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発足

 部室棟。4階。

 階段を上がって左に進む。

 新聞部、文芸部、将棋部の部室を通り過ぎ、4つ目の部屋。

 ここが私の目的地。

 色々な部活の倉庫代わりに使われている部屋だ。


 私が通っている白峰高校は少し……いやかなり変わっている。

 部活時間と呼ばれるものがある。


 部活時間とは毎週水曜日16時~17時は、必ず何かしらの部活動をしなければならないというもの。


 部活時間中は事前に申請をしておかないと帰宅できないのだ。


 吹奏楽部で居場所を失った私は、部活時間中に時間を潰せる場所を探した。その時に見つけたのがこの部屋だ。

 あまり人が来ないので、一人でいることが好きな私にとって安息の地だった。


 ……この前までは。


 部屋に入ると壁には色々な部活の名前が書かれた貼り紙があり、その下には備品が置かれている。


 ポツンと真ん中に置いてある少し大きめのテーブル。そのテーブルに肘をつき、退屈そうにスマホをいじっている女の子――後輩が居た。


「今日は遅かったですね。先輩」

「また来たんだね。後輩」


 私がいつもの椅子――後輩の目の前の椅子に座ると、スマホから顔を上げ話しかけてきた。


 私達はお互いに名前を知らない。

 分かっているのは学年だけ。リボンの色が学年で別れてるからだ。

 赤は3年、緑は2年、黄色は1年。

 この子のリボンの色は黄色。どうやら1年らしい。


「さっきこんなものを見つけたので、これやりませんか?」


 そう言って出してきたのは将棋盤だった。

 100均で売っているような安っぽい将棋盤に駒。


「指せるの?」

「馬鹿にしないでください。これでも私、頭いいんですから」


 頭がいいのと、将棋が指せるのは違うと思うけど。

 将棋か……詰将棋はたまにアプリでやるけど将棋は久々だ。


 私は、駒を全て並べ終わったが後輩はまだ並べていた。

「……あれ……どうだっけ?」とぶつぶつ呟きながら。

 後輩がきちんと駒を並べ終えたのは少し経った後。私は後輩が将棋を指せるのか心配になってきた。


「先輩。先手どうぞ」

「ん……わかった」


 私達は将棋を始めてから一言も話していないからパチッ、パチッと駒を打つ音のみが響く。

 後輩が突然、大声をあげてビックリした。


「あっそれ、冬真くんもやってました! 美濃囲い!」

「冬真くん?」

「はい。チャレンジっていう漫画の主人公なんですけど、知りません?」

「知らない。有名なの?」

「さあ……?

 私も昨日お姉ちゃんから借りて読んだだけなので……でも良かったですよ。将棋のルールが分からない私でも、しっかり解説されてて分かりやすかったですし。だからやってみたくなったんです」


 突然、将棋をしようって言いだした理由が分かった。

 将棋なんてこの後輩らしくないなとは思ってたけど、理由を聞いてらしいなって思った。


 数分後。

 後輩の王の頭に金を打つ。後輩の王にもう逃げ場はない――詰みだ。


「参りました。実際にやってみると難しいですね。でも楽しかったです」


 後輩は負けたにも関わらず笑顔だった。


 私には分からない。

 どうして負けても笑顔でいられるのか。

 悔しくないのか。


『部活くらいでムキになって馬鹿みたい』

『真面目ちゃんアピール寒っ』


「先輩? 顔色悪いですよ。大丈夫ですか?」


 昔のことを思い出したら後輩に心配されてしまった。やっぱり私の中でまだ消化しきれていない。


「悔しくないの?」


 後輩は呆けたあと、大声で笑い出した。


「なんで笑うの?」

「だって先輩が面白いこと言うから……」


 後輩は一頻り笑って満足したのか目にたまっていた涙を拭った。


「もちろん悔しいですよ。でもそれ以上に楽しかったし、嬉しかったです。先輩と一緒に遊べて」

「嬉しい?」

「いつも2人で居ても何もしてなかったじゃないですか。だから初めて先輩と遊べて嬉しかったです。楽しかったです。勝ち負けより先輩と一緒に遊べた。私にとってはこれが一番大事です」


 後輩は満面の笑みだ。嘘をついているようには思えない。……けど。


「信じられないですか?」


 びっくりした。そんなに態度に出てただろうか。

 ガタッと音を立てて後輩は椅子から立ち上がる。


「分かりました。先輩にこの楽しさを分かってもらえるまで何度も色んな勝負を挑みます。先輩に勝負を挑む非公認部活動。バトル部は殺伐としたイメージだし……勝負部……」


「決めました! しょう部です!」


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