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第伍話 大将対決1on1、素材換金


 オークジェネラルの抜いた剣は黄金の刀身に、柄と鞘は王族拵え。

恐らく以前の大型スタンピード、現実時間で半年程前に起こった王都モンスター強襲イベントで奪われた王族の宝具の一つだろうと推測される。

『Marylean』は、スタン、と地面を蹴り、オークジェネラルに肉迫する。キラキラと剣に、身体に、纏わりついていたオーク兵たちの血がポリゴンへと変わり、散る。キラリと刃が光を反射し、一閃する。その一閃は宝具の持つPESによって弾かれた。


「間違いない……【攻と防の宝剣】だ」


 その破格の性能にイベント限定でのみ入手できた剣である。そしてそのイベント終了時に全て消滅したアイテムでもある。なので今現存する【攻と防の宝剣】は王族の宝物庫にたった一つだけだった。だが王都モンスター強襲イベントで宝物庫は破壊され、その行方は分からなくなったのだ。


「こんなところにあったのかよ……その宝剣、貰い受けるッ!」


 【ゲオルグ・ソーン】を下段に持ち、上へ貫く。オークジェネラルを包む障壁は未だ消えず、『Marylean』の高速の剣戟に耐える。当初こそその恐ろしく鋭い剣戟に怯え、腰が引けていたが剣戟の速さに目が慣れてきたのか、宝剣自体で弾くことも多くなってきた。


「流石、オーク兵たちを率いていた上位種のAIは違うね」


 額の汗を腕で拭い、オークジェネラルの目を見据える。【ゲオルグ・ソーン】を強く握り、更に一段階剣戟のスピードを上げる。甲高く、地平線まで届くような金属音が激しさを増す。と、パキリ、小さな音が、それでいて重大な物が崩れ始めた音だった。


「GAAAA!?」


 今までオークジェネラルを延命させていた命の綱たる障壁にヒビが入っているのを発見した。そしてオークジェネラルが発見した瞬間、『Marylean』が【ゲオルグ・ソーン】を後方に引き、


「穿て、《ソーン・ピアス》」


 【ゲオルグ・ソーン】に怪しげな紫色の光が灯り、刹那、閃光が障壁を粉々に砕き、オークジェネラルの横腹を貫いた。


「GYAAAAAAAAAAA!!!」


 魔物の森にオークジェネラルの悲鳴が轟いた。木々が騒めき、小鳥たちが飛び立つ。

 【攻と防の宝剣】がオークジェネラルの手から零れ落ち、地面に突き刺さった。そして必死に手を伸ばし、零れ落ちた【攻と防の宝剣】を取ろうとする。が、そんなことは許さず、『Marylean』は【ゲオルグ・ソーン】で腕ごと斬り飛ばした。それと同時にオークジェネラルはポリゴンとなって消えた。ドロップ報酬に【攻と防の宝剣】がある事を確認するとガッツポーズする。


「っしゃあああああ!!来たあああああ!!!」


 女性プレイヤーとは思えない雄叫びを上げ、拳を空に掲げた。


 ✝ ✞ ✝ ✞ ✝ ✞


――セーフティーエリア 始まりの町


 賑やかな大通りを一人の女性プレイヤー、中身は男の『Marylean』が腰には【ゲオルグ・ソーン】とは違う豪華な王族拵えの太刀を装備している。そう、この太刀は元々【攻と防の宝剣】だったものだ。勿論、今でもその銘は変わっていない。何故ならこれがこの剣本来の二つ目のPESだからだ。

《変劇の剣》、《防極の極意》、《刺の一撃》。この三つがこの【攻と防の宝剣】の備えているPESだ。

 《変劇の剣》、これは持ち主によって姿を変えるスキル。簡単に言えば剣版変化だ。

 《防極の極意》、これはオークジェネラルも使っていた障壁を生み出すスキル、一定ダメージまで受けきることができるのだ。だが、破格なのはこのスキルに自動修復機能が付いているのだ。

 《刺の一撃》、全ての攻撃にクリティカルが乗る。

 その三つのPESがこの【攻と防の宝剣】を支えてるのだ。

 サラリと鞘を撫で、『Marylean』は笑みを零した。『Marylean』が向かう所は憲兵ギルド、オーク兵たちのドロップ品を売りに行くためだ。予想より多く素材が手に入った為か、ホクホク顔だ。


「儲けた儲けた」


 カランと扉を開け、三人の男プレイヤーたちが憲兵ギルドから出て行くのを見届け、扉を開けて、中に這入った。

 憲兵ギルド内は驚くほど賑わっていた。一体何があったのか、確認することもなく受付カウンターへ向かう。


「どうも、受付さん」

「えぇ、こんにちは」


 ニコリと笑みを返してくれるのは『Marylean』が登録しに来た時に話したあの受付嬢、通称受付さんだ。ところで、と話題を振った。


「なんでこんなに此処が賑わってるんですか?」

「あぁ、今魔物の森からモンスターが溢れてるって聞くから出払ってた連中が帰って来たのよ」

「へぇ……でも明日を超えたあたりで溢れていたモンスターが消えるかもしれないですよ」

「え?なんでですか?」


 キョトンとした顔を見せると、人差し指を唇に付けると、


「シー……」


 ウィンク付きで受付さんに口止めをする。その仕草に受付さんが頬を赤らめたのに『Marylean』は気が付かなかった。


「ごめんね、教えられない。でも、情報は確かだから」


 そう言い残すと、アイテムボックス内にあるモンスターのドロップ品をドラッグさせ、カウンターの上にあるトレーの上に出した。そして粒子と共にアイテムボックスから吐き出されたオークの右耳を15個、そしてオークの血抜きされた肉が少しばかり入っていた。


「依頼の達成」


 受付さんはトレーの中を確認すると、


「はい。確認できました。依頼主は上の談話室にいますので、左側の階段からお上がりください」


 スッと右手を『Marylean』から見て左側を指す。ニコリと笑みを作ってありがとう、と言うと、階段を上る。廊下の奥に扉が一つ、そして廊下の右側に扉が二つ。恐らく右側にある二つ目の扉だろう。ゆっくりと歩み、扉を開ける。


「あ……」


 談話室に居たのは黒髪を短く切ったメイド服の少女だった。扉を開けると『Marylean』に気が付いたようで『Marylean』に向き、立ち上がって深く頭を下げた。


「此度は有難う御座います。その、依頼を受けていただいて」


 『Marylean』がそれを止めようと手を伸ばす。が、その手を止めた。理由は彼女にあった。彼女は、涙を流していたのだ。


「………」


 『Marylean』は何も言えなかった。彼女が泣く理由が想像できたからだ。

 彼女の主人がオークに、オークジェネラルによって殺されたのだろう。それにしても一メイドである彼女が悲しむという事は相当いい主人だったのだろうと安易に想像できる。


「おかげで主人の仇が……本当に……ありが…とう」


 堪え切れなくなったのか、彼女は泣き崩れた。それを受け止め、抱き寄せる。


「よく、耐えましたね」


 強く抱きしめた。勿論、『Marylean』の行ったその行為に下心は一切ない。その細く、今にも折れてしまいそうな身体を更に強く抱きしめた。


 ✝ ✞ ✝ ✞ ✝ ✞


「も、申し訳ございませんでした!!」


 全力で、土下座しそうな勢いで謝るのは先程の黒髪ショートの少女だ。それに対応する『Marylean』はテンパっているようでキョドっている。まぁ、どちらも同じようなことだ。


「そ、それはいいから。……取り敢えず報酬の話しだ」


 そう切り出すと黒髪ショートの彼女は両手を合わせてポケットに片手を突っ込む。そしてどう考えてもポケットに入りきらないような大きさの麻袋を取り出し、テーブルの上に置いた。


「これが一目の報酬である38000ゴールドと………」


 と、そこで彼女は言葉に詰まった。首を傾げるとハッと気が付いた。

 宝物。その言葉が一体どのような意味が籠っているのか、それ籠めた本人しかわからない。それ故に危険が伴うのだが、その文字を『Marylean』は見逃していた。そう、本当に見ていたのならこの依頼を受けなかっただろう。


「わ、私……私が、その宝物です!持って行ってください!!」


 その瞬間、談話室が冷凍室に変わった気がした。VRでは一切温度を感じる事は無いが、何故かこの時だけは温度を感じた。


「え、えっと……男性だったらしょ、処女を捧げるつもりだったんですけど……じょ、女性の場合は考えてなくて……だっ、だったら、私自身を報酬にすればって……思ったんです」


 申し訳なさそうに顔を伏せ、瞳だけを『Marylean』に向ける。所謂上目遣いという物なのだろう。見たことも無いので知らないが。


「そ、そうなのか」


 苦笑を浮かべる後ろで少し引いていたが。それにしても、と思考する。


「(外見を見れば美少女だけども……中身、だよなぁ)」


 そしてそのまま思考を続けていると突然、目の前の少女が何かを感じ取ったように直立になり、駆ける。そしてその行動に反応したように何も書かれていないシステムメニューが開き、少女が左手を伸ばす。

 少女の顔を見たのは彼女が顔を上げてから初めてで――最後に『Marylean』が見たのはハイライトの消えた双眸だった。

 ツッと左手の中指がシステムメニューに触れたと思った瞬間、少女の姿が光に包まれ、ポリゴンとなって散った。そう、それはモンスターが死亡した瞬間と同じエフェクトだ。


「なっ!?」


 驚きのあまり顔を硬直させるが、よくよく開かれていた白紙のシステムメニューを見るとそこにはアイテムとしてきちんと黒髪メイドが登録されていた。なんとこれは名付けシステムまであるようだ。


「全く、飽きないゲームだよ、このゲームは」


 クルリと踵を返すと談話室の扉を開け、階段を下った。さて、次はどんな依頼を受けるのか、それは神のみぞ知る未来であるのだから。





ご視聴、有難う御座いました。<m(__)m>








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