下校中
ある夏の日の夕方。
幸終高校一年の私、聖野丘愛子は、いつものように三人の友達と帰っていた。
「はあー。暑すぎっしょまじでー」
なんて言ってるのは、私の親友の一人、條崎小護美ちゃん。
私達の中で一番明るくて活発な、ロングヘアーが可愛い子だ。服装チェックでロングヘアーは注意されるので、彼女は三つ編みにしている髪留めをいつも下校中に外す。三つ編みの時もかわいいんだけどなあ。
「全く、ゴミったら。あんたはいつもすぐそうやって甘ったれて……。少しはアイを見習いなよ」
小護美ちゃんを睨みながらそう言ったのは、真面目でしっかりとした少しお嬢様育ちの武山輝ちゃん。
少し色黒で、この子は爪も髪もいつもしっかりと整えている。因みに、ゴミっていうのは小護美ちゃんのあだ名だ。元々はあんまり良くない呼び方だったんだけど、とある一件から、なんだかんだあって小護美ちゃんの愛称になったんだ。
「もうっ、アイと一緒にしないでよー。私みたいな凡人はアイみたいに勉強運動部活容姿性格と何もかも完璧な女じゃないんだから」
輝ちゃんは少し厳しいところがあって、小護美ちゃんが宿題を忘れても基本的に自分のを見せてあげたりはしない。でも、本当は誰にでも優しくて、それにとっても友達思い。クラスでも、小護美ちゃんと輝ちゃんは良いコンビとして知られてるみたい。
ところで、何故だか私の名前が出たから、私は慌ててしまった。
「いやいや、そんな事無いってば。私だって暑いよ。ほら」
といって私は制服を少しはだけて見せた。
そうやっている私の横では、背が高くて眼鏡を掛けた木下礼子ちゃんが余所見をしながらてくてくと歩いていた。礼子ちゃんは私を一瞥して、フンと鼻を鳴らす。
「何? そんなにパタパタして、偶然出会った男にアピールでもする気なん?」
「そ、そういうのじゃないよ……」
礼子ちゃんは最近、好きだった男の子に勇気を出して告白したんだけど、残念ながら振られてしまった。あまり校内では知られていなかったんだけど、実はその男の子には恋人がいた。勿論私も知らなかったんだけど、その告白から数日経った今日まで礼子ちゃんはかなり不機嫌だ。でも、礼子ちゃんはいつもは堂々とした子で、部活のバレーでは大活躍している。それに、彼女のいざという時の集中力は凄くて、行事の時にはとっても頼りになるの。
取り留めの無い話をしていると、分かれ道に着いた。三つある内の右が私の家で、真ん中が礼子ちゃんの家、左が小護美ちゃんの家と輝ちゃんの家がある方向だ。
「じゃあ、今日はこれで。明日またね」
そう言ったのは礼子ちゃんだった。
「そうだね」
「うん、じゃあね」
「おう、バイバーイ。また明日」
私達が返事をして手を振ろうとすると、礼子ちゃんはやっぱりちょっと待ってと言って頭を下げた。
「?」
私達がびっくりしていると、礼子ちゃんは申し訳なさそうにこう言った。
「なんだか八つ当たりしてごめんね、皆」
礼子ちゃんは恐る恐るこっちを見る。
なんだ、そんな事気にしなくて良いのに。
私は笑って言った。
「全然大丈夫だよ。そんなのお互い様だし」
小護美ちゃんと輝ちゃんも呆れたように言う。
「そんな事気にしてレイらしくないじゃん!」
「そうよ、今回は仕方ないわよ。早く元気になってね」
それを聞いて、礼子ちゃんはちょっと嬉しそうに口元を抑えた。
「そうだね、皆、ありがとう。また、明日ね」
「うん!」
私達は互いに手を振りながら分かれて、それぞれの家路に就いた。
やっぱり皆良い子だな。私は毎日学校が楽しい。そりゃ偶には嫌なこともあるけど、今みたいに互いに思いやりの気持ちを持っているから、こうやって笑顔で分かれて、また次の日に笑って会える。
クラスの他の人達だってそう。皆個性豊かで素敵な人達だらけだ。それに、小護美ちゃんはああ言ったけど、私は勿論完璧な人間じゃない。私にも料理が苦手だったり字が下手だったり、他にも色々苦手な事がある。皆得意な事があって、苦手な事もある。だからこそ人は助け合って生きてるんだと思う。
本当に私は幸せだなあ。さあ、明日に備えて課題を早く進めようっと。
『本当にそう思ってんのかい?』
誰!? 急に上の方から声がする。
本当に吃驚して見上げると、そこには、犬とも猫とも言えない、デフォルメされたアニメーションのキャラクターのような小動物がいた。
「あ、え……?」
声が出ない私を見下ろして、その生物は意地悪そうにニヤリ笑った。
「よう、はじめまして。俺は天界からやって来た、上等下等天楽神聖砂羅巳だ。これから宜しく頼むぜ」
これが、後に私の身の回りの人をも巻き込んだ、私とサラミちゃんの、
これが、俺が天界に対して仕掛け、俺と愛子、それに俺のかつての同胞達の運命を変えた、
おぞましい戦いの始まりだった。




