ダンジョンに向かって
亜里沙とダンジョン調査の話をしてから初めての休日。
久遠達は亜里沙が迎えに来るのを家で朝食を食べながら待っていた。
「パパ、ダンジョンってどんな所なの?」
「さぁな?パパもよくわかんないんだよ。」
紗良が久遠にダンジョンの事を尋ねるが久遠はわからないと答えた。そもそも久遠もダンジョンの事をよく知らない。
日本に居たときに読んだ小説に出てくるダンジョンなのか、それとも全く違うものなのか。華音も同様に知らない。一番知っていそうなカルディナですら知らないのである。
亜里沙と楠葉は知っているようだが聞こうとも思っていなかった。
「パパでも知らないことがあるんだね。」
久遠が知らないと言ったことに優真は珍しいと思った。
「流石にパパでも知らないことはありますよ。ママだって知らないのですから。」
と優真の言葉を聞き華音が言う。
「何でも知っているのは偉い神様ぐらいだろうな。人間なんて生きている間は日々勉強なんだから。」
と久遠が言うとあからさまに嫌な顔をする紗良。その表情を見た遥香は溜め息をつきながら言う。
「紗良、学園でもしっかり勉強しましょうね?特に座学を。」
「・・・、頑張る。」
そんな子供達の話す光景を見ながら久遠と華音は微笑んだ。
そんな話をしていたら店の扉が開いた。入ってきたのは楠葉だった。
「おはようございます、皆さん。」
楠葉は挨拶をすると久遠達が座る近くまで来た。
「おはよう、楠葉。亜里沙が来ると思っていたが楠葉が来たんだな。」
「おはようございます、楠葉さん。亜里沙さんが来ないのは今回の件で事務仕事があるからですね。」
と亜里沙が来ない理由を華音が言った。楠葉も頷きながら答えた。
「はい、ダンジョンが急に現れたのでそのための仕事をしています。本当は一緒に行きたかったようですが・・・。」
「仕方ないさ。そんな地位に居るんだから。」
「お迎えも来ましたし行きましょうか?遥香、紗良、優真。準備は出来ていますか?」
華音が子供達に尋ねると元気な返事が返ってきた。
「「「はい!!」」」
子供達の元気な返事を聞いた楠葉は久遠に尋ねる。
「本当にご子息を連れていかれるんですね?」
「あぁ、何事も経験だからな。」
「わかりました。私達の戦力は私を含め騎士が五人です。ですので十一人のパーティーになります。」
と楠葉がパーティーと言うが久遠は途中で遮る。
「カルディナは行かないぞ?」
「何故ですか?」
「過剰戦力だからだ。俺や華音ご居る時点で明らかに過剰戦力なんだからカルディナには別の仕事を頼んである。」
「それと楠葉さん。私達は家族で行動させていただきます。楠葉さんを信用しないわけではないのですがよく思わない騎士も居るかも知れませんから。それに、楠葉さんとは連携が上手くいったとしても他の方達と上手くいくとは限りませんから。」
と久遠と華音は楠葉に条件を提示した。久遠と華音の条件に楠葉は溜め息をつきながら答えた。
「お二人は相変わらずですね。わかりました、他の者には言って聞かせます。ですが、基本進む道は同じにしていただきたい。」
「それで構わない。楠葉達の後ろから付いていくさ。」
「では、出発しましょう。」
楠葉が言うと扉を出ていき騎士達に話をした。
「さて、俺達も行くぞ?」
「「「「はい!!」」」」
久遠を残し全員が店を出て楠葉が待つ場所へ向かった。
「カルディナ、後は頼んだ。」
「お任せください、クオン様。皆さんが居ない間、色々と調べておきます。」
「頼んだ。」
「はい、お気を付けて。」
カルディナの言葉を聞き久遠は改めて店を出た。
「さて、クオン様に頼まれた事を終わらせましょうか。」
そう言い残すとカルディナの姿は消えたのだった。
久遠が楠葉達と合流しダンジョンに向かう最中、やはりと言っていいほど騎士に絡まれた。
「ダンジョン調査に子供連れとはいい気なもんだな。」
「隊長が許可したとはいえダンジョン調査を舐めていないか?」
など久遠達に聞こえるように言ってきた。だが、久遠達はそんな言葉を無視した。
そしてダンジョンの場所に着くと騎士達が遂に楠葉に進言した。
「隊長、このような者達をダンジョン調査に連れていくのは無駄です。」
「そうです、無駄死にするだけです。」
騎士達の言葉を聞き、楠葉は溜め息をついた。
「お前達はこの人達の力が分からないようだな?」
「冒険者の実力など知れています。私達、騎士の足手纏いです。」
自分達より下だと決めつける騎士達。そんなやり取りを聞いていた久遠達は苦笑いするだけだった。そんな時、珍しく優真が怒鳴った。
「パパとママの実力がない?貴方達こそ舐めていませんか?相手の実力も測れないのは貴方達の方だ。」
優真は両親である久遠と華音をバカにされムカついたのである。そのため、優真にしては珍しく怒鳴ったのである。
「ガキが粋がるなよ?」
「舐めているのか?」
と凄みながら優真に近づこうとしたが楠葉が止めにはいる。
「よさないか、相手は子供だぞ?」
「楠葉さんも僕達の事舐めてますよね?」
「なっ、何を言っているんだ?」
「あんなことを言われ続けて限界にきているのでいい加減にしてください。」
とはっきり言った優真。久遠と華音は優真がキレたことに驚きつつも優真の言っていることが間違っていないとも思った。ただ、感情的になりすぎだともおもった。
「実力を示せばいいなら模擬戦でもしましょうか?」
と優真が提案した。その提案に待ってましたとばかりに騎士達が言う。
「いいだろう。その提案を受け入れてやる。」
「一対一では面倒なのでそちらは楠葉さんを抜いた四人と僕一人でやりましょう。」
と優真は提案した。それを聞いた騎士達は舐めれていることに気付き叫び始めた。
「騎士である俺達四人に子供お前一人だと?舐めてくれるじゃないか。後悔させてやる!」
今にも襲いかかりそうな騎士を無視して優真は楠葉に審判を頼んだ。
「楠葉さん、審判をお願いします。ルールは何でもありで勝敗は気絶もしくは降参でいいですから。」
「わ、わかった。お前達もいいな。」
と楠葉が騎士達に言うと騎士達も頷いた。
「パパ、ママ。勝手に決めてしまってごめんなさい。どうしても許せなかったから。」
「優真が言ってくれたからパパもママもスッキリしたぞ?」
「そうですよ、優真。ですが、手加減はしてあげなさい。そして、やるからには徹底的に心を折りなさい。」
「はい!」
優真は改めて騎士達を見た。ニヤニヤと笑って余裕の表情をしていた。だが、その表情もすぐになくなることを知っているのは久遠達だけだった。
そして、模擬戦が始まった。




