半年後
帝国の首都を旅立ってから久遠達三人は、様々な土地を渡り歩いた。
獣人達の住む国や魔王が居ない魔族の国。商業都市など様々な国に行き、人々と交流した。
今現在、久遠と華音は容姿を戻している。黒目黒髪である。そのため、魔族の国では多少の揉め事はあったが和解することができた。
久遠達が帝国の首都を旅立ってから半年後のこと。久遠達は獣人の国に居た。
獣人の国では、偶々国主催の武術大会が開催されており、どんな因果か久遠と華音は出場することになった。
「なぁ、何で大会に出ないといけないんだ?」
「それは、あなたが獣王の娘さんを助けたからですよ。」
「それも原因の一つでしょうがまだありますよ?」
と、カルディナは更なる原因を言う。
「お二人のギルドランクがAランクだからではないですか?」
カルディナの言葉で納得したようで頷く久遠と華音。
そう、二人は旅をしながらギルドで依頼を受けていたのだが、気づけばAランクまで上り詰めていた。
「お父様、お母様。まさか適当なところで負けようとか考えていませんよね?」
カルディナから目を反らす久遠と華音。そんな二人を見て溜め息をつきながら苦笑するカルディナ。
『まもなく武術大会を開催いたします。選手の方は控え室にお集まりください。』
闘技場にアナウンスが響き渡る。
「行きましょうか、あなた?」
「そうだな。じゃぁ、行ってくる。」
「はい、優勝を期待しております。」
久遠と華音は、控え室に向かった。カルディナは、観客席には向かわず闘技場を後にする。
「さて、買い出しに行きましょうか。」
カルディナは、旅に必要な物を買いに街へと繰り出した。
一方、久遠と華音はお互いの対戦相手と二人がいつ戦うことになるのかを確認していた。
「私達が対戦するには決勝のようですね?」
「みたいだな。優勝を狙うか、華音?」
「そうですね、あなたと戦いたいので決勝までは行くつもりでいますよ?」
「そうか、なら俺も決勝まで勝ち上がるかな。」
と、話していると後ろから声をかけられる。
「お前達みたいな貧弱そうな奴が決勝まで行けるわけないだろ?」
「で、華音。試合まで時間があるがどうする?」
「そうですね、他の方々の試合を見るのもいいのですが、あまり面白いとは思いませんし。」
「なら闘技場でも散策するか?」
「そうですね、行きましょう。」
完全に無視して話を進め、控え室から出ていこうとする久遠と華音。二人の行動を周りの参加者はただ眺めているだけだった。無視された男は顔を真っ赤にし怒鳴り声をあげた。
「ちょっと待てよ、コラァ!対戦相手の俺が挨拶に来てやったのに無視とはいい度胸じゃねぇか!」
ここまで男が言い終わった時、久遠と華音は控え室の扉の前まで来ていた。
「俺様を誰だか知ら「知らないし興味がない」な・・・ガキがぁぁ!」
久遠に遮られた男は一瞬下を向いた。その瞬間に久遠と華音は控え室から出ていった。
「居ねぇぇぇぇ!舐めやがってぇぇぇぇ!!」
男の声が控え室に木霊した。
時間が過ぎ、まずは華音の試合が行われた。
結果から言えば華音の圧勝。しかも、開始直後の瞬殺である。ちなみに、武器は大会側が用意した模擬剣を使用している。
更に、時間が過ぎ久遠の試合になる。
先程、控え室で絡んできた男が久遠の対戦相手である。
「貴様なんか俺に勝てるわけがない!」
と言ってくるが久遠は無視をした。そして、試合開始の合図が響き渡る。
開始直後、男は久遠に向けて一直線に向かってきた。
「死ねぇぇぇぇぇ!」
男が剣を振り下ろす。しかし、久遠はあっさりとかわす。更に、連続で攻撃してくる男。だが、それすらも難なくかわし続ける久遠。
「何で当たらねぇんだよ?」
と言うが男の剣の軌道は読みやすく簡単に避けることが出来る。
(この程度なんだな。あまり時間を使うのは面倒だし終わらせるか。)
その瞬間、久遠は男の剣を避け懐に入り手のひらを男の腹へと押し当てた。
次の瞬間、男は吹き飛び場外へと弾き出された。
沈黙が闘技場を覆う。だが、沈黙もすぐに歓声へとかわる。
その後、試合は滞りなく進み決勝を迎えた。
「華音と試合をするのも久し振りだな。」
「そうですね。昔はよくやっていましたね。」
「もちろん全力だよな?」
「はい、そのつもりです。」
「レイアス、結界を頼む。」
『わかりました。ですが、お二人の全力を長時間受け止めるのは流石に辛いので早めに決着をつけてください。』
と、精霊神レイアスが言うと久遠と華音は頷き答えた。
「「努力する(します)。」」
レイアスが結界を張り終えたと同時に開始の合図がなされる。
二人の試合は、観客を魅力した。戦っているはずなのに舞を舞っているかのように綺麗であり、動作一つ一つが力強く流れる動きをしていた。
結果、決着がつかず大会異例の同時優勝となった。
久遠と華音は、表彰式には出たが城で行われる宴会には参加しなかった。
獣王に参加しない理由を聞かれた久遠は「面倒だから」と答えた。それを聞いた獣王以外の者は罵声を浴びせたが獣王は高々と声をあげて笑った。
獣王の一言により久遠と華音は宴会に参加しなくてよくなり今は宿でカルディナを含めた三人で夕食を食べながら談笑している。
「やはり決着はつきませんでしたか。お父様とお母様の実力は均衡していますから。」
とカルディナは久遠と華音に言った。
そして、翌日。
三人は再び旅に出たのである。




