第二の始まり
「今日16時ごろ、西高校の正面の道路で事故が発生しました」
―ん?事故?
「この事故で、西高校に通う17歳の下田桜さんが病院に搬送されました」
―下田桜…俺の名前じゃん。
「下田さんが歩いているところに後ろからバイクが衝突し、下田さんは全身を強く打ちました」
―俺は死んだのか?それともここは病院か?
ゆっくり瞼を開ける。目の前には白い天井ではなく暗い空間が広がっていた。体が少し痛む。事故の名残だろうか。
「俺は病院じゃなくて、もしかして異世界に転生したのか?」
明らかに今は病院ではないところにいる。暗い空間にいるということは多分、ここから異世界へ転生するのだろう。どこかから天使的な人が出てきて、能力の説明をされるはず。何だか不謹慎だが、いい展開になってきたぞ。
―すみません。下田さんでよろしいですか?
どこからともなく声が聞こえてくる。多分この方が転生させてくれるのだろう。
「あってます」
―その前にここに出てきますね。
その声が聞こえなくなると同時に、目の前が明るくなった。元の暗さになり、目を開けると、少女が立っていた。その少女は白いドレスのようなものを纏い、いかにも天使のような見た目をしている。所謂美少女ってやつだろう。
―えーと、先ずあなたは亡くなられました。亡くなられた方は抽選で、別の世界線に転生されるか、あの世へ転生されるかが決まります。
なるほど、俺は死んだのか。そして実際に、異世界と天国と地獄が存在しているということか。抽選…お願いだから異世界転生させてくれ…。
―厳正なる抽選の結果、あなたは別の世界線に転生されることになりました。
「本当ですか?頑張ります!」
―…わかりました。因みにこの抽選はあの世行になるまで続けられます。では。
「あ、あのっ」
言い切る前に少女は消えてしまった。何だか夢を見ている気分だ。
「能力の説明は無しか…」
少女は能力についての説明を一切しなかった。これは多分、説明しなくてもいいようなフォローがあるということだろう。
能力について考えを巡らせていると、足元に魔法陣のような模様が現れ緑色に光りだした。魔法陣の外側には見たことの無い文字が並んでいた。魔法陣だからルーン文字だと思ったが、この文字は見たことがない。そして自分を囲むように六芒星が書かれている。
「ふぅ。これから俺も能力持ちか。ワクワクするなぁ」
気が付くと六芒星が回転していた。どんどん速度が上がっている。それにつれて魔法陣の光も強さを増している。そして緑色の光が視界を覆い始めた。
「うっ」
突然体が浮いているような感覚に襲われた。転生し始めたのだろうか。少し酔ってきたが、それを感じさせないほどに希望で満ちていた。
懐かしさを覚える街の喧噪。俺は異世界にいるのだろうか。恐る恐る目を開く。
「すげぇ…これが異世界か…」
目前には、中世ヨーロッパを思い出させるような街並みが広がっている。異世界物によくあるタイプの街だ。街は大変にぎわっていて、そこは現世と変わらないようだ。周りを見回す。俺は路地に転生させられたようだ。道は薄暗く狭い。その道の先に大きな通りがあるようで、活気にあふれている。地面はタイルで覆われていて、腰が少し痛む。然しそれ以外に体に不調はない。全く以てピンピンしている。
「とりあえず、探索でもするか…。こういうときは大体ギルドへ向かえばいい筈だ」
こういう作品は大抵先ずはギルドへ向かう。そしてそこで、職業選択する。ものによっては、ギルドを沸かせるような事実が発覚する。
「ギルドみたいなものってありますか?」
「ギルド…。狩人の集会場的な場所なら、中央広場にありますよ。」
「ありがとうございます!」
中央広場の場所を聞き忘れたが、人が多く移動している先へ向かえば到着するだろう。ハードモードじゃなくてよかった。ハードモードだったら、異世界語も理解できてなかっただろうし。
「ここかな?」
俺は15分ほど歩き、中央広場っぽいところに隣接しているギルドに到着した。この町の大半は木造建築で、ギルドも例外ではない。扉はついておらず、中で冒険者たちが騒いでいる様子が窺える。
意を決して中に入る。冒険者たちからの熱い視線が注がれている。中は想像していたよりも広く、40人ほどが寛いでいる。建物自体は二階建てで、一階は酒場と受付、二階は掲示板や仲間を募集する所がある。
「すいません…。」
「初めての方」と書かれたカウンターの受付嬢に話しかけた。
「はいなんでしょうか?」
受付嬢は優しい声で対応してくれた。話しかける前まで、何かの書類の作業をしていたが、とても素早い手つきで片づけた。
「このギルドに所属したいのですが」
「こういうのは初めてですか?」
「はい…」
流石はギルドの受付だ。人を見る目が優れている。
「わかりました。ではこれから手続きをします。先ずはこの書類を埋めてください。」
そう告げ受付嬢は紙を二枚渡した。一枚は個人情報等を書くもので、もう一枚は宣誓書のようなものだ。これは、異世界語で書かなきゃいけないのだろうが、いつもの癖で日本語表記で書いてしまいそうになる。
二枚目に書かなきゃいけないことは氏名だけだった。内容を読んでみると、「これからヤンタ集会場に所属します。所属集会場を変更するときは、この書類を相手の集会場に提出してください。…活動中の事故等の責任は負いません。すべて自己責任でお願いします。…この宣誓書を書いた後、適性検査を行います。この宣誓書は、それの許可証を兼ねています。…」と書かれている。これから適性検査なるものをするのか…。
「書き終わりました」
「受理しました。では、これから適性検査をするのでついてきてください。」
「わかりました」
お疲れ様です。
さて、無事に主人公は異世界に転生しましたね。
勘のいい人ならこの先の展開が分かってしまっていると思います。
多分その展開になります。
ではまたごきげんよう。