戦後処理、そしてこれから・・・
遅くなりました。
首都での残念勇者による事件が終息した翌日。久遠達は、誰も居ない宿に泊まっていた。
そんな宿の前に戦い?を生き残った人間や魔族が勢揃いしていた。何故、集まっているかと言うと理由は簡単である。
久遠を王にしようと頼むためである。
実際、昨日久遠と華音、亜里沙が城から出てきた時生き残った者が城に押し寄せ大歓声をあげていた。残念勇者によって操られていた者は、その時の記憶を持っており自分達のしてきたことに意気消沈していた。だが、レイアスによって死んだものが弔われたのを見て自分達を拘束する何かが消えたことを感じ取った。
そんな時に現れたのが久遠達である。
久遠達が目覚めて宿の一階で食事をし外に出ると大勢の人が待ち構えていた。
そして、人族の一人と魔族の一人が全員を代表するかのように前に出た。
「「我々を救って頂きありがとうございます。」」
と、二人は同時にお礼の言葉をいい頭を下げた。
「いや、礼を言われる筋合いはない。多くの人達が犠牲になったからな。」
「ですが、貴方達のおかげで我々は今生きています。ですから、感謝しております。」
と人族の男が言うと周りから「そうだそうだ」と声が上がる。
「で、俺達を待ち構えていた理由はなんだ?」
と久遠が尋ねると今度は魔族の男が答えた。
「我々の王に・・・いや、この国の王になっていただきたい。」
「断る。俺は上に立つような人間じゃない。」
「断ると思ったよ、久遠君。」
「「・・・。」」
華音は、久遠が断ることをわかっていた。だが、亜里沙と楠葉は何故か沈黙している。
「で、ですが我々は貴方に王になっていただきたいのです。勇者に打ち勝つほどの貴方に。」
引き下がらない人族の男と魔族の男。
「俺はある意味で帝国を滅ぼした人間だぞ?それは理解しているか?勇者とは言え国の王を殺したんだ。そんな人間が王になって言い訳がない。この国の人間でもない俺がな。」
「「・・・。」」
沈黙する男二人。そこへ亜里沙が口を挟む。
「兄さん、この話は一時保留にしては如何ですか?」
「保留にしたところで俺の気持ちは変わらないと思うんだが?」
「分かっていますよ。ですが、私達全員で話し合ってもいいのでは?」
「・・・。わかった、明日答えを出すことでいいか?」
「はい、大丈夫です。これでいいですか?」
と亜里沙は男二人を見渡した。二人は渋々だが頷いた。それにより集まった者達は解散し自分達が出来る仕事をする。
残された久遠達は今一度宿へ戻った。
五人は椅子に座った。しかし、空気が重く誰一人として喋らない。
どれくらい時間が経っただろう。沈黙を破ったのはカルディナだった。
「アリサ様、それにクズハ様。お二人はこの街を・・・この国を助けたいのですよね?でしたら、お二人がこの国のトップになればいいのではないですか?」
沈黙を破ったカルディナだが、その言葉に再び沈黙が訪れる。
「私など国のトップになる人間ではない。」
と楠葉が言うがカルディナは溜め息をつきながら言う。
「軍部のトップでいいのでは?クズハ様にはお似合いだと思いますよ?」
「では、私が王ですか?」
と亜里沙が尋ねる。
「別に王でなくてもいいではないですか?アリサ様なら宰相がお似合いだと思いますよ?」
「だが、それでは王が居ないだろう?」
と楠葉が言う。そこに割り込んできたのは華音だった。
「カルディナが言いたいのは、私達が居た世界・・・日本での体制にしたらどうかと言うことかな?」
「流石はお母様ですね、その通りです。この世界にお母様達の様な国は存在しません。何処の国も王が居ます。では、帝国がお母様達の国のようになっても問題はないはずです。」
沈黙する亜里沙と楠葉。そして久遠が話に参加する。
「別に俺はこの国を助けないとは言っていないぞ?復興には力を貸すつもりだが王になるつもりはない。ただそれだけだ。」
久遠は元々復興には力を貸すつもりでいた。最低限の地盤を確立し新たに王をおくつもりだった。
「兄さん・・・。」
「主殿・・・。」
二人の中で何かが変わった。そして、ある行動に移る。それは・・・。
「兄さん、これをお返しします。」
そう言うと亜里沙は左手薬指にはめていた指輪をとり机に置く。
「私もお返しします。」
楠葉も亜里沙と同じ行動を起こした。机には指輪が二つ並べられた。その指輪を見つめる久遠。そして久遠はその指輪を手に取り言う。
「二人の決意は変わらないか?」
「「はい。」」
「そうか・・・。二人とも左手を出してくれるか?」
亜里沙と楠葉は首を傾げながら左手を出した。久遠は、二人の左手の薬指に今一度指輪をはめた。
「俺はまだ二人の夫でいたい。これから離れることになるが気持ちは変わらない。だから、二人が戻ってくるまで待ってるよ。」
二人は久遠の言葉に涙を流した。久遠に嫌われてもおかしくない状況で久遠のとった行動があまりにも嬉しかったのである。
「嫌われてもおかしくないのに・・・。兄さん、ありがとうございます。」
「久遠殿・・・これからも妻としてよろしく頼む。」
二人の顔から笑顔が溢れた。
翌日、決まったことを伝え亜里沙と楠葉は城での業務に取りかかった。
亜里沙は、生き残った者の中で文官向きな人物を選び国の立て直しに取りかかった。
楠葉は武官を集め軍部を纏めあげるように動き始めた。
街に住んでいた者を呼び戻すため各地に使者を派遣し呼び戻した。
久遠、華音、カルディナは街の復興に全力を注いだ。建物を直し、道を舗装しなおし、時には炊き出しも行った。
そして、最低限の地盤が出来上がるのに二ヶ月を要した。
「亜里沙、楠葉。明日、出ていくよ。」
「「・・・。」」
唐突に久遠からもたらされた言葉。しばしの沈黙が訪れる。
「そうですか・・・。そろそろとは思っていましたが。」
「久遠殿達が居なくなると寂しくなるな。」
「落ち着いたら連絡するよ!」
「姉さん・・・。」
「華音殿・・・。」
「お二人とも暴走しないでくださいね?」
「「しません!!」」
カルディナの言葉で一瞬にして場の空気が和む。
「見送りはいらないからな。」
「そうだね。だから、今日で取り敢えずはお別れだよ。元気でね?」
「お二人ともお元気で。」
「この世界で一番栄えた国にしてくれよ?」
「「はい!!」」
「また会えるときに色々と聞かせてくれ。もし、この国が軌道に乗ってやることがなくなったら連絡してくれ。その時にいる場所を教えるから。」
亜里沙と楠葉との別れを済ませた久遠達は宿へと戻りこれからの事を相談した。
「さて、これからどうしようか?」
「取り敢えずは、色々見て回って何処か腰をおろそうかと思っているんだが。」
「腰をおろすにしても無職じゃ駄目だよね?」
「では、定食屋や宿屋など如何ですか?」
「それいいね。やろうよ、久遠君!」
「それもいいな。楽しそうだ!」
こうして、やることが決まった久遠達は眠りについた。
翌日、久遠達は日が昇る前に帝国の首都を旅立った。
亜里沙、楠葉が久遠から離れました。ちなみに、完結はまだしません。




