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Lv.004 第一話③

 目が回って気絶しそうな俺を無視して、変身して大人になったプラムは自分の体を見下ろして興奮している。


「わたし、オトナになったんですか……すごいです! 早くオトナになりたいって、ずっと思っていたんです。さすが魔王様のお力です!」

「その格好かっこうのどこに魔王要素がどこにあるんだっ! むしろ女児向け要素しかないだろ……」


 これはあれだ。保育園に通ってるめいっ子に見せたらキャッキャと喜びそうだ。無論、いい歳した俺がキャッキャと喜ぶわけにもいかず、ドン引き中。

 漫画とかのネタで女の子が変身するってコメディは時々見かけるが、普通の剣と魔法のファンタジーのメインヒロインを変身させちゃダメだろ。今、パッケージを見直したけど対象年齢高いぞ、このゲーム。どんな層に売ろうとしてるんだよ……

 いや、そもそもここまで剣と魔法の要素も皆無かいむだが。マジでどこに向かってるんだ、これ。


「でも、体が動かせません。首から上は動くんですけど……」

「ああ、忘れてた。操作が俺に移ったんだ」


 変身して戦闘モードに突入すると、パートナーの操作はプレイヤーが行うことになるシステムだ。プラムからしてみれば、自分の意思に反して体が動くことになるんだろう。なんだか申し訳ない気もしてくる。


「わたしの体をユーゴ様が……。どうぞ! この体でよければご自由にお使いください!」

「抵抗感を持たれないことに抵抗感があるわぁ……」


 体を他人に操られるって、いい気分しないだろうに。この子の将来が心配だ。

 と、頭を抱えていると、バスケットボール大の黒い弾がプラムの体をかすめた。


「うわっ、敵がいたのも忘れてた!」


 気付けば動き出してた魔族は空中に舞っている。その手に集まる闇がもう一度黒い弾に変化した。また攻撃が飛んで来る。

 俺がコントローラで回避行動をとると、プラムは側転そくてんして黒い弾を避けた。


「わわっ……わたし、こんなに運動神経よくないです。さすがユーゴ様!」

「応援してくれるのはありがたいんだが、まだ慣れてないんだから喜んでられないぞ」


 最近、ボタン配置を覚えにくくなった気がする。歳のせいだとか思いたくない。


「とにかく、攻撃か。こっちのボタンで――」

「パンチです!」

「こっちだと――」

「キックです!」

「……魔法使えよっ!」

「だから、回復魔法しか使えないんですってば!」


 くそ、コントしてる場合じゃない。なんか武器はないのか。

 チュートリアル画面に『武器装備変更』の項目を探し当て、そこに『短杖ステッキ』の文字を見つけた。


「ベタな装備だけどあるじゃないか! 短杖を装備だ!」


 左手を伸ばすと、グローブの手首部分のベルトについていた星飾りが輝き、そこから杖が飛び出した。

 それは三〇センチほどの長さで、クリスマスツリーのように先端に大きな星がついている杖だった。


「よし、短杖を装備してたら攻撃方法が変わるはず。まずはこのボタンで――」

「殴ります!」

「こっちだと――」

「さらに殴ります!」

「……なんで物理攻撃なんだよ!」

「わかりませんってば!」


 もう一度言う。ここまで剣と魔法の要素は皆無。

 とにかく、飛び道具がないと飛んでる相手には何もできない。そういえば攻撃スキルとかないのだろうか。

 探してみると、スキル一覧表に光るアイコンを見つけた。


「〈短杖〉専用攻撃スキル、〈シューティング・スター〉か。これは使えそうだ。おい、聞いてたか、プラム。今言った技名を叫べ!」

「はい!――〈シューティング・スター〉!」


 プラムが叫ぶと、杖を振りかぶって空中の魔族に向かって投げつけた。先端の星を輝かせながらまっすぐ飛んでいく杖は、まさに流れ(シューティング)(・スター)さながらだ。

 杖が額にゴッと当たると、魔族は目を回して床に墜落した。攻撃を終えた杖はクルクル回りながらプラムの手に戻って来る。


「おし、ナイス! だけど、徹底して物理ダメージを与えたいんだな、お前……」

「わたしがやりたくてそうしてるわけじゃないですよ~……」

「とにかく、今のうちに攻撃するぞ!」


 魔族に駆け寄って攻撃ボタンを連打。プラムは魔族を杖でボカスカ殴り続ける。先端の星が刺さって痛そうだが、そんなのお構いなし。


「なんだか楽しいです。えいっえいっ」

「そ、それはよかったな……」


 笑顔で魔族を殴打おうだし続けるプラム。ひとりで魔王に会いに来るくらいだし、将来こいつは大物になりそうだ。

 さっき姪っ子が喜びそうだとか思ったけど、無抵抗の敵を一方的に鈍器で殴り続ける、こんな光景は見せられないな……


 それから攻撃を続けて魔族の体力ゲージが半分を切った時、魔族は再び翼を広げて飛び上がってしまった。

 そこから今度は野球ボール大の小さな黒い弾やサッカーボール大の中くらいの黒い弾も交えて、さっきより多彩な攻撃が始まった。


「飛んで逃げちゃいましたね。また杖を投げますか?」

「いや、なんか攻撃パターンが変わって速くなってる。下手にさっきの技を使おうとしても返り討ちに遭いそうだ」

「さっきの技を使いまくっちゃダメなんです?」


 下手な鉄砲もなんとやらな提案をするプラムだが、俺は回避行動を続けつつ反論する。


「〈シューティング・スター〉みたいな攻撃スキルには『再装填時間リロード・タイム』って時間があるんだ。一度使うと再装填さいそうてん――つまり、もう一度使えるようになるまで時間がかかるんだよ」

「ここぞって時に使わないと、使いたい時に使えなくなっちゃうんですね」

「そういうこと。〈シューティング・スター〉は再装填に六〇秒かかる。一度使えば次は一分後だ」


 わかりやすく説明するのは苦手だし面倒だが、プラムは理解が早くて助かる。まあ、ゲームの中のキャラなんだから、これくらいは普通なのだろうか。


「それに、さっきの技は杖を投げる時にお前にも隙ができるから、変なタイミングで使うとこっちが攻撃する前に敵の攻撃をくらうからな」

「ええ? あの魔族、さっきからいろんな黒い弾を連発してますけど、いつ攻撃すればいいんですか!」


 プラムの言う通り、魔族は大・中・小の三種類ある黒い弾をひっきりなしに放ってきている。速度は速くないので落ち着いて回避すれば当たらないが、攻撃しなければ勝つこともできない。

 ったく、なんでこんなリーチの短い武器しかないんだ。攻撃魔法も使えないし、空中の魔族を打ち落とすには、やはりさっきの技が必要だ。


「……小さい弾を放つのは構えてから一秒未満。中くらいのは一秒と少しくらいか」

「え……?」

「大きいのは構えから三秒、いや四秒か」

「あのぅ、ユーゴ様? さっきから何をブツブツおっしゃってるんです?」


 困惑顔のプラム。避けながら敵の観察なんかしてたら、さすがに変に思われたか。


「あいつが弾を撃つまでの時間だ。大きくなればなるほど撃つまでに時間がかかってる」

「見ただけで時間がわかるのですか!?」

「大まかなカウントならできる。集まる闇の速度を見れば、次に放たれる弾の大きさがわかるぞ」


 これはゲームなんだし、技を使うまでの時間はブレもなく全く同じタイミングだ。

 スマホに話しかけてストップウォッチを起動することもできるだろうが、そこまでシビアなカウントは必要なさそう。避けるのは比較的簡単なゲームだ。


 このゲームの開発会社はオンラインのアクションRPGも運営している。俺が昔遊んでいたオンラインゲームというのはそれのことだ。同じシリーズ物じゃないと思うが、戦闘システムはよく似ていて戦いやすい。

 その他にもゲームを遊んできた経験だけは豊富な俺は、敵や味方の行動を『無意識に観察する変な癖』が身に付いていた。今日初めて遊ぶこのゲームだって例外じゃない。


「すごい……。さすが魔王様の洞察眼どうさつがんです」

「お前、すっごい誤解してるからな、それ……」


 なんでもかんでも魔王様の力だって思い込んでもらいたくないものだ。こんな特別優秀でもない、ただのカン頼りの芸当なのに……


「とにかく、さっきの技――〈シューティング・スター〉は、まだ一回しか使ってないから不正確だが、杖を振りかぶって投げるのに一秒弱、投げ終わって体勢を戻す硬直時間も同じくらいかかってたと思う」

「合計およそ二秒……。つまり、小さい弾の攻撃の時は当然ダメですし、中くらいの弾の攻撃の時も避けきれないってことですか?」

「そうそう。すごいな、お前。さっきからよく話を理解してくれるな。こっちも助かるよ」


 俺は感心し、深く考えずにそう伝えた。

 子供ってだけでコミュニケーションが面倒だと思い込んでたが、これなら思ったより楽かもしれない。

 すると、プラムは恥ずかしそうに赤面する。


「えへへ、褒められました……」

「…………」


 俺は楽ができるからと思ってただけで、褒めたという自覚はなかったが、なんか喜んでる。

 リアルな人間らしいといえばそうだが……、変身魔法少女の時点で全然リアルじゃない!


「と、ともかく、体を動かすのが俺だが、技を使うにはお前が技名を言わないといけない決まりなんだ。俺が闇の動きを見て大きい弾が発射される時に声をかける。お前はそれに合わせてさっきの技を使ってくれ!」

「はい、わかりました!」


 プラムはキリッとした表情でうなずいた。

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