第拾壱話 第二ラウンド、エリア攻略始動
「てめぇのアイテムストレージ内は物置か!?」
何本目か分からない剣で斬り付け、砕けた。即座に刺さっている大剣を抜き、脚で踏ん張り振るった。ようやくと言ったほどで大剣は砕けず、『Marylean』の手元に残った。
このレアリティの武具でやっと耐えれるか……。
視界いっぱいにあった武具の十分の四が地面に埋まるようにアイテムストレージに消え、十分の六が残った。
「結構使い潰しちゃったな」
バックステップで後退していく慎二を見て、槍を掴んだ。腕を引き絞り、投擲の構えになると、
「悪く思うなよ………レプリカ《グングニール》!!!」
引き絞った腕を伸ばし、慎二に飛ばす。腕力で飛ばされたと思えないほど速く、それでいて黄金に光る様は流星を連想させる。レプリカ、とはその技を模して作った自作スキル。実際習得はしていないが他人からそのスキルの発動条件、発動に必要なこと全てを読み取り使用できる『Marylean』の数少ない絶技。
今ならわかる……。このチカラの使いかたを――。
「……ッ!?」
僅か一秒にも満たない時間で慎二に到達したレプリカ《グングニール》は振るわれた慎二の剣に斬り裂かれた。刹那、数十メートル程開いていた距離が一気に数センチに縮まり、直前に拾っていた刀を振り切る。
「スキル《エクスプロージョン》ッ」
慎二が剣に纏わせたスキル《エクスプロージョン》が刀との間で爆発し、お互いに吹き飛ぶ。互いに受け身を取りダメージを最小限に抑えた。遠く、見上げ、慎二を見るとHPがイエローまで回復している。
「スキル《オートヒーリング》発動」
慎二が回復している理由は恐らく人差し指に装備している【リジェネの指輪】というアイテムによるものだろう。【リジェネの指輪】とは装備者を十秒毎百五十HPを回復させる装備品だ。これもレアリティ的には中堅装備と言っていいのだが、そのパッシブスキルが備わっている装備は現状このアイテムしかない為、最前線でも活躍しているのだ。
「よくそんな高価な物持ってんね………」
口内に溜まった血を吐き出し、薄い笑いを作り言う。そう、最前線でも活躍している為にその値段は中堅プレイヤーでも安易に手を出せる額ではないのだ。
「…当たり前だ、俺だって上位プレイヤーに数えられる男だぞ」
剣柄を強く握り、剣先を向ける。強く風が吹き――
「《神域抜刀》」「《劫傲神樂燦然》」
瞬間、『Marylean』の腰に現れた漆塗りの鞘から飛び出した漆黒の刀身が大気に触れ、摩擦を生み出した。漆黒の刀身は紅く光り、大気を斬り裂き進む。目の前の慎二の肉体を裂く為に。
対して、慎二の放った《劫傲神樂燦然》。これはスキル剣技に属する代物だ。故に彼は、慎二は絶剣士を最低でもレベルが九百九十九まで到達しているという事だ。だが、何故このタイミングなのだろうか、そう。それも極剣技を放った時。そのとき《劫傲神樂燦然》を放たなかったのか、そして思い出した。このゲームの他にはないおかしな設定が、更にあることを。
「この瞬間に進化するのは、主人公らしいな!義弟!!!」
《劫傲神樂燦然》、それは複数の斬撃を一刀にまとめて行うスキル剣技の中でも破格な威力を持つ物だ。何せ、一刻に複数の斬撃を重ねるのだから、例えば一撃目を防ぎ切ったところで二撃目が貫くからだ。たった一度の致命傷を防ぐ【絶防のペンダント】というアイテムがあるのだが、それは一度の致命傷のみ。複数の斬撃は受け止めきれないのだ。故に、毎年ぶっ壊れランキング一位を獲得している。故にプレイヤーからは因果律の逆転であるこの絶技は放たれたら最後、死する以外無いと言われている。
そして《劫傲神樂燦然》と《神域抜刀》が錯綜した。紅の熱風と残像を生み出す腕が垣間見え、爆風がコロシアム全体を襲った。
―――
ゆっくりと、意識が浮上する。視線は下に向いており、荒れた地面に自身の脚と振り切った筈の漆黒の刀、【オルティア・ガルガノス】の切っ先が視界の端に映っている。段々と視界と意識がクリアになり、顔を上げた。
「一体、どうなった……?」
慎二のいるであろう方向を見つめる。見つめた先には既に慎二のアバターは残っておらず――上空と『Marylean』の視界中央に文字が刻まれた。だが『Marylean』はそれを視認できない程憔悴しきっていた。そして自身を包む転移のエフェクトによって自分が勝ったという事を知覚し、身体から力が抜けた。
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―――セーフティーエリア コロシアム内
「『Marylean』!?」
転移装置の上で崩れ落ちていく『Marylean』に見えた最後の光景は最愛の人、『Arias Feel』の駆け寄ってくる姿だった。
あぁ……言い忘れてた。
「『Marylean』…ってなげぇから……メリーでいい、ぞ」
そう言い終えると意識を繋ぎ止めていたものが、プツンと途切れた。
「め、メリー……?って、そんな場合じゃないでしょ!?誰か、担架持って来て!早く!」
『Arias Feel』は『Marylean』、メリーの言葉に困惑しながらも担架を求めた。
✝ ✞ ✝ ✞ ✝ ✞
―――セーフティーエリア 骨休め亭
「いやー、面目ない」
食堂のテーブルを一つ占領する女の二人が居た。美しい銀の髪の女は手を後頭部に置き、乱暴に掻く。対して女の対角に座る青みがかった銀髪の娘は頬を膨らませその黄金の双眸で女を睨み付ける。
「貴女、ちゃんと反省してるの?」
「あ、あぁ、してるしてる。今度からはもうあんな無茶しないから、許してくれアリア」
銀髪の女――メリーはそうアリアに謝る。アリアは膨らませていた頬を引っ込めた。
「これからどうするの?」
「どうするの、とは?」
「だから。この町でやることは終わったでしょ?だから次のセーフティーエリアを目指すのか、それとも貴女のスキルレベルとか剣技熟練度を上げるとかしないのか、ってことよ」
そのアリアの問いにメリーは考える素振りを見せた。それはつまり考えていなかったという事だ。それに気が付いたアリアは小さく溜息を吐き、メリーの答えを待つ。
一体これからどうするのか、それはもう既に決めていた。だがそれはあの決闘が無かった時までだ。今は全く違う。それはあの時得たチカラのせいではない。それ以前の自分の戦い方が自分らしくなかったからだ。でも、だからこそ、この戦い方を磨き、以前は行けなかった最強のその先に行けるのではないかと思う。
決めた。これからの行き先を。
「決めたよ」
木製のコップを傾け、中に注がれている美味しくも不味くも無いお茶を飲んでいたアリアはぼそりと呟かれた言葉に反応し、コップを置いた。
「それじゃ、どうするの?」
「これからエリア攻略にチカラを注ごうと思う」
そのメリーらしからぬ答えに自然に笑みを浮かべたアリアは残ったお茶を流し込み、席を立つ。
「行きましょうか」
アリアの浮かべた笑顔に見惚れたことはメリー自身もわかっていなかった。
「……行こうか」
静かに答えたメリーは出て行くアリアの背中を追うように歩く。
あのチカラが何だったのか、俺は知る由もない。だけど、あのチカラは元々自分のチカラだった気がしてならない。
今は無き、溢れるようなチカラを握るように、右手を虚空に翳し、握った。
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これからもこの『元最強』をよろしくお願いいたします。




