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Lv.009 第二話③

「ユーゴ様、とりあえずこれに触ってみてください」


 渡された無色透明のオーブを手のひらに載せると、オーブは青く輝き始めた。そして、中に文字が浮かび上がった。


「……『つるぎ』か?」


 浮かび上がったのはたった一文字。〈剣〉の文字だった。


「よかった。本物だったみたいですね! それはお父様が持っていた物なんです。代々の家宝だったみたいで、魔王様の力を封印したオーブのひとつだと信じていました」

「これが最初の一個目ってことか。でも、剣ってどういうことだ?」


 普通の剣と魔法のファンタジーのくせに剣要素も魔法要素もとぼしかったこのゲーム。そして、ようやく出てきたのが、この取って付けたような剣要素。

 でもこれオーブじゃん。剣って書いてるだけの玉じゃん!


「わたしに使い方を聞かれましても……」


 困り顔のプラムに俺も困る。まあ、戦闘アイテムのようだし、戦闘中に使ってみればいいか。

 と、思った瞬間、外からけたたましい爆発音が響いた。プラムは「きゃっ!」と驚いてからうろたえる。


「なっ、何でしょう? 近くから聞こえたわけではなさそうですけど」

「……強制イベントの予感……」


 新しい重要アイテムを手に入れると、直後に重要イベントが発生する。セオリーとも呼べる展開だろう。


「え? 何のことです?」

「いや、とりあえず行ってみよう。もしかしたらまた戦闘になるかもしれないから、そのつもりでな?」

「はい! わかりました!」


 俺達が家を飛び出すと、さっき通ってきた街の中心部から煙が上がっていた。


「なーんか、穏やかじゃなさそうだな……。連続で爆発音が響いてるし、何かに襲われてるのか?」

「わたし、まだ全てのオーブのことを調べられてないんです! この街にある研究施設が壊されたら満足に調査も続けられませんし、守りにいきましょう!」


 俺の意見も聞かずに勝手に走りだすプラム。


「おいっ! 街の人のためというか、オーブ研究のためなんだな……」


 動機はどうあれ、まあいいか。俺もプラムのあとを追いかけた。





 ――街の中心部に走るプラムと俺は、避難する住民の「魔族に襲撃されてるっ!」という声を聞いて、大体の状況を察した。薄々感じていたことなので俺やプラムの動揺も少なかった。

 そして、すでに誰の姿もなくなっていた公園を抜けようとした時だった。


「――この先はさっきの商店街か」

「あなた達っ! どうして戻って来たの!?」


 いきなり前方から響いたのはフランセの声。少し離れた先にはサリアの姿も見えた。それと同時に、俺の目には上空をこっちに向かって飛んでくる黒い弾が映り込む。

 どこかにいる魔族が放ったのであろうそれは、フランセのそばに建つ民家に直撃して壁を崩落させる。


「お、おいっ!」


 画面に『救出する』と表示され、対応するボタンを反射的に押してしまった俺の体は勝手に走りだし、フランセを自分の胸に引き寄せて落下してきた壁から救出した。


「お前、英雄が崩れた壁につぶされて死ぬってカッコ悪すぎるだろ。ぼんやりするな!」

「ご、ごめんなさい……」


 俺と顔を合わせずにうつむき、フランセは小さく答えた。なぜだか耳が赤い……?

 って、ヤバい。なんで俺、こいつのこと助けたんだっ!?


「……ユゥゴォ様ァー? なぁにしてるんですぅー……?」

「うっ……」


 背後に黒いオーラを放つプラムがいた。いきなり画面にボタンを押せって出たら押しちゃうだろ!

 フランセは俺を突き放すようにして慌てて離れた。


「本当にご迷惑をおかけしましたっ!」

「あ、いや……迷惑とかじゃないけど……」


 とりあえず、プラムの黒いオーラが消えないのが怖い。


「フランセ様! よくぞご無事で。これはわたくしの失態であります……」

「サリア、気にしなくていいの。ユーゴさんが助けてくれましたから」


 フランセは俺をまっすぐ見ているが、サリアは俺を探すように目を泳がせてから頭を下げる。


「事情は聞きました。今の今まで半信半疑でしたが、思いをあらためました。フランセ様をお救いいただき感謝いたします。お姿を拝見できないのが申し訳ない……」

「いいっていいって――って、声も聞こえないんだっけか。彼女に伝えといてもらえる?」

「はい!」


 フランセは俺の言葉にクスリと笑ってうなずいた。同時にプラムの黒いオーラがさらに濃さを増す。


「……ユーゴ様のことをユーゴさん、だなんて気安く呼んで調子に乗っちゃって……オバサンのくせに……」

「プラム。お前、どうした? さっきから怖いぞ」


 うっかり英雄を助けたのは悪かったけど、ふくれることはないだろうに。


「とにかく、お二人は避難してください。ここは私とサリアで食い止めます」

「わたしだって戦えますっ! 変身すれ――」

「よーし! プラム、お父さんと避難しよっかーっ!」


 「変身すれば」と言いかけたプラムの声をさえぎって、俺はわざとらしく叫んだ。


「え、ユーゴ様! どうして?」

「どうして、じゃないだろ。幽霊の俺だけでも普通じゃないのに、さらに変身なんかしたらさすがに怪しすぎるだろ?」

「それは確かにそうですね……」

「俺の正体が魔王だってバレないようにするなら目立ちたくない。変身すれば、お前だなんてわからないし、隠せるなら隠しておいた方がいい」

「わかりました。これからどこか人気ひとけのない所に行って変身しますね……」

「お二人とも、何を話してるんですか! 早く避難を!」


 というわけで、フランセに言われるがままに俺達は魔族のことは彼女達に任せ、公園の外に駆けだした。


「っていうか、あいつらが戦ってくれるなら俺達が無理に戦う必要もないような?」

「ダメです! 変身して力の違いを見せ付けてやりましょう!」

「さっきからずっと対抗心を燃やしてるな、お前……」

「この路地裏なら誰もいません! さあ、変身しますよ!」


 乗り気じゃない俺を無視して、プラムは周囲の様子をうかがってから〈降魔ごうまのオーブ〉を構えた。

 ああ、またあの恥ずかしい変身シーンを見なくちゃいけないのか……


「ユーゴ様? 大丈夫ですか?」

「ああ……はいはい、始めちゃって大丈夫だよ」

「それでは――トゥインクル・スター・マジカル・オンッ!」


 二度目だから要領をつかんだのか、プラムは軽快なステップを踏みながらクルクル回って、五芒星ごぼうせいの紋章の上でキラキラと変身を終えた。もう細かく実況するのも面倒くさい……

 この、恥ずかしくて見るにえない変身シーンは、リアルの俺には休憩タイムでしかない。とりあえずコーヒーでも飲むか……


「わたし的にステップを取り入れて演出してみましたけど、どうでしたか?」

「いや、むしろなぜ踊ったし」


 コーヒーを一口飲んで俺は即座につっこんだ。

 しかし、そうこうしてる間にも爆発音は鳴りやまない。ここでプラムと漫才してる場合ではなさそうだ。


「ほら、街が破壊し尽くされる前に行くぞ!」

「う~……ユーゴ様が喜ぶステップを研究しないといけませんね……」

「んなこと研究すんなっ!」


 こうして俺はプラムの体を操り、再びフランセとサリアの元へ駆けだした。


 すると、すぐに公園の中心で魔族と対峙たいじするフランセとサリアの姿が目に飛び込んできた。

 しかし、おかしい。フランセ達のレベルは高いのに魔族のHPはほとんど削れていない。明らかに苦戦をいられている様子だ。

 その戦況の中、飛び込んでいくプラムは魔族に宣言する。


「待ちなさいっ! そんな弱っちぃ英雄の代わりにわたしが相手します!」

あおるねぇ……」


 少し驚いた様子でこちらを見る魔族とフランセ達。そんな時、俺とフランセの目が合った気がした。

 あっ……しまった! プラムが変身すると俺の体は半透明になるから消えてるものだと勝手に思い込んでたが、なぜか俺のことが見えるフランセから見えなくなるって保証はどこにもなかった!

 この魔法少女プラムに俺が関わってるなんてバレたら恥ずかしい――じゃなくて、正体を隠す意味がないじゃねぇか。


「あなた……誰なの!?」


 フランセは目を丸くしたまま叫んだ。よかった、やっぱり俺のことは見えてなかったか。


「わたしはプラ――」

「おい! せっかくバレてないのに本名を言ってどうする! ここは『謎の魔法少女』とでも答えとけばいいんだよ」

「味気なくないですか、それ……」


 九歳に味気ないとか言われたら結構傷付くな……


「だ、だったら勝手に自分で変身後の名前を考えろよ!」

「わかりました!」


 すると、プラムは勝手に魔族をビシッと指差して、自信満々に口上こうじょうを述べる。


「悪しき魔族! こんな所にまでやって来て街を壊すなんて許さない!」

「ちょっと、あなた! 魔族相手に何を言ってるの!? そもそもあなた、何者なのよ!」


 困惑して声をあげたのはフランセの方だった。プラムはそんなフランセに不敵な笑みを見せて続ける。


「わたしは――愛と正義と魔王様の名のもとに、この地に流星のごとく舞い降りし魔法の戦士! 『トゥインクル・プリュン』! さあ、かかってきなさい!」

「ブフッ――!」


 ……飲んでたコーヒー、噴き出した……

 トゥインクル・プリュンってなんだよっ!

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