Lv.006 第一話⑤
言ってしまえばゲームは娯楽だ。プレイヤーである俺が楽しめないとやってる意味がない。いくら生きた人間のようでも、こんな少女趣味全開のゲームキャラであるプラムに気を遣う必要などどこにもない。
そう、そんな必要はどこにもないはず……なんだが。
「リセットに賛成で俺にリセットを強要するわりに、お前は泣くんだな」
「こ、これは……別に嫌だからとか、そういうわけじゃなくて……」
「だから、わかりやすすぎだぞ、お前……」
俺はボリボリと頭を搔く。あざといよな、全く。
これはたかがゲーム。でも、ゲームだからこそ俺がこのまま続ければ、プラムを普通の女の子に戻すこともできるのだろうか。
「……よし、仕方ない。もう少し付き合ってやるか」
「え……?」
「リアルじゃ世界を変えたり、人の人生を変えるなんて簡単にできやしないけどな。まあ、この世界とお前のことなら、俺にでもどうにかしてやれるかもしれん」
こんなゲームしてるってこともバレなきゃ大丈夫。バレたらロリコン疑惑に発展しそうだけど、オフラインゲームだし平気平気。
「というわけで、プラム。これから――」
「けっ、結婚を前提にお付き合いですかっ!? そんなわたし……まだ心の準備が……」
「そういう意味の付き合うじゃねぇよ! 誰がいつ結婚しようって言った!?」
思い込み激しいな。こいつ……
さっさと話を進めないと大変なことになりそうだ。
「とにかく、これからどうする?」
「リセットはされないのですか?」
「だから、しないって話をしてるんだよ」
「まさか、リセットできるお力を失ってしまわれてるのですね……」
「もう……そういうことでいいよ……」
こいつは察しがいいのか悪いのか。とりあえず空回りしやすい奴だな……
「やっぱり魔王様は封印が解けたばかりで大変なのですね」
「やっぱり大変ってどういうことだよ?」
「魔王様のお力はいくつかのオーブに分かれて封印されてしまっているので、今は全力が出せないのだと思います」
「ああ、さっきそういう話をしてたな。じゃあ、そのオーブを集めてみるか」
メインストーリーを進めるには何かきっかけがある。力が封印されたいくつかのオーブ、なんともわかりやすいきっかけだろうか。それを探し集めれば、たぶんストーリーは展開されていくだろう。
「わたし、協力します。急がないといけませんから……」
「急ぐ? なんで?」
「魔王様を倒す人――『戦女神の英雄』が復活したんです。元々わたしが魔王様を探してここに来た理由も、それを知ったからなんです。魔王様が英雄に倒されてしまう前に、どうにかしたかったのです」
なるほど。魔王がいるならそれを倒す勇者もいるよな。この世界の勇者は〈戦女神の英雄〉と呼ばれてるということか。
……って、ちょっと待て。
「俺、倒される側じゃねぇかよ! それっ!」
「だから、わたしがお守りします! さっきの変身できる力と、他のオーブを手に入れたら英雄だって返り討ちにできますよ!」
「そ、そうか……」
もしかして、ラスボスが英雄なのか? まあ、魔王が主役ならありがちな展開だが。
でも、俺がプラムにお守りされるというよりは、俺がプラムをお守りする側だと思うんだが。
「そうと決まれば洞窟から出て、わたしの家に帰りましょう」
「そうだな、まずはそれからだ」
「それではユーゴ様。改めてよろしくお願いします」
笑顔でお辞儀をするプラム。これでよかったんだろうか……と思う俺もいるが、まあ乗りかかった船ということだ。
「ああ、俺からもよろしく頼む」
アバターにお辞儀のモーションをさせながら、俺もプラムにそう言った。
――ヴァシティガの洞窟という所は、俺が最初にいた部屋の外はただの岩肌むき出しの洞窟だった。なぜあの部屋だけ金属製だったのかはよくわからんが、とりあえずモンスターに襲われることもなく外まで出て来られた。
そこに広がるのは草原。ただ、随分と遠くに街らしき防壁が見える。
「あの防壁に囲まれた街が、このドミリュー王国の王都である『ドミル・サントロウ』です。わたしはあの街に住んでるんですよ」
「あんな遠くから歩いて来たのかよ」
「歩いてじゃないですね。これを使います」
と、プラムが指差した先に立てかけてあったのは、どこからどう見てもただのスノーボード。周囲に雪など積もっていないので、そこに置いてあるのはかなり違和感があった。
「スノーボードか? それ……」
「スノー? いえ、『フライトボード』といいます。ちょっと見ててくださいね」
と、プラムはスノーボード――もとい、フライトボードを足に装着する。そして、何かブツブツとつぶやいたかと思うと、ボードが緑色に光りだした。
「――〈ウイング・ウインド〉!」
プラムがそう叫ぶと、ボードの周りに風が巻き起こってフワリと浮かび上がった。
「おお。空を飛ぶ道具か! 序盤から空を飛べるとか楽でいいな」
「〈ウイング・ウインド〉は道具に使って乗れば飛行できるようになる魔法です。板じゃなくても使えますけど、わたしがうまく飛べるのは、このフライトボードだったんです。戦闘では役に立たない魔法ですけどね」
スノボで飛ぶ魔女、といったところだろうか。なかなかスタイリッシュだな。
ようやく『剣と魔法のファンタジー』の魔法要素を確認。剣要素は未だに迷子だけど。
「でも、どうしましょう。これ、わたしの分しかないんです。二人で乗るには小さすぎますし……」
「もうちょっと高く浮かべるか?」
「え? あ、はい!」
プラムの体はどんどん上空へと上昇していく。すると、俺の体もプラムに寄り添うように浮かび上がった。
「ユーゴ様、体ひとつで空を飛べるのですね。さすがです!」
「たぶんお前が飛んでるからだと思うぞ……。まあ、これで王都までひとっ飛びだな」
「はい! では、いきましょう!」
こうして俺はプラムとともに王都に向かって飛んで行く。
――これがゲームの始まり。プラムとの出会いだった。
俺、ホントにこのまま魔王役なんだろうか。そして、なぜヒロインは変身するのだろうか。普通の剣と魔法とは?
考え出したらキリがなく。不安ばかりが募っていく……
第一話 魔王は子連れ、世は情け?
Clear!
第二話 魔王も歩けば英雄に当たる?
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