Lv.001 プロローグ
俺の名はサカキ・ユーゴ。
どこにでもいるような普通の三十五歳の男。息抜きとしてテレビゲームを楽しんでいる独身貴族だ。
今から始めるゲームは今日買ってきたばかりのゲーム。その名は『エンター・クロス・ファンタジー』、通称ExP。なんでも、生きた人間と変わらないくらいリアルな人格を持ったキャラとのコミュニケーションを楽しむ体験型RPGらしい。
なんとも近未来的な謳い文句だが、リアルな人格といっても所詮はAIから生み出されたものだろうから、たかが知れている……と思いつつも買ってしまった。
対応ゲーム機は少し前に発売されたばかりの新型機種。テレビに繋いでいるゲーム機にソフトを入れて起動させる。続けて、ソフトに付属していた専用のヘッドセットを装着。これはキャラと会話するためのマイクだ。そして、最後にコントローラを握る。
音声認識でゲームの中のキャラと会話できるゲームは昔からあるが、最近はそういうゲームは遊んでいない。マイクに向かって話すのだって、随分と昔に遊んでたオンラインゲーム以来で違和感があった。
タイトルから進むと、最初は自分のアバターキャラクリエイトだ。アバターは自分の分身としてゲームの中に登場させるプレイヤーキャラ。そのキャラを介してゲームに中の相手となるキャラとコミュニケーションするのだ。
キャラクリエイト画面はオンラインゲームのように自由度が高そうなメニューが広がっている。プレイヤーが男だからって男キャラでなければならないというわけではないし、子供にもなれる様子。
ただ、このゲームはコミュニケーションを楽しむものなら同性の方がいいのかもしれない。さらに年格好をリアルに近付けるのも面白そうではある――俺はどうしようか。別におっさん主人公なんて、主に海外ゲームだが珍しくもないし抵抗感もない。
……ま、いいか。ボイスチェンジャー機能はあるみたいだけど中身が三十五歳の少年というのもアレだし、適当におっさんキャラを作ってしまおう。
ただ、リアルに近付けすぎると地味さが際立つだろうし、ここはちょっと奇抜志向に。ワイン色の髪にちょっと無精ヒゲを生やして、目の色はさすがにオッドアイはやりすぎか。んじゃ銀色で……そうだ。左頬には魔法使いっぽい紋章の入れ墨なんか付けちゃったりして……ふふ、なかなかいいではないか。
こういうのって『中二ごころ』は忘れちゃいかんと思う。
さて、次は相手となるキャラだが……あれ? こっちは大まかな特徴を項目で選ぶだけ?
そういえば、このゲームって死ぬごとに相手キャラが入れ替わるってシステムなんだったか。コミュニケーションに重きをおくわりに変なルールだが、それだったら細かくキャラクリエイトしたって死んだら消えちゃうんだし、大雑把でも問題ないか。
相手キャラは女だな。男同士で暑苦しい友情の旅もできそうだけど、まずは女でいいだろう。
歳は……あれ? 最大値二十五歳か。男は四十歳まで選べるのに……ゲッ、下はどっちも五歳とかヤバいな。誰が五歳のキャラを選ぶんだよ。俺はガキが苦手だし、あり得ん。
ま、だったら十八歳くらいでいいか。リアルだったら通報案件間違いなしだけど、ゲームだし。大まかな容姿と性格を打ちこんで……これでよし。
名前は本人から教えてもらうのか。その時に自分も自己紹介をすると。本当に、異常なくらいリアル志向だな……
最後は世界観か。これはもう普通の『剣と魔法のファンタジー』でいいや。それが一番単純明快だろうし。
うあ、ギャグファンタジーまであるのか。誰が選ぶんだよ、それ。
……さあ、ゲームの世界に降り立ってゲームの始まりだ。新しいゲームを始める瞬間は、やっぱり楽しいものである。
最初はすぐにパートナーと出会うんだろうが、さてさてどこまで生きた人間に近いんだろうな?
俺は期待に胸を膨らませていた。
――そう。この時はまだ勘違いしていた。
元々異常なゲームが定義する普通のとは、それすなわち異常でしかないということに……。