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さらば、正しき友よ

 俺は、強い。

 その力で、全てを破壊し尽くし、闇で覆い尽くした。

 巨大な龍王も、勇猛果敢な竜騎士も、この俺の前では無力だ。

 無駄だ。無意味さ。無価値なんだよ、てめえらの足掻きなんざなあ。

 俺が叫べば、英知の炎も光の結界も一瞬で消える。どんな希望も絶望に変わる。

 もうこの世界なんて飽き飽きだ。どこか楽しい所へ行こう。賑やかで残酷な、どこか別の世界へ。

 戻ってこい、なぜ闇に身を委ねたのかと問うかつての同胞。下らない質問だし、そんな事はとっくに忘れちまった。

 そうだ。邪間界じゃまかいへ行こう。あそこは全次界ぜんじかいの中でも最も優しく見え、そして最も穢れた世界だ。秩序の皮を被った混沌。素晴らしい。

 俺は翼を広げるように腕を振り上げる。今の俺に翼は無い。だが、代わりに立派で醜い鉤爪ならある。深紅に輝く鋭い牙も、腐った心もある。十分だ。

 俺をまだ同胞と呼ぶあいつ。あいつの心はきっと澄んでいる。これから行く邪間界に、俺と同じくらい腐った心を持つ人間共の住む邪間界に、絶対にあいつの居場所は無い。

 あばよ。世話になった礼に、あいつにはとびきり素敵な死を贈ろう。どんなポエムよりも美しく無残なデスだ。喜んで受け取ってくれ。俺とあいつの永遠の別れを祝い呪うこれ以上ない素敵な死だ。

 俺が目指すは最悪の結末。最低にハッピーで最高にバッドな結末。俺の咆哮を浴びあいつは泣き叫んでいる。優しく気高きあいつには似合わないその最期。俺は迷わない。邪間界を目指し、真っ直ぐに突き進む。

 親がくれた名。その名はサラミ。かつてこの世界を救った上等下等じょうとうかとう天楽神聖てんらくじんせい砂羅巳さらみとは俺のことだ。だが、もう関係ない。いや、むしろ関係あるな。これからはこの名を闇に轟かせる。正義の英雄は悪の破壊者へ。傑作だろう。

 全てを蹴散らし、門を蹴破り、くうを蹴飛ばし進む。もう邪間界はすぐそこだ。狙うは人間。それも、善と正義と慈愛と絆と愛と謙虚と幸福と勇気と強さで心の醜さを隠しているような人間だ。何もかもぶち壊してやる。絶望が今まさに始まる。

 遂に着いた。ここが人間共の住む邪間界だ。見てやがれ。俺の元同胞共。期は熟した。もう終わりだ。結局この世は、この全ては穢れだらけ。証明してやる。俺の正しさを、真理を、全部無意味だってことを。そうだろう。

 邪間界の地に降り立つ。ここは日本。とある都道府県のとある市区町村のとある空き家。大空は澄み切っている。青い。だが、それすらもこれから俺が起こす不幸を暗示する皮肉のようだ。本当に滑稽だ。

 人間共が道を行き交う。楽しそうなのも、悲しそうなのも、幸せそうなのも、不幸そうなのも、何も考えてそうに無いものも、様々だ。姿形もみんな違う。自動車や自転車も走っている。

 俺はターゲットを探す為に地面の下へ溶け込んだ。全て見回せる。昔は空高くから地上を見下ろしたもんだ。全てを見下すようになった今、逆に地下から見上げる。

 なあ、笑えないか、相棒。いや、聞こえる訳が無いよな。何故なら先ほど俺がお前を滅ぼしたばかりだからな。俺がこんな事考えちまうなんて、笑える。

 ターゲットはまだまだ定まりそうもない。こいつは駄目だ。見るからに偽善者だ。自分でもそれを自覚してやがる。どいつもこいつも駄目。

 まあ、そう簡単には見つからないか。俺の計画の為にはちゃんと条件に合った人間が必要だ。のんびりと気長に待つとしよう。

 おや、こいつは良いんじゃないのか。まさかこんな奴がいたとは。俺は思わず笑みをこぼしてしまった。

 まずは様子を見よう。全てはそれからだ。だが、こいつは良い結果を期待できそうだ。

 この力で、再び全てを破壊し尽くし、闇で覆い尽くしてやる。

 できるかだって? ああ、できるとも。何故なら、

 俺は強いから。そして、悪い。

 

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