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へたれたサラリーマン

作者: 小笠原

 残業なし、定時退社。表面だけ見繕った嘘の壁紙で偽りの服を着た人間が社会で無知に過ごす。 

 なんて格好つけた持論をヒラヒラと頭で垂れ流す自分は、瞬の世界の王に成り上がる。どうせ寝る前は朝に怯える奴隷でしかないのに。


「あなたの志望動機はなんですか」

 動機?御社で働きたい、理念に惹かれました。だいたいこんなことを言えば大抵の面接は合格、本心から離れた舞台でひたすら演技を繰り返し、日々も反復する。慣れた頃には本心を怠惰が襲う。自分に合った仕事は他にもあるんじゃないかと、本当は上に立つべき人間なのだと、そう考えて定常作業をこなし一日をヒトとして生きるために消費する。

 うすうす気付いているんだ。所詮はその他大勢の床の一角ぐらいでしかないと・・・・・・


 何時ものいつも通りの時間に起きて家を出る。出さえすれば、デスクに座れさえすれば、今日一日をまた消費できるのだ。

 だけど普通の通勤は普通じゃなかった。

 目の前を歩く小学生の列から遅れた幼い子どもが、危うく点滅を放射する縞馬道を通り抜けようとしていた。列を先導すべき子供は後ろのことが疎かになり、視界に入っていない。自分の歩くペースに気付かず、群れから子がはみ出てしまっている。

 横に線を引き、右からは割れた爆音。ライダーが遠方の信号機を経験則で判断し、速度を緩めず突っ込んできた。

 もしかして、もしかする。咄嗟に身をアスファルトの地に走らせ、せめて子供だけでもと、ヒトとして出来ることを、こんな自分にも出来ることを求め、幼い子供にすがった。

 ヒトになって本当に、マジに夢中にガチだった。


 まあ、そんな綺麗にはね、いかないんですけどね。

 薬の匂いが充満する部屋に寝そべって束の間の無痛を過ごす、不十分の身体がとても誇らしく思えた。

 正直に話すと、どのみちバイクは子供にはぶつからなかった。けど自分は跳ねられた。カッコ悪いでしょ?

 ヒーローになり損ねたけど、あの時だけはヒトじゃなくて大人だったんだ。


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