夫の意思、妻達の想い
すいません、短めです。
帝国の首都まであと半日の所まで来た久遠達。首都がある方角から歩いてくる集団を目撃する。
「兄さん、首都の方から大勢の人が歩いてきてますね。」
「みたいだな。何かあったのか?」
久遠達は、一旦街道の端により集団が通りすぎるまで待った。最後の人が通りすぎようとしたとき声をかけられる。
「お前さん達、首都に向かうのはやめた方がいいぞ。あそこは人が住める場所じゃなくなった。」
「何故ですか?」
「新たに王になった人間が悪政をしだしたんだ。税金が十倍になり、女は王によって連れ去られ、やりたい放題になってしまったんだ。」
「そうか。首都には魔族は居るのか?」
「あぁ、いるぞ。俺達は魔族と共存していたからな。」
久遠達は言葉を聞き驚いた。魔族との共存が確立していることに。
「たが、その魔族達も王には逆らえない・・・というか操られていると言った方が正しいかな。」
男の言葉にアゼディアの教皇のことを思い出す久遠。もしかしら、教皇も操られた魔族によって支配されているのではないかと思い始めた。
「だけど、次の国に行くには首都を通らないといけないんだよね?」
「そうだが、このまま行くと確実に巻き込まれるぞ?」
楠葉の意見も最もなのだが何故か腑に落ちない久遠。しかし、その原因が男の言葉によって打ち消された。
「何でも新しい王は自ら勇者と言っているらしいんだ。そして、復讐すると叫んでいたらしい。」
「「「「「・・・。」」」」」
全員が言葉なく固まる。全員がその人物に心当たりがある。そう、クロウ王国がアゼディアに侵攻した時に居た残念勇者である。
どんな経緯で今があるのかは分からないが、どうやら久遠に復讐するために力をつけたようだ。
「主殿、申し訳ない。」
「いや、楠葉が謝る必要はない。俺が甘かったんだ。」
そう言うと久遠は苦しそうな顔をする。
「兄さん、あんまり思い詰めないでください。」
「そうだよ、久遠君。久遠君には私達がついているんだから。」
「お父様は一人で考えすぎです。いい加減、私達を頼ることを覚えてください。」
優しい言葉をかける華音、亜里沙、カルディナ。その言葉を聞き嬉しく思った久遠は答える。
「ありがとう。悪いが俺の我が儘に付き合ってくれるか?」
「「「「もちろん!!」」」」
四人は笑顔で答えた。
「じゃぁ、後始末をつけに行く。悪いが今回は自分から首を突っ込むからな?」
「久遠君の好きなようにすればいいよ?私達は久遠が行く道に付いていくから。」
「はい、姉さんの言うとおりです。巻き込まれるなら巻き込まれてもいいです。自ら首を突っ込んでもいいです。兄さんのやりたいようにしてください。」
「私達はお父様についていくだけです。ですから、お父様の心が赴くままにお進みください。」
「主殿が進む道に付いていくだけだ。覇道を進むならそれを支えるのが妻である私達だ。」
自分達の気持ちを伝えた四人。久遠はそんな四人を一人ずつ抱き締めた。
この時、既に男は居なくなっていた。集団から置いていかれそうだったため久遠達の話を聞いていなかった。久遠達にしたら聞かれなくて幸いなのだが。
その後、久遠達は首都の近くで野営の準備を行った。何故、首都に入らなかったかといえば何時襲われるか判らないため外で休むためである。
「本日の料理はお父様達の世界の料理を作りました。」
と、カルディナは言うと食事の準備を始めた。出てきた料理は何故かすき焼きであった。そして、ここで問題が起こる。
「すき焼きには生タマゴだよ!!」
「いいや、本来の味を楽しむために卵は無しだ!!」
華音と楠葉は卵を使うか使わないかで揉め始めた。そんな事を気にせず亜里沙は久遠に取り皿に具を入れ渡した。
「どうぞ、兄さん。」
「ありがとうな、亜里沙。」
「無くなったら私がまたお入れしますね。」
「「あぁぁぁぁぁ!!」」
「お母様、クズハ様。食事中ですから静かにしてください。」
「こうなったら・・・久遠君、あーーんして?」
「いや、一人でたべ「あーーん」れ・・・あーーん。」
華音は、箸を久遠の口へと持っていき食べさせた。それを見た楠葉は対抗心を燃やしネギみたいな野菜を口に半分含み久遠へと近づいた。楠葉の行動を見た久遠はどうしたものかと考え始めたが、楠葉に顔を捕まれ問答無用に口に入れられた。
「やはり、恥ずかしいな・・・。」
と頬を赤らめ呟いた。
その後は・・・ご想像にお任せします。
翌日、改めて首都へと向けて歩き始めた。
そして、首都に着いた久遠達が目にしたのはあり得ない光景だった。
それは・・・同族での殺し合いであった。




