Lv.010 第二話④
「何なんだよ、お前はっ! なんでそんな小っ恥ずかしい名前にするんだよ!」
「勝手に決めろって言われたので。わたし的にかわいいと思ったのですが……」
「いや、そうは言ったけどよ……。それに、愛と正義のあとに魔王を続けるなんて、文面的におかしいだろ!」
「おかしくないです! ユーゴ様は愛と正義に満ちあふれていますもの!」
「だったら魔王扱いするなっての!」
ダメだ、魔王一筋のプラムとは会話にならない。
やはりというか、フランセもまた呆然とこっちを見ている。
「トゥインクル・プリュン……? 魔王の名の下にってどういうこと!?」
「わたしは魔王様の忠実なる下僕なのです!」
「おいぃ! 余計なことは言うな! 話がややこしくなる!」
自分から下僕になろうとするなよ。というか、下僕の言葉の意味をちゃんと理解してるのだろうか……
俺とプラムが口論していると、背後から黒い弾が飛んでくる。当たり前だが、魔族はお構いなしに攻撃してくるようだ。
「もういい。とりあえず今はあいつを先に倒すぞ!」
今回の魔族は前回の奴とそっくりだが、飛び上がる様子がない。妙な余裕を感じるが……
「では早速──〈シューティング・スター〉!」
「早速、勝手に技を使うなっ!」
このゲーム、技を使うにはプラムに頼んで技名を言ってもらわないといけないようだが、それってつまり、プラムが勝手に技を使えるということでもあるのか。
プラムの体の操作全般は俺がやってるのに、なんて面倒くさいシステムなんだ。これもコミュニケーションで解決しろということか?
流星のごとく飛んでいった〈短杖〉は、魔族の顔面に当たる前にバリアのような膜に阻まれて跳ね返ってきた。
「えっ!? 今の何……?」
「ダメよ! あの魔族、バリアを張っていて攻撃がほとんど通らないの!」
「ええぇっ! そんなぁ……」
なるほど。フランセとサリアの二人がかりでも魔族のHPをほとんど削れていなかったのは、あのバリアに防がれていたからか。
さっきまでの威勢はどこへやら、困った顔のプラムが小声で俺に尋ねる。
「どうしましょう?」
「打開策はある。さっきバリアに攻撃を当てた時に『耐久ゲージ』が見えた。おそらく、あのゲージをなくせばバリアが壊れるはずだ」
「そんなものまで見えちゃうんですか! さすが魔王様の視力ですね!」
「そういう賞賛は、もういいんだよ。とにかく、まだ大きな問題があるんだ。〈シューティング・スター〉をぶつけてもゲージはほとんど減らなかった上に、自動で回復してやがる」
〈シューティング・スター〉は今のプラムが持つ攻撃手段の中では上位の攻撃力がある。しかし、それでもバリアを壊すには威力が足りていない。
魔族は黒い弾しか撃ってこないので避けるのは簡単だが、これではラチがあかない。
「それだったらいつまで経ってもバリアを壊せないじゃないですか!」
「だから、アレを使うぞ。さっきくれたもうひとつのオーブだ!」
「使い方がわかったんですか!」
「わかってねぇけど〈剣〉って書いてるんだ。それっぽい物が出てくるに決まってる!」
道具欄から〈剣のオーブ〉を選んで使う。すると、画面に使用するための呪文が浮かび上がった。
「これも呪文か──アストロロジカル? 早口言葉かよっ!」
この期に及んで、どこまで面倒くさいゲームなんだ。とにかく、プラムにその呪文を教えた。
プラムは〈剣のオーブ〉を取り出し、声高らかに叫ぶ。
「星宝珠・占動──〈剣〉ッ!」
その声に合わせてオーブが弾けて〈短杖〉が輝きだすと、それは『二本の剣』に姿を変えた。
「ほう、二刀流か! 魔法少女のヒラヒラした服には、すっげぇ似合わないけど……」
「え? カッコいいですよ、これ」
二本の剣をカッコよく構えているプラムが答える。
そういう問題ではないのだが。まあいい、これなら杖よりも攻撃力に期待できる。
俺は黒い弾を回避させつつプラムを魔族に接近させ、バリアを直接斬り刻む。
一回のボタン操作で二回の攻撃ができる二刀流は、合計の威力はかなりの高いようだ。バリアの耐久ゲージもみるみる減っていく。
「何なの、あの子。不思議な剣で魔族と対等に渡り合ってる……」
「騎士団にいましても、あれほど軽やかな二刀流は見たことがありません。彼女は何者……?」
後方で呆然としているフランセとサリアが見えた。
自分達が二人がかりでも苦戦していた相手に、これほど優位に戦われては二人の面目は丸潰れだろう。
「しかし、魔法の戦士とか言っておきながら攻撃魔法らしい魔法は全く使いませんね……」
「ええ、確かに」
なんか後ろで冷静に余計な分析をされてる。
やめてくれ、あんまり冷静にならないでくれ。俺もいろいろとつっこみたいことを最初からずっと我慢してるんだから……
「ユーゴ様、なんで後ろを気にしてらっしゃるのです!? この剣にも〈シューティング・スター〉みたいな技はないのですか?」
「あ。忘れてた。〈ジェマナイ・スラッシャー〉って技があるみたいだぞ」
「ジェ……?」
プラムが聞き取れていない。どうでもいいが、さっきから言いにくい技ばっかりだな、このゲームは。
「ジェマナイ!」
「わかりました。では早速!」
いきなり「〈ジェマナイ・スラッシャー〉!」と叫ぶプラム。すると、力一杯に両手の剣を投げ飛ばす。
「剣を投げるってどんな技だよっ!」
明らかに使い方がおかしいが、高速回転しながら飛んでいった右手の剣はバリアを砕き、左手の剣は魔族の脇腹を薙いだ。そのあと、二本の剣はブーメランのように両手に戻ってくる。いろいろと無茶苦茶な技である。
後先考えない無鉄砲な攻撃は肝を冷やすが、魔族には大ダメージを与えることに成功した。
魔族は地面に膝を突き、同時にこちらにはトドメの必殺技のアイコンが輝く。
「よし、トドメいけるぞ!」
「はい! 了解です」
すると、なぜかプラムはフランセ達に向かってしゃべりだす。
「英雄さん達! これがわたし達の実力です。よく見ておきなさい!」
「わたし……達?」
「プラムッ! 頼むから余計なことは言うなって! いいからさっさと決めちまえ!」
煽るし、余計なことは言うし……勘弁してくれ。
俺の気持ちもつゆ知らず、プラムはようやく技を発動させる。
「これで終わりです──〈ビッグバン・エンド〉!」
剣先で星を描き、実体化した巨大な星をぶつけるトドメの必殺技。今回もまた、ファンシーに魔族を跡形もなく粉砕した。
「…………」
呆然とそれを眺めているフランセとサリア。まあ、そうなるだろう。俺もそうだったし……
ましてや、英雄でも苦戦するほどの魔族を、こうもあっさり倒してしまったのだ。無理もない。
「おい、プラム。終わったらさっさと撤退だ! いろいろ聞かれても面倒くさいだろ?」
「えー。力の違いをもっと見せ付けましょうよー」
「もう充分すぎるんだよ!」
本人は納得いっていなさそうだが、俺は構わずプラムの体を動かそうとする。それと同時にフランセの声が響きわたる。
「待ちなさい! あなた、その力は……まさか『降魔の力』なのっ!?」
「は? キセキの……力?」
その言葉が気になって、俺はプラムの動きを止めた。




