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第参話 忘れ物、そして言われなき二つ名

お待たせいたしました。その場その場で書いている為相当更新ペースは他の作品と比べ遅いです。誠に申し訳ございません。<m(__)m>


 静かな森を疾走する影が一つ。ガサガサと草を掻き分け木々の間を縫うように走る。その陰のおかしな点は一つ。目を瞑りながら走っている事。それはいくらマップを見返し、フィールドを歩き回っても絶対に覚えられないとされる木々の位置、草木の配置、枝の分かれを正確に覚えてなくてはならない。だがその影、『Marylean』は事実目を閉じ、疾走している。

目を閉じる理由としてはいくつかある。一つは心的安らぎを得るため、そして二つ目はマナ、所謂MPというものを回復させるため、そして三つ目は、スキル《気配察知》を発動する為に目を瞑るということ。だが《気配察知》は殆どが静止したまま使うスキルで、味方が護衛しつつ使用するスキルだ。

 故に、『Marylean』が《気配察知》を使用しているとは夢にも思わないだろう。だが、実際『Marylean』は《気配察知》を使用しているのだ。そしてもう既に《気配察知》で『Kubias』を捉えているとは夢にも思わないだろう。因みにこの《気配察知》は『オーテル・ボア』を狩っていた時に習得したものだ。


「さぁ、殲滅の時間だ。元JPサバランカーの俺をなめるなよ」


 《気配察知》で数メートルの距離になった瞬間、自分の気配を完全に断った。勿論、そういうスキルは存在するのだ。《気配遮断》。それがスキルの名前なのだが、『Marylean』のスキル欄には当然の如くそのスキルは存在していない。何故ならばスキル《気配遮断》は職業がニンジャであり、そして職業レベルが十五の突破を条件としたスキルだからだ。『Marylean』がユラリと体を揺らし、平原を駆ける獣の如くスピードで『Kubias』の背後に迫る。そして腰に吊るされた剣を引っ掴み抜刀する。目にも止まらぬ速さで抜刀された剣、【ゲオルグ・ソーン】が『Kubias』の首を捉え―――大きく弾かれた。

 ビリビリとした感覚が腕から脳に伝わる前に地面を蹴って大きく上へ飛んだ。丁度『Marylean』の首があった空間を緋色の剣が斬り裂いた。頭上の木の枝を蹴り、『Kubias』の頭上から強襲する。『Marylean』の即席の強襲は難なく防がれ、地面を滑る。少し柔らかい地面に滑った跡が出来、『Marylean』はその手に握る【ゲオルグ・ソーン】を眼前に構えた。

「やっぱ強かったな!サブ垢ってやつか?」

 『Marylean』がピクリと眉を動かした。その仕草に気が付いたのか『Kubias』がクハハと大きく笑った。『Kubias』の手に収まっている緋色の剣は【スカーレット・クレイモア】という銘を持ったこのサーバーに一つしか存在していないユニークウェポンという物だ。一応ゲームシステムが用意したイベントアイテム、レジェンダリーウェポンを除いて最高レア度の剣だ。ユニークウェポンと分類されている為、そこらのノーマルウェポンよりも耐久、攻撃、防御が高く店売りの武器では打ち合う事も難しいのだ。


「でもまぁ、この剣と打ち合えるってことは相当な業物って事だろ?」


 『Kubias』は自身の握る【スカーレット・クレイモア】を一瞥し、『Marylean』の【ゲオルグ・ソーン】を見つめる。『Marylean』は『Kubias』の問いに答えず、『Kubias』の瞳をジッと見つめる。『Kubias』が肩を竦めた。その瞬間、『Marylean』が地面を強く蹴って飛び出す。そして振るわれる凶刃に【スカーレット・クレイモア】をぶち当て弾く。大きく弾かれた【ゲオルグ・ソーン】が弧を描き、後方へ飛ぶ。そして『Kubias』が【スカーレット・クレイモア】を振り上げ、『Marylean』の首目掛けて振り下ろし――


「《神域抜刀》」


 刹那、『Marylean』の腰から抜き放たれた刀の、漆黒に塗られた刀身が大気に触れる。光をも吸い込みそうな漆黒の刀が目にも止まらぬ速さで駆け抜け……始まりの町最強の闘技場ランカーの首が転がり落ちた。突然すぎるランカーの死に観戦していた百を超えるプレイヤーたちは言葉を失った。漆黒の刀がゆっくりと余韻に浸るように鞘に納刀され、フィールド上空に《WIN Marylean》と大きく表示され、『Marylean』の視界中央に《YOU WIN》の六文字がキラキラと光り輝いている。


「……勝った……か。……いや、俺の負けだな、まさかこんな序盤に上級プレイヤーがいたとは思わなんだ……うん。ギルドを作って入れるか」


《神域抜刀》。職業サムライで職業レベルが九百九十九というカンストに到達したときに習得できる必殺の一刀。種類は抜刀術に属し、その速度はこの【セイヴァー・ルージュ】内の全てのスキル、剣技の中で最速。それはこの技がスキル剣技という分類となっているからだ。【セイヴァー・ルージュ】内の分類としては、パラメーター、スキル、エクストラスキル、剣技、極剣技、そして、スキル剣技となっている。だからこそこのスキル剣技という分類に置かれている技が最強なのだ。まぁ、このスキル剣技というモノは全ての職業に共通しており、どの職業を九百九十九に上げてもその職業に合ったスキル剣技が与えられるので、同レベル帯ではそこまで大きなアドバンテージは持たない。

 この技は前垢で愛用していた為、今回は再現が可能だったのだ。所謂、手動発動スキル、というシステム外のスキルで、勿論高度なプレイヤースキルが必須なのだ。

というかぶっちゃけ先程使用していた《気配遮断》も手動発動スキルで発動していたモノなので、ある意味でのチートではある。話は逸れたが、その最速を叩き出すこの《神域抜刀》の持つパッシブエクストラスキルだ。因みにパッシブエクストラスキルとはスキル剣技を発動した瞬間に現れるエクストラスキルだ。――このパッシブエクストラスキルはPESと略される――そして《神域抜刀》のPESとは、《抜刀の神髄》、《神域への一歩》。どちらもAGIを飛躍的に上昇させるスキルで、抜刀術の抜刀速度は自キャラのAGI依存なのだ。

 だがシステム的に発動しているわけではないので勿論そのPESは発動しない。ならばあの速度をどう出したのか、それは【セイヴァー・ルージュ】のレベルアップシステムにある。

現在どの職にも就いていない為、職業は平民、レベルは零に固定されている。だが、なんのバグかは知らないが、このレベル零の状態でモンスターを狩り続けると、レベル一の状態からレベル二にアップする為の必要経験値が溜まり、システムがそれをレベルアップと勘違いし、レベルアップ時に貰えるボーナス、ステータスポイントという物が得られる。そのステータスポイントとは自分のステータス、パラメーターを追加変動させられるのだ。更に言えば、【セイヴァー・ルージュ】は初心者に優しい設計で初期の職業のレベルが二十になるまでレベルアップ時にステータスポイントが三倍に設定されており、大量のステータスポイントを得られるのだ。

 そして何の冗談か、それが無限に繰り返される。この情報を知っているのは恐らく全プレイヤーの中でも『Marylean』だけなのだ。可笑しな話なのである。

そうして得たポイントをAGIに二分の一程ぶち込み、残りの半分を筋力、体力、最大MP量を増加させ、命中に振ったのだ。『Marylean』が最初にこのバグを見つけた時には「頭がおかしいんじゃねぇの、この運営」と思わず呟いたほどだった。

と、不意に闘技場全体に放送が入った。

『先程の試合にて仮想フィールド展開アイテムが破損した為、闘技場の使用を一時的に禁止に致しますことをご了承ください』

 放送が終わると同時に視界を青いエフェクト、転移エフェクトが発生し、ロビーに転移させられた。

 『Marylean』は開かれた右手を見つめ、強く握る。その行動に何があったのか、それは本人である『Marylean』にしかわからない。だが、何かを決意した顔であったのは相手であった『Kubias』にも分かったことだ。『Kubias』は苦笑いを浮かべ、『Marylean』に話しかける。


「あんた、めっちゃ強えな!」

「えぇ、そうでしょう?」


 『Marylean』はニコリと笑みを浮かべて今度は迷いのない顔で言った。その顔に『Kubias』は虚を突かれ、ポカンとした顔を浮かべた。


「それじゃあね。私、行かなきゃいけないとこがあるから」


 そう言って踵を返す『Marylean』を『Kubias』は慌てて呼び止めた。


「ま、待ってくれ!」


 足を止め、『Marylean』は振り返った。それと同時に『Kubias』はシステムメニューを開き、フレンド申請欄を開く。しばらく操作すると、『Marylean』の視界の中央にフレンド申し込み待ちというシステムメッセージが届いた。


「フレンド……か」

「嫌だったか?」

「いんや、初めてフレンドが出来たからな。何か、いい気分なのかもしれないな」

「そうか。なら、よかったよ」


 それじゃあ、と手を上げ、踵を返し、闘技場から去って行った。この後、運営が怨嗟の雄叫びが東京の一角に響き渡ったとかなんとか。

 そんなことがあったとも知らない『Marylean』はゆっくりと町にある「憲兵ギルド」へと寄り道をしながら歩いて行ったのだった。


 ✝ ✞ ✝ ✞ ✝ ✞


 「憲兵ギルド」の扉を開け、ゆったりとした足取りで受付カウンターに向かう。と、


「おいそこの嬢ちゃん!此処は天下に名高い憲兵ギルドと知ってきてんのか?冷かしに来たのか?……いや、俺等を楽しませに来たんだろ?」


 何を隠そうこの【セイヴァー・ルージュ】、実はR十八指定のゲームである。パッケージを見てもそんな要素は何一つない。だがパッケージの下の方にちっちゃくR十八指定と書かれているのである。だからこそこのゲームでは酒も飲めるし、やろうと思えば性行為だってできるのだ。

 だが『Marylean』はそんな要素を殴り捨て、PVE、PVPという中のジャンルで生きてきたのだ。今現在『Marylean』の前で起こっているチンピラが絡んでくるイベントはゲリライベントと呼ばれ、発生したと同時にイベントに強制的に参加させられるのだ。

 今起こっているゲリライベントはR十八要素をたっぷりと含んだもので、このチンピラたちに連れていかれると、説明できないようなえっちいことをされるのだ。しかもこのイベント、女アバターのプレイヤーに対してはえっちいことをしてくるが、男アバターのプレイヤーには金銭、武器、防具全てを奪われ、あっという間に無一文となってしまうのだ。このイベントに対しての解決法はただ一つ。


「ほら、俺等といい事――グベッ!」


 ぶっとばすことのみ。誤って殺してしまえば町全体に渡る驚異的な好感度低下と、全ての町のシステム的機能が使えなくなる。好感度の説明はまた今度として、全ての町でのシステム的機能が使えなくなるのは不味いと考えた。


「なっ、なにしやがんだてめ――グハッ!」


 『Marylean』はチンピラ共を文字通りぶっ飛ばし、瞬殺して受付カウンターへ向かい、ニッコリと笑顔を作った。


「頼んでいたギルドカード、受け取りに来ました」


 この時に受付嬢の顔が引き攣っていたのは何かの気のせいだと『Marylean』は勝手に解釈をしたのだった。

 この先どうなるのかは神のみぞ知るという事だろう。




そして数日後、『Marylean』の二つ名、否。非公式コードネームとして〈頭のおかしい(アマゾネス)女プレイヤー(バーサーカー)〉という名前で呼ばれていたことを『Marylean』はまだ知らない。

ご視聴、有難う御座いました。<m(__)m>


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2018 6/29 一部スキル説明の変更


その最速を叩き出すこの《神域抜刀》の持つアクティブエクストラスキルだ。因みにアクティブエクストラスキルとはスキル剣技を発動した瞬間に現れるエクストラスキルだ。――このアクティブエクストラスキルはAESと略される――そして《神域抜刀》のAESとは、《抜刀の神髄》、《神域への一歩》。どちらもAGIを飛躍的に上昇させるスキルで、抜刀術の抜刀速度は自キャラのAGI依存なのだ。だがシステム的に発動しているわけではないので勿論そのAESは発動しない。→その最速を叩き出すこの《神域抜刀》の持つパッシブエクストラスキルだ。因みにパッシブエクストラスキルとはスキル剣技を発動した瞬間に現れるエクストラスキルだ。――このパッシブエクストラスキルはPESと略される――そして《神域抜刀》のPESとは、《抜刀の神髄》、《神域への一歩》。どちらもAGIを飛躍的に上昇させるスキルで、抜刀術の抜刀速度は自キャラのAGI依存なのだ。だがシステム的に発動しているわけではないので勿論そのPESは発動しない。

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