最終戦と・・・
午後の試合も順調に消化し、紗良が出場する最終戦が行われようとしていた。
「紗良、頑張りなさい。」
「紗良お姉ちゃん、パパ達と観客席で応援してるね。」
最終戦ということもあり、控え室には皇三姉弟と紗良の対戦相手が居るだけだった。しかし、その対戦相手も控え室を出ていき、残るは三姉弟だけである。
「うん。遥香お姉ちゃんと優真も残ったんだから私も頑張る。」
そう意気込んでみせた。
「但し、油断は禁物ですよ。」
「そうだよ、紗良お姉ちゃん。」
「わかってる。じゃぁ、行ってくるね。」
そう言うと紗良は控え室を出ていった。
「それじゃあ、私達もパパ達と合流しましょうか。」
「うん。」
続いて、遥香、優真も控え室を出て久遠達が待つ観客席へと向かった。
場所は変わり、闘技場・・・。
本日の最終戦ということもあり異様な熱気に包まれていた。
「やっと紗良の出番だな。」
「そうですね。今までの試合は見応えがありませんでしたから。」
華音のセリフから察するように、久遠達には試合が退屈で仕方なかった。
久遠達以外の人に言わせれば「熱戦だっただろ」とか言うだろうが、この家族には無意味な言葉である。
『それでは本日の最終戦を開始したいと思います。それでは、選手の入場です。』
実況のアナウンスと共に割れんばかりの歓声があがった。
そして、紗良と相手選手が闘技場に入ってきた。
二人が舞台に上がり、お互い開始位置に着くと実況が開始の合図を出した。
『それでは、最終戦始めてください!!』
開始の合図が出たか、紗良はすぐには動かなかった。いつもなら我先にと行動を始めるのだが、今回はいつもと違った。
(あの人から何か嫌な感じがする。それに、あの黒いモヤは何?)
紗良が動かなかった理由は、相手から見える黒いモヤであった。
一方、久遠達は観客席から見守っていた。
「あなた、紗良の相手から黒い「わかってる。」・・・紗良は大丈夫でしょうか?」
華音の言葉を遮り久遠が言った後、華音は娘の心配をした。
「大丈夫だろ。感じからして下っ端の下っ端みたいだしな。」
「そうですね、カノン様の心配も分かりますが大丈夫だと思いますよ。」
久遠に続き、カルディナが答えた。
「我を従えているのだ。あのぐらいはどうにでも出来るはずだ。」
答えたのはサリアである。
「まぁ、亜里沙や楠葉も気づいているだろうから何かあれば動くだろう。それまでは静観しよう。」
と久遠は華音に言った。
「そうですね。これから何が起こるかわかりませんから。いい練習ですね。」
結果、久遠一家は静観することになった。
場所を戻し、闘技場中央の舞台。
(パパ達も気付いてる?でも、何もしない。自分で対処するしかないかな?もしもの時は助けてくれるはずだから。)
紗良は、親である久遠達の意図を感じ集中することにした。
そして行動に移した。
「クオン・スメラギが次女、サラ・スメラギ。参ります!!」
名乗りをあげ紗良は相手に向かって走り出した。
試合は、お互いの体力の削り合いで未だに決着がつかないでいた。
そんな時、初めて相手が口を開いた。
「聞け、人間共!!俺様は、魔王軍四天王が一人、ヴェスパ様の腹心ベイク様だ!!」
そう名乗りをあげた男の姿が変化していく。
頭には角、背中には羽が生えていた。典型的な魔族の姿になった。
「今から十分後、この街に五千の軍勢が攻めこんでくる。お前達の命運もここで終わりだ!」
ベイクの言葉に叫ぶ観客。だが、観客の悲鳴も次の言葉で止まる。
「静かにして!!」
叫んだのは紗良であった。
「十分あれば充分だよ。貴方を倒してすぐに向かえばどうにでもなる。」
「貴様のようなガキには無理だ。」
「じゃぁ、無理かどうか試してみる?」
「いいだろう。来い、ガキ!!」
ベイクのこの言葉が命取りになることはベイクは知らない。
「一瞬で終わらせるね。塵も残さないよ!奥義!浄破○焼闇!闇の炎に抱かれて消えちゃぇぇぇぇぇ!!」
テ○ルズのリ○ンの奥義を放った紗良。
「なっ!ぎゃぁぁぁぁぁぁ!」
対するベイクは何もすることが出来ず、塵に返った。
紗良がベイクを倒すのにかかった時間は二分程。会話での時間が主なのだが・・・。そこへ亜里沙からアナウンスが流れた。
『皆さん、どうか落ち着いてください。今から私達が魔族の軍勢を倒しに行きます。ですから、無闇に避難などしず、慌てずに解散してください。』
紗良が魔族のベイクを倒したことにより落ち着きを取り戻していた観客は、亜里沙の言葉でさらに落ち着いた。
ただ、久遠と華音は亜里沙の言葉に疑問を抱いていた。
「なぁ、華音。今の亜里沙の言葉をどうとる?」
「そのままの意味なら楠葉達が戦うと言う意味でしょうが・・・。確実に私達も入っているでしょうね。」
そんな時、紗良が久遠達の元へと戻ってきた。
「パパ、ママ。もちろん行くよね?」
戦いに行く気満々の紗良である。ちなみに、遥香、優真もどうやらその気である。
そんな子供達を見た久遠はため息をつきながら答えた。
「仕方ない。全員で行くとするか。平穏な生活のためにな。」
「「「うん!!」」」
こうして、久遠一家の参戦が決まった。




