
私は一つの仮説を考えた。
脳容積の小さく、多産で、出来るならば長命な魔物に人間の魂を転生させれば、
脳スペックを向上させた労働力が多量に得られるのでは、と。
…倫理的に問題がある為に公にはしていない。
まあ、つまりは、魔物の体を依り代と考え、ハイスペックな脳を積む訳だ。
魔物の選定には慎重を要した。人の脳を持った魔物に謀反を起こされては、たまったものではなかろう。
私はネズミの様な小柄な魔物を選んだ。こう見えて長命である為、まさに最適であった。
研究第1号は、いきなり失敗した様に思われた。コミュニケーションが取れない。
しかしながら知性は感じられる。めげずに研究第2号に取り掛かった。
…またであった。恐らく言葉が通じていない。
私は元は日本人であった。真面目に英語でも勉強しておけば良かったか、それでも通じない確率はあろうが…。
第3号に取り掛かろうとした時である。1号と2号が何やら話し合っている風に見えた。
研究材料として選んだ魔物は単純な鳴き声しか発せぬはずである為、妙に感じた。
…念話?
例によってこの異世界にもスキルポイントなるものがあり、転生者はそれを多量に保持して生まれる性質があった。
転生者の中にはこれを有効に使い、上手くやっている者もいると聞く。
急いで念話を取得した。聞こえる。どこの言葉かもわからんが、会話している。
1号と2号は同じ言語圏からの転生者であった。
いきなり壁にぶち当たった。転生先を指定する技術は完成した。しかし、転生元を指定できなければ意味が無かった…。
若干いじけながら第3号に取り掛かる。これが大当たりだった。
ガチャ引く感覚で魔物に転生させるなって?ごもっともです、はい。
後に3号は1番の助手となってくれる存在となる有難い人材であった。
有り体に言えば、天才である。言語マニアかと言うぐらいに多彩な言語知識を有していた。
3号に通訳を頼んだ。皆に私の下で働いて欲しい、その為に君たちにその体を用意した。
…ドン引きされた。
結局1か月に渡る交渉を重ね、相応の対価で雇用契約を結べました。
お財布が辛い。
「ヂーッ!」「ヂチッ」「チチチッ!」
結局のところ、経済的に雇用できるギリギリのラインを考慮して、10号で止めとした。
…ローコストで大量の人材が得られると思ったのだが。
そんなこんなで、10人(人?)の優秀な助手と共に、私は気ままに研究を続けている。
…儲ける方法?…人生儲けるよりも大切なことが…いや、まあ
実際の所、私は気ままに暮らせるだけの仕事があれば充分であった。
前世では苦労して…いや、止そう。
ところで、私は彼ら1~10号よりも先に寿命が尽きる。
本当に意外と長命な種なのだ。彼らが生活に困らないだけの遺産は残しておきたい。
「ヂーッ!」「ヂッ!」
「ああ、ご飯の時間ですね 今日は特別上等なものを用意してますよ、先の研究が上手くいったお礼です」
…私も長生きせねばなあ