楠葉との再会
娘と息子に客が来たと言われた華音は、店の前に姿を現した。
「お久し振りです、華音殿。」
華音の姿を見た楠葉は、久々の再会に嬉しさを覚えながら挨拶をした。
「あら、本当にお久し振りですね。お元気そうで何よりです、楠葉さん。」
と、結婚してからの口調で喋る華音。しかし、華音の喋り方が前と違うため楠葉は狼狽えた。
「か、華音殿、私は何かいけないことをしただろうか?」
「??」
首を傾げながら楠葉を見つめる華音。そこに後ろから声がかかる。
「華音、喋り方だ。旅をした頃と喋り方が違うから楠葉が戸惑ってるんだよ。」
店の奥から現れたのは久遠である。その両腕には愛しの娘と息子を抱っこしながら。子供達は、久遠を厨房まで呼びに行っていたのである。その際に抱っこをせがまれ今に至る。
「久し振りだな、楠葉。元気そうで良かったよ。」
数年振りの再会に笑顔で迎える久遠。その笑顔を見た楠葉は目から涙を流していた。
「お、お久し振りです、主殿。」
挨拶をすると腕で涙を拭い、いつもの状態に戻ろうとした。だが、久遠の顔を見た楠葉は緊張の糸が切れたようで涙を流し続けた。
そんな楠葉を見た華音は、子供達を久遠から抱き上げる。
「二人とも、ママの方にいらっしゃい?」
「「はぁぁい。」」
華音に子供を渡した久遠は楠葉に歩みよりそっと抱き締め言った。
「帝国からここまで遠かっただろ?よく一人で頑張ったな。お疲れ様。今はゆっくり休めばいい。話は後で聞いてやるから。」
と、声をかけた。その後、楠葉は泣き疲れたのか久遠の腕の中で眠りについた。
「華音、楠葉をベッドに寝かせてくる。その後、仕込みを再開するよ。」
「はい、わかりました。子供達と外で遊んでいますから。」
そういい残すと、華音は子供達と外へと出ていった。
久遠は、楠葉をベッドに寝かせ、仕込みを再開した。
そして、一日の営業が終わりを迎える頃、楠葉は目を覚ました。
「こ、ここは?私は、主殿に会いに来てその後・・・。」
「お姉ちゃん、目が覚めたんだね?パパとママなら下のお店にいるよ?」
と、ベッドの脇にいる女の子が楠葉に話しかけた。
「パパ?ママ?」
「うん!パパとママ。一緒に行く?」
と、女の子が手を楠葉に出してきた。楠葉は、その手を握りベッドから起きた。
「一緒に行こうね、お姉ちゃん。」
と、屈託のない笑顔を見せた。
(な、なんだ、この可愛い子供は?私にはこの笑顔が眩しすぎるぞ?というかこの女の子の言うパパとママは誰なんだ?どことなく主殿と華音殿に似ているが・・・。)
と、考えていると女の子から声がかかる。
「お姉ちゃん、早くいこうよ。お店ももうすぐ終わりだからご飯食べに行こ?」
「ちょ、ちょっと待ってくれ。今起きたばかりだからゆっくりさせてくれ。」
「あっ、ごめんね。」
と、謝る女の子。そんな姿も可愛らしく楠葉は打ちのめされたのは言うまでもない。
女の子に手を引かれながら楠葉は一階にある店へと顔を出した。
そこには、一日の営業を終えた久遠、華音、カルディナと男の子が座っていた。
「あら、目が覚めましたか?余程、疲れていたのでしょうね?」
「お久し振りですね、楠葉様。」
「娘が迷惑をかけなかったか?」
と、久遠は楠葉の手を引っ張っているのを見て言う。
「パパ、私は迷惑なんてかけないもん!」
「本当にそうなのかしら?」
「ママまでひどいよぉ。」
笑いながら言う久遠と華音。女の子も顔を膨らませてはいるが笑っていた。
「主殿、まさかこの子供は?」
「うん?あぁ、まだ紹介してなかったな。楠葉と手を繋いでいるのが娘の紗良で、華音の膝の上に座っているのが息子の優真だ。」
「二人とも、お姉さんに自己紹介をしなさい。」
と、華音が二人に促す。
「はい、皇 紗良といいます。三歳です。よろしくお願いします。」
「僕は、皇 優真です。同じく三歳です。よろしくお願いします。」
紗良は、楠葉の手を離し挨拶をした。優真も華音の膝から降りて楠葉の前まで行き挨拶をした。
「私は、楠葉だ。二人ともよろしく頼む。」
いつもの口調で楠葉も自己紹介をした。
「取り敢えず、お腹空いたでしょ?まずは、ご飯を食べてから話をしましょう。」
と、華音が言うと久遠と紗良、優真の三人は厨房へと行った。
「この世界で和食が食べられるなんて・・・。」
「パパの料理は世界一なんだから!」
「パパの料理は世界一です。」
楠葉の言葉に紗良と優真が言う。
と、和やかに夕食が進み、いつしかテーブルの上にあった料理は全部なくなる。
食べ終わった後、座談会が始まった。
「あなた、二人を寝かしてきますね。」
華音の言葉で紗良と優真を見ると眠たそうに目を擦っていた。
「頼んだ。紗良、優真おやすみ。」
「「パパ、おやすみなさい。」」
華音に連れられて寝室に向かう紗良と優真。そんな微笑ましい光景を見ながら楠葉は改めて真剣な表情をした。
「さて、子供達には聞かせたくないようなことがあったんだろ?」
と、久遠は楠葉を見た。
「はい。」
「何があったんですか?」
カルディナが尋ねると楠葉は重い口を開いた。
「帝国が・・・攻め込まれました。」
楠葉は一言だけ言った。




