Lv.011 第二話⑤
「どうしてあなたが〈降魔の力〉を持っているの!」
「〈キセキの力〉だなんて言われてもわかんない! 何のことだかさっぱりだよ!」
「〈キセキの力〉は、この世界すら変える力。異次元からもたらされるといわれる、神をも超える力──」
異次元からもたらされるといわれる……?
ああ、なるほど。〈キセキの力〉というのは俺の力のことか。俺に操作されるってことは、本来この世界には存在しない奇跡の力で、ある意味で異次元の力──たぶんそんな設定なのだろう。
まあ、かなりこの世界のルールを無視した力なんだろうな。ある意味で最強だろうし。俺にとっては開いた口がふさがらない力なんだが……
「その力があれば私も『完全な英雄』になれる……」
フランセがそうつぶやいて、こちらをにらみつけている。あれ……なんか妙な雰囲気。
「その力、私に渡しなさい! あなたみたいな子が持っていていい力ではないわ!」
「なんでそうなるの! 勝手に決めないでよ!」
フランセに剣を向けられても、プラムは怖じけずに反論した。
このゲームに限ったことじゃないけど、変身ヒーロー物に出てくる敵って、変身できないと倒せないって暗黙のルールがあるんだよな。警察や自衛隊が出てきても大抵が無力だし。
現にフランセもサリアも、充分にレベルは高いのに魔族を倒せずにいたし、それを目の前でプラムにあんなにあっさり倒されたら、そりゃあその力を欲しがるよな……
「フランセ様。先ほど彼女は、自分が魔王の下僕だと言っておりました。まさか〈キセキの力〉が魔王の手に渡ってしまったのでは?」
「そうね。それだったらなおさら見過ごせないわ! 何が何としてもその力を渡してもらわないと!」
魔王の下僕だなんて余計なことを言うから、やっぱり話がこじれてきた。
「ただ、あなたが本当に魔王の手先なら、魔族を倒してこの街を守ろうとしたことに違和感があるのだけれど──」
意外とフランセは冷静にそう続けた。
守るって言っても街の人のため、じゃなくて街の研究施設を守るためだけどな。なんかプラムがすごい悪者みたいになってきたぞ……
「とにかく、あなたには聞かせてもらいたいことが山ほどあるわ!」
「ヤダッ! 人に剣を向けておいて聞かせてもらいたいも何もないでしょ!」
子供っぽい即答もするけど正論も言うんだな。思ったよりプラムも冷静だ。
今の俺達がフランセ達の相手をしても得することはないし、ここは当初の予定通り、一時撤退して──
「というわけで、オバサン英雄! わたしが返り討ちにしてあげるわ!」
プラムの奴、全然冷静じゃねぇーっ!
いや、この状態で戦うのは俺なんだが、なんでそんなにやる気満々なんだよ……
「オバ……!? 私とあなた、大して歳は違わないでしょ! トゥインクル・プリュンとか言ったかしら? そんなふざけた名前でふざけた格好してるあなたに、オバサンだなんて言われたくないわよ!」
「ふざけてなんかないもん!」
「はぁ? 鏡でも見てみなさいよ!」
結局フランセも冷静じゃねぇのかよ! なんだ、この言い争い……ああ、面倒くさくなってきた。
「おい、プラム。さっきも言ったが撤退するぞ!」
「え、どうしてですか! この剣があれば英雄にだって負けませんよ! 現にほら、魔族にだって楽勝だったじゃないですか!」
と、プラムが口走った瞬間、両手に持っていた二本の剣はどちらも光りだして、すぐに元の〈短杖〉に戻ってしまった。
「あれ? 戻っちゃいました」
「マズい。〈剣のオーブ〉には使用制限時間があったのか! もう一度使えるようになるには……三〇〇秒!? 五分かよ!」
プラムの言う通り、二刀流なら戦えたかもしれないが、〈短杖〉でフランセとサリアの二人を相手にするのは分が悪すぎる。
「あなた、誰と話しているの……? まさか魔王が近くにっ!?」
フランセとサリアが明らかにこちらを警戒している。ああもう、状況は最悪だ。
「話がどんどんややこしくなってきたから、もう問答無用で俺は逃げる!」
というわけで、俺は強引にプラムの体と一緒に逃げだした。
「あ、ちょっと待ちなさい! 逃がさないわよ!」
「わたしだってまだ話がーっ!」
体は走って逃げてるのに口論を続けようとするプラム。そのあとをフランセとサリアが怖い顔で追いかけて来る。それらをガン無視して俺は逃げ続けた。
すると、前方に細い路地の入り口を発見した。
「よし。あの角を曲がって路地に入った瞬間、変身を解くからな! あとは俺がうまくごまかすからプラムは一言もしゃべるなよ? いいな?」
「でもっ!」
「でもじゃない! わかったな!?」
「うぅ……はい……」
不満一杯のふくれっ面で小さくうなずくプラム。ワガママ言う子供かっ! いや、子供なんだけど……
宣言通り、俺は路地に駆け込むと戦闘状態を解除する。すると、プラムと俺の体は切り離されて元の状態に戻った。
その直後に俺の体にぶつかってくるフランセ。
「きゃっ! えっ……あなた達は!」
「ま、またあんたか。何度、俺とぶつかりたいんだ?」
「あ、何度も何度もごめんなさいっ──ではなく! 今、ふざけた格好の女がここに入って来ませんでしたかっ!?」
赤面して慌てて頭を下げたかと思うと、慌てて頭を上げて俺に尋ねるフランセ。
「ふざけてなん──」
「ああっ! さっきの奇抜な格好の少女か。あいつも俺にぶつかりかけたが、魔法で空飛んでって……ああ、もう見えないなぁ~」
プラムの声にかぶせて俺は大声でそう答えた。
なぜ、ゲームでこんな演技めいたセリフを言わされてるんだろ……俺。
「そう……ですか」
「大丈夫か? 魔族の方は?」
「倒しました。……いえ、倒していただいたと言うべきでしょう。私は英雄と呼ばれていても、何もできませんでした。不甲斐ないです……」
本気で落ち込んでいるフランセ。後ろのサリアも状況を察したのか、神妙な顔でうつむいた。
なんだか可哀想にも感じるが、こればかりはどうしようもできないしな……
「ま、まあ、倒せたんならいいじゃないか。そんな気負いしなくても」
「ありがとうございます。お優しいのですね、ユーゴさん」
「わたしの自慢のお父様ですからっ!」
無理やり手を引っ張って腕を組んでプラムはそう言い切った。ったく、何が何でも煽りたいんだな。
「お二人におケガは?」
「いや、俺は……」
「ご、ごめんなさい。私ったら、幽霊のユーゴさんになんてことを……」
俺が幽霊だということを忘れていた様子のフランセ。俺も忘れかけてたわ、その設定……
「本当に今日は何度もご迷惑ばかりかけてしまいましたね。でも、だからこそわかったのですが、ユーゴさんの体に体温を感じませんでした……」
「え? ああ、まあそれはそうだろうな」
俺はこの世界に生きてるキャラじゃないしな。言ってしまえば、プラムやフランセの前にある体はゲームの中で動かす俺の人形みたいなものだ。当然、彼女達が感じられる体温もないんだろう。
しかし、ここ一番の寂しげな表情で俺を見るフランセ。
「あなたは本当に、幽霊なのですね……」
「は、はい?」
ん? 今の言葉はどういうことだ……?
俺が考えてるのにプラムが割り込んでくる。
「お父様! 早く帰りましょうよ!」
「そうね。お嬢さんもそう言っているので早く家に帰ってあげてください。街のことは私達に任せていただいて構いません。それではお気を付けて!」
フランセとサリアは「失礼します」と頭を下げて去っていった。
フランセが最後に見せた寂しげな表情は何だったのだろうか。少し気になりながらも、俺はプラムとともに二人の背中を見送った。




