新(異世界)体力テスト
受付嬢の後ろについていくこと10分ほど経った。賑やかな街並みは過ぎ去り、周りには自然が広がっている。燦燦と降り注ぐ太陽。視界を覆う青い空。過ごしやすい温度。地球では味わえないようなきれいな空気。
「どちらからいらっしゃったのですか?」
受付嬢は社交辞令的に話しかけてきた。果たしてどう答えたものか。日本という地名はここの世界には存在していないはず。
「内緒です。家族の反対を押し切って出てきたものですので…」
咄嗟にそれっぽいことを告げた。
「そうなんですね。どうしてそこまで?」
「子供のころ、こういうことをしている夢をよく見たんですよね。それで憧れの存在みたいになっていて…。親とかからは安定した職につけとか言われたんですけど、諦めきれなくってばれないように逃げてきた次第です」
趣味でライトノベルを読んでいたおかげで、何とか切り抜けられそうなストーリーを思いつくことができた。
「なるほど…。親の言うことに従えばよかったかもしれなかったかもしれないですね。まぁ、私は止めはしませんけど」
「は、はぁ。もし後悔したら、それはその時です。まだ長い人生、時間はたくさんありますし、若いうちはやりたいことをやって後悔しておきたいんです。そうすれば、将来なにかで後悔したときにこのことを思い出して冷静になれるような気がするんです。」
話しているうちになぜか熱くなってしまった。ここまで言ってしまった以上、相当に努力しなくてはいけないだろう。幼いころからこの環境になれていない分、多少はこの世界の住人には劣るだろう。どうにかしてカバーしなきゃ…。
「ついつい話し込んでしまいましたね。到着しました」
目の前には管理局のような建物と、ただっぴろい平原が広がっている。耳を羽根で触られているような感覚をさせる草原の風。わくわくした俺の気持ちのようである。
「では、これから適性検査を始めます」
「はい。先ずは何からやるんですか?」
「先ずは基本的なことからです」
そう告げられ俺は建物の中に入った。建物の中は備品か何かで雑然としている。
「では、こちらに座ってください」
俺は診察室によくある丸椅子に座るよう指示され、何か管のようなものに繋がれた。そして受付嬢は何かの数値を記録している。
「痛みはないので、安静にしてください」
「わかりました…」
計測が始まって5分が経った。受付嬢はまだ何かを記入しているようだ。そして、何かが終わったようでにこやかな顔でこちらに振り返った。
「計測が終わりました。最後にあそこで身長を測ります」
受付嬢が指さした先には、日本でよく見る身長を測るアレが置いてあった。
「次は実技検査です。手始めに、あそこからここまで走ってください。往復ですよ」
「往復…ですか?なかなかに距離ありますね」
「検査なので悪しからずです」
俺は彼女の指示に従い久しぶりに長距離を走った。体感では1kmくらいあるようだ。部活で長距離を走るおかげかそこまで辛くはないが、最初にこれは後に影響が出るかもしれない。
その後、立ち幅跳び、握力、反復横跳びなど、まるで新体力テストを受けているような内容であったが、一つだけ耳を疑うものがあった。それは魔法である。やっぱりこういう異世界には魔法はつきものだろうか。そしてこれに関して抱いていた不安は的中していたようだった。
―「では次は魔法検査です」
―「魔法、ですか」
―「はい。初めてですか?」
―「失礼ながら…」
―「わかりました。では、自分の手を前に突き出し、力を込めてみてください」
―「ぐぐぐ…何も感じないです…」
―「なるほどぉ」
「確実にこれは魔力を持っていないってことだろ?」
受付嬢が何かに記入している裏で呟いた。これはどっちのパターンだろうか。頭脳派?体力派?最悪の場合、無能ということもあり得る。
「では集計や手続きがありますので、明日またいらしてください」
「わかりました。ありがとうございました」
その場で受付嬢と別れ、帰路についた。…あれ?俺って帰る場所あったっけ?
気づいてしまった。何よりも重大なことに。そう、俺が帰る家がないのだ。勿論お金を持ち合わせているわけではないため宿に泊まることもできない。これは野宿確定だな…。というか食料どうしよう。森の近くとかに野宿すれば木の実と手に入るかもしれない。
「待て待て待て、もっと大変なことに気が付いてしまった」
自分の体感ではこちらの世界に来てからすでに6時間は経過している筈。しかし恒星は来た時と全く同じ位置にある。生物が生息しているということは、そこまで恒星との距離があるわけではない。考えられるとしたら、潮汐ロックか自転が遅いかのどちらかだろう。どちらにしろ恒星が出ている時間は長いわけで、その分この環境に適応するのにも時間がかかるというわけだ。なかなか珍しい星にたどり着いてしまったのかもしれない。暗くならないという事態になれば、人間の習性と異なってしまう。つまり、睡眠障害になるということだ。常に明るいわけで、そりゃ眠くなくなる。ただ自転が遅いのならば、昼も夜も地球より長いということだ。昼は熱く、夜は凍えるような寒さになる。これはどちらにしても、住む場所を決めるのが最優先かもしれない。受付嬢は「明日」といっていたはずだ。このままではどこから明日なのか判断しかねる。一度街に行って、こちらの世界の住人の生活の様子を観察するしかないようだ。
そう決めた俺は、足早にギルドがある街へと向かった。
お疲れ様です。
久しぶりの投稿となってしまいました。
なにせリアルが忙しいものでして…。
今回ですが、ギルドの一員となるための適性検査回です。
まぁ内容は現実とあまり変わらないようでしたがね。
ちなみに私は、反復横跳びと腹筋(?)だけは得意でした。
そのおかげでグラフが変な形になりましたがね。(他が低い)
さて次回ですが、皆さんが察している通りの展開が来るはずです。
私もまだ執筆していないので何とも言えませんが、多分来ます。
では。