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第弐話 レベリングの中断、試合の受諾

ある程度『オーテル・ボア』の狩り効率が上がった。このゲームでは攻撃力が全て武器依存な為、攻撃力が上がったという訳でもない。只レベルがある程度上がり、命中率が引き上げられただけなのだ。実質このゲームでは命中さえ上がれば下手に命中が無い強者よりも強い。だがそれは相手と対等かそれ以上の技術が無ければできない芸当であるからして、理論上は可能であるが、今まで技術レベルが高いプレイヤーが垢を凍結された件は数える程しかないのだ。なので、『Marylean』が今置かれている状況が特殊なのだ。と、脱線していた話を戻すとして、『Marylean』の技術は確実に上がっていた。全盛期と比べても、技術は向上していると言えよう。だが、まだ足りない。彼の、彼女の、『Marylean』の目指す玉座は更に高く、見上げ、霞むほど遠くに見える。辛く険しい道のりとなるだろう。だが『Marylean』は、進み続ける。例え道中に何があろうとも、どんなに強い敵と出会ったとしても、必ず勝利を掴まなければ目指す最強にはまだ、届かない。


「さて、と……あらかたレベルは上げたし、熟練度もかなり上がってるはずなんだけども…ステータスボード」


 ピロリン、と携帯電話にメールが入った時の通知音のような音が鳴り半透明な板が視界中央に現れる。そこには剣技熟練度が表示されていた。

剣技《スラッシュ》熟練度453/1000

 目標としていた熟練度の五百には届かなかったが、これで中盤の敵にもやっとダメージが入るようになる。そして先程レベルが上がった際に習得した剣技が、《デュアル・スラッシュ》。スラッシュ系統に特化しているのか、スラッシュという名がまたもや来てしまった。一体、このゲームのバランスはどうなっているのだろうか?、考えてもあまりわからない、そもそも、プレイヤー達が運営の目的としている事を全くもって興味もないし、知ろうとも思わないのと同じようにゲームバランスの崩壊は運営にとってどうでもいい事なのだろうか?、そう、深く考えてしまう事が最近『Marylean』には多々あるのだ。でもまぁ、と意識を切り替え、剣の耐久度を確認する。剣の耐久は『Marylean』の思っていたよりも減少しており、直ぐにでも鍛冶屋で直したいところでもある。耐久値の記載されているボードを消し、踵を返して始まりの町へ帰還するのだった。


 ✝ ✞ ✝ ✞ ✝ ✞


――セーフティーエリア 始まりの町


 東門から這入る。この地区は商業地区で武器屋や防具屋、そして鍛冶屋、ポーションなどを売る雑貨屋等が並んでいるのだ。その中で昔の馴染みであった店を歩き探す。移転していなければこの地区にあった筈なのだが……。


「やっぱり、移転してなかったな」


 柔らかく笑みを浮かべ、店のドアを開け放つ。ドアの内側にはベルが取り付けられ、ドアが開くと鳴る仕掛けになっている。綺麗なベルの音が店内に響き、店番としていたNPC(ノンプレイヤーキャラクター)が此方を向き、一礼する。流石VRMMO。NPCですら本物の人にしか見えない。


「(最初に見た時はキョドって頭を下げたものだ。)」


 感傷に浸りつつNPCに話しかける。


「すまない。今店主はいるか?」


 『Marylean』の問いにNPCは動きを止め、何かを確認する素振りを見せた。数秒経ち、此方を向いて一礼する。と、メニューが開かれ「マスタールームに招待されました。入室しますか?Y/N」とあり、YESをタップした。全身を包む青い転移エフェクトが発生し、消える。


 ✝ ✞ ✝ ✞ ✝ ✞


 青いエフェクトが消え、視界が戻る。先程までの店内ではなく、執務室の様な場所だ。腰に吊るされていた剣はポリゴンとなって消えた。戦闘地域外だからだろう。そして並べられた近代的なデスクと椅子はこのMMOの世界観とかけ離れており、これでいいのか運営、と苦笑する。椅子に腰かけていた女が顔を上げる。青がかった銀髪に、黄金の双眸。そして特徴的なアホ毛。こんな綺麗なアホ毛を晒す奴はそうそういないだろう。


「あら、押しかけてくるもんだからどんなプレイヤーかと思ったけど……案外可愛いコなのね」


 ニコリと張り付けた笑顔に吐き気を催すが、それを堪え指をさす。ニコニコとした笑顔を浮かべたまま首を傾げる。内心でほくそ笑みながら一つ、と言った。


「未だ独身の二十四歳。二つ、男運の無い可哀そうな娘。三つ、スト〇ングゼロが好きすぎてお金が――」


 と、言い切る前に大声を上げられて言葉を途切れさせた。大声を上げた彼女を見ると先程までの笑顔を張り付けた顔ではなく、驚愕と羞恥に塗れた真っ赤で口を開けた彼女だった。はい、可愛い。


「そ、その煽り方は『Sylvie』なのね……一体どうしたの?新垢なんて作っちゃって」


 赤い顔を手で隠しながらチラチラと此方の事を探る。はい、可愛い。


「いや、垢を消されたからね。新しく作る以外なかったんだよね」


 苦笑して言う。それに対して彼女は『Sylvie』のアバターを見て不審な目を向けた。


「『Sylvie』、何で女なの?」

「あぁ、このアバターの事ね、実は前々から女アバターにしてみたかったんだよね」


 ふーん。と興味なさげに目を逸らす。そして恐る恐る訊く。


「『Sylvie』……えーと、なんて名前にしたの?」

「ああ、俺は『Marylean』って名前にした」

「『Marylean』?……痩せたメアリー?」

「いや、『Marylean』、メアリーリーンって読むんだよ」

「へぇ、何でそういう名前にしたのわからないけど、可愛い名前なんじゃない?」

「いや、お前の方が数倍可愛いよ」


 と、『Marylean』は口を滑らせそう言った。そして気付いた時には時既に遅し。彼女、『Arias Feel』は顔を真っ赤にして俯いた。


「……お前の名前だけがな」


 慌てて補足する『Marylean』の言葉にショックを受けた『Arias Feel』は別の意味でテーブルに突っ伏した。


「ところで……」


 と、言葉を切り、その言葉に反応した『Arias Feel』に両手を突き出して、ニッコリと笑顔を作って、未だ顔を赤くする純情を形にしたような『Arias Feel』に言った。


「君の、『Arias Feel』の作った武器が欲しい」


 その時唖然とした『Arias Feel』の顔は一生忘れないだろう。


 ✝ ✞ ✝ ✞ ✝ ✞


「ありがとね~、また来るよ」

「二度と来んな!この、狂乱戦士(バーサーカー)!!!」


 罵声を背中に貰った『Sylvie』は、腰に付けたもう一本の剣を撫でて――一人のプレイヤーに捕まった。それは数秒前の事だ。


「お前、強そうだな。俺と勝負しないか?」


 そんな言葉に反応して思わず振り向いてしまった。あのまま無視して進むか、嫌悪感を示せばそれでよかった筈だ。だが、女アバターだった事を忘れて振り向いてしまったのだ。


「よし、それじゃあ闘技場に来い!待ってるからな!」


 赤髪の男はそう言ってこの町の闘技場に向けて走って行った。一体あの赤髪の男は誰を待っていたのだろうか。突然の事で『Marylean』は何も言わず立ち尽くしていた。強そうだな?おかしな話だ、と『Marylean』は鼻で笑った。この格好をした俺の何処が強そうなのか、と。だが、赤髪の男は『Marylean』の心に火を火を点けた。初代闘技大会の覇者、『Sylvie』の心を。と、周囲のプレイヤーたちがヒソヒソと話をしているのが目に付いた。でもまぁ、とゆっくりと闘技場へ歩を進めた。


 ✝ ✞ ✝ ✞ ✝ ✞


今目の前でとんでもないことが起きた。


「お前、強そうだな。俺と勝負しないか?」


 今日こそはとあの有名な赤髪のプレイヤー、『Kubias』に試合を申し込もうと闘技場に向かおうと思った時に起こった。殆ど闘技場から出ない『Kubias』を闘技場の外で見かけたのだ。それを見て私は話しかけようとした。だが、『Kubias』とその謎の女プレイヤーがすれ違った瞬間に彼、『Kubias』は振り向き、その女プレイヤーに話しかけた。女プレイヤーはその声に振り返ると好戦的な笑みを『Kubias』に向けた。そしてその表情を確認した『Kubias』は、


「よし、それじゃあ闘技場に来い!待ってるからな!」


 そう残し、闘技場へ真っ先に走って行った。『Kubias』の表情はまるで玩具を見つけた子供のように無邪気だった。私はそれに嫉妬した。だから、彼に話しかけられた彼女を追って闘技場への歩を歩み始めた。


 ✝ ✞ ✝ ✞ ✝ ✞


 闘技場の大きな門を抜け、這入る。初期の頃闘技場があったのは別のセーフティーエリアである第三の町 ヴァイロンのみだったのだ。そして全ての町に闘技場が出来るアップデートが来たが、ずっといたのはセーフティーエリア最終拠点 ニーヴァルだったからだ。そしてしていたことと言えば仲間内とPVPや只管レベリングだけの作業だったからだ。

 故に、此処に来るのは初めて出会った為、楽しいという感情に支配されている。と、目の前に赤髪の男が立っていた。


「よし、来たな!その前に名前を教えてほしいんだが」

「私の名前は『Marylean』。よろしく」

「『Marylean』だな?覚えたぜ。俺の名前は『Kubias』だ。よろしくな、ルーキー」


 そう言って『Marylean』は手を差し出す。赤髪の男、はニッコリと笑顔を浮かべ差し出された手を握った。何かを感じたのか『Kubias』は血相を変え、腕を引っ張る。突然の事で『Marylean』が反応できず、倒れそうになりながら先を急ぐ『Kubias』を追いかける。とは言っても手を繋がれたままなので引っ張られる形になっている。そして受付の前まで行くと『Kubias』は『Marylean』を指さした。


「こいつの登録を頼む」


 突然言われた受付の男は少し困惑しなら宙に現れた板に手を触れてくれと苦笑されながら頼まれ、触れた。流れるようにカードが作られ、受付の上に大きくディスプレイのように表示されている真っ白だった対戦表に『Marylean』という名前と『Kubias』という名前が追加された。それを見ていた彼ら、賭けチケットを売買するプレイヤーは宣伝を始めた。


「さぁさぁ!かの有名な『Kubias』と無名の新人である『Marylean』という女プレイヤーの試合が始まるぞ!さぁさぁ!賭けた賭けた!」


 その声に群がるようにプレイヤーが次々と集まってくる。まるでアリの大群だ。そう思いつつ、強制的に転移のエフェクトが発生し、『Marylean』を会場に転移させた。

 フィールドは森の中だった。この森フィールドの名前は、妖精の森と呼ばれるエリアだ。そしてフィールドの何処かに転移された瞬間、澄んだ空気と実況の声が聞こえる。


『さぁ!始まります!注目の一戦であるこの闘技場一のプレイヤー、『Kubias』!それに対し全くの新人である『Marylean』!一体どんな試合が繰り広げられるのでしょうか!?フィールドの様子はフィールドの中に飛ばされたドローンによってお届けします。では試合開始ィ!』


 宣言された開始の合図にゾクリと体を震え上げさせ闘志を燃やした。


「さぁ、踏み台にさせてもらうよ!」


 そう宣言し、走り出した。


ご視聴、有難う御座いました。<m(__)m>

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