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第陸話 黒髪メイドとの日常、エリアボスへの挑戦

かなり期間を開けてしまい、申し訳ない。全てVRチャットが悪いんじゃ・・・。


 と、黒髪メイドを合法的に手に入れた『Marylean』はほとほと困っていた。何せメイドを置く為の家が無いのだ。買うにしても今の所持金では買えない。というか、今までこのゲームでの通貨を説明するのを忘れていた。

 このゲーム、【セイヴァー・ルージュ】の共通通貨はゴールド、棒ドラゴンのクエストと同じなのだ。このゲームの新規登録を済ませると、その状態で5000ゴールドほど手に入る。それも『Marylean』は『Arias Feel』に武器を打ってもらった為、全てのゴールドが消し飛んだのだ。だが、5000ゴールドで済んだのは『Marylean』が初期からのフレンドだからである。『Arias Feel』といえば全ての武器が最高位の武具で、最低値で559200000ゴールドである。

 とんでもない金額なのだ。本当に、何故初期からのフレンドだけの関係であるだけなのに、だ。

 とまぁ、この話題は置いておく。『Marylean』は現在オークの駆除依頼で全所持金が38000ゴールドで、家を買うとしてもそこら辺の放棄されたボロ家をようやく買えるというくらいしかないのだ。


「ほんと……どうすっかなぁ」


 アイテムストレージに記載されている『メイド(黒)』という文字を見つめながら呟く。このメイドアイテムを入手したからと言って、何かが変わるわけではない。だが、『Marylean』としてはレアなアイテムを手に入れたのなら、それを使用してみたいと思う筈だ。


「いつか、家でも買うか」


 アイテムストレージから目を離し、青く、澄んだ空を見上げた。いつかの未来を描いて。

 と、アイテムストレージに記載されている『メイド(黒)』という文字が光を帯びた。


「なんだ……これ」


 前垢も含め、こんな現象を見たことがなかった。驚愕に染まった顔を隠すことはなく、ゆっくりと人差し指を伸ばす。ピタリとアイテムストレージの文字に触れる。目の前の空間にポリゴンの欠片が集まり、人型を形作った。


「こんにちは、さっきぶりですね。マスター」


 ニッコリと笑みを浮かべた先程の黒髪ショートの少女が光を帯びて出現した。何故かフリルがふんだんにあしらわれたメイド服で、まるで秋葉原にあるメイド喫茶のメイドのようだ。


「というか、何でマスターなの?」

「いえ、もう貴女様の所有物となったのでマスターとお呼びするべきだと判断いたしまして」


 不思議そうな顔をして、どうかなされましたか?、と首を傾げた。『Marylean』は大きく溜息を吐き、無言で歩き始める。


「あ、ちょっと待ってください!私も連れてってくださいよ~!」


 背後で聞こえるメイドの声を聴きながら。


 ✝ ✞ ✝ ✞ ✝ ✞


――フィールドエリア 平原


「そういえば、貴女……と、そういえば自己紹介がまだだったわね。私の名前は『Marylean』、貴女の名前は?」


 町の門から出た辺りで、そういえば、と思い出し、後ろをカルガモのように付いてくるメイドに尋ねた。メイドは『Marylean』の問いに横に首を振った。


「まだ、マスターにいただいていないですが?」

「?どういうこと?」

「ですから、まだマスターには名を頂いていないのですが?と」


 不思議そうにする双方に『Marylean』は更にハテナを浮かべる。システムメニューを開き、何故か装備中となっているメイドのステータスを開く。

ステータスは本来、ネーム、性別、そして各ステータスと表記されるのだが、おかしなことにメイドのネームは空白となっている。


「あぁ、なるほどな、つまり貴女は召喚獣と同じ扱いになってるってことか」


 召喚獣、職業召喚士のジョブスキル、《召喚》によって呼び出される友好モンスターのことである。呼び出された友好モンスターはその名の通り、契約し、召喚できるモンスターになる。だが問題はその契約の結び方なのだ。従来のMMORPGでは問答無用で召喚したモンスターと契約を結べたが、【セイヴァー・ルージュ】では有効モンスターから条件を出されるのだ。その条件は様々で、簡単な物だと好物を食わせろなのだが、厄介な物だとPVEを強制される物だってあるのだ。

 そして、『召喚』を使用できるのはその職業に就いてから、なので運よく「召喚士ギルド」を見つけ、召喚士になり、『召喚』を習得するとレベル一から就ける。なのでレベル一のまま『召喚』を使用すると、格上のモンスターが呼び出され、虐殺される。ある意味このゲーム最大の欠点である。

 勿論その点の注意喚起はチュートリアルでも、商品説明の紙にも記載されているが、初心者は大体そのような紙を読まずに進めるのだが、初期ゲームプレイ時にチュートリアルが発生するという安全設計にもされている。『Marylean』の場合、バグか何かでチュートリアルは発生しなかったが。


「ペットみたいな扱いでなんか嫌ですね」


 メイドは微妙な顔をしながらチラリと門の中を振り返る。メイドのその視線の先には召喚士と思われる男プレイヤーが豹型の召喚獣を撫でている姿がある。その姿を『Marylean』は見つけると苦笑し、システムメニューからストレージを開き、片手剣を右手に出現させる。


「ほら、これ使え」


 右手に現れた剣をメイドに投げると、ストレージを閉じ、メイドのステータスを開いて現れた半透明のキーボードを操作する。メイドは投げられた剣を慌てて受け取ると、革の鞘からゆっくりと確かめるように引き抜く。


「これ、とんでもない剣じゃないですか!?こ、こんな高そうな物、受け取れませんよ!」


 バッと剣に向けていた顔を上げ、『Marylean』に剣を押し付ける。剣を身体に押し付けられたせいか、剣のステータスが『Marylean』の開くシステムメニューに重なり、現れた。


――――――――……

銘:ストームチェイサー


エンチャント;風属性・硬質化・攻撃力増加2.0倍・生命力強化1.3倍


耐久力;1752


攻撃力;548


製作者:Arias Feel

――――――――……


そう表示されるステータスを鬱陶しそうに消し、半透明のキーボードのエンターキーを叩く。それと同時にピクリとメイドが身体を跳ねさせ、キョトンとした顔になる。


「それじゃ、行こうか、ステラミース」


 ポンと頭に手を乗せると、一撫でし、街道を避け、一直線に歩いていく。そう、これから行く場所は此処から一直線で行けるのだ。と、ステラミースは首を傾げ、何処へ行くのか、と『Marylean』に尋ねた。


「あぁ、私たちは今からエリアボスに挑みに、ボスエリアに行こうと思ってね」


 スッとこれから向かう方角を指さし、言う。鳩が豆鉄砲を食ったように口を開けるステラミースを笑うと、スタスタと足早にボスエリアに向かうのだった。


 ✝ ✞ ✝ ✞ ✝ ✞


 明らかに不自然と言える木々の配置に懐かしさを感じながら、『Marylean』は道を閉ざす枝を掻き分け、ボスエリアへと侵入した。と、少し開けた空間があり、小さな白い兎が佇んでいた。


「あら、可愛いですね。あの子飼いたいですね、ね?マスター」

「おい、一応あいつはエリアボスなんだぞ。集中集中!」


 見当違いの事を言うステラミースに『Marylean』が窘めると、兎がキョロキョロと周囲を見渡し、背後の草むらへと飛び込んだ。あっ、とステラミースが名残惜しそうに声を漏らすと、草むらが爆発によって吹き飛んだ。

 不自然な爆発の正体は、吹き飛んだ草むらの中を進む巨大な戦車(パンツァー)


「あのエリアボスの名は……」


 『Marylean』が言い切る前に、そのウサミミの塗装がなされ、全体的にピンク色に包まれている戦車のHPバーが戦車の頭上に表示された。そして、表示された名前は、


「『PantherRabbit』。兎戦車ってやつだな」


 刹那、戦車の中から獣の雄叫びが響き渡った。


「GYROOOOOOOOOOOOOO!!!」


 耳を劈く不快な音がボスエリアに響き、『Marylean』とステラミースの鼓膜を叩いた。

 そしてその咆哮に体を一切震わせずにニヤリと笑みを浮かべるプレイヤー、〈頭のおかしい(アマゾネス)女プレイヤー(バーサーカー)〉が、そこにはいた。

 そして、一人のプレイヤーとそのお供であるステラミースの蹂躙が、今始まりを告げた。





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